1877年に設立された漢学塾「二松学舎」をルーツとする二松学舎大学附属柏中学校・高等学校は、校訓に「仁愛」「正義」「誠実」を掲げ、社会に貢献する人材の育成をめざしています。2011年に中学校を併設し、中高一貫校となって12年目を迎えた今年度、「探究」の名を冠する二つのコースが始動しました。新体制の下、より深化した学びについて、副校長の島田達彦先生と中学校学年主任の森寿直先生に伺いました。
現代に通じる建学の精神を基盤に
「論語」×「探究」で学びを深化
左から 副校長 島田 達彦先生、中学校学年主任 森 寿直先生
同校では開校以来、「人間力の向上」と「学力の向上」を2本の柱として、「論語」と「探究」を取り入れた独自の教育を進めてきました。大きな特色である「論語教育」では、中1から「素読・暗唱」に取り組みます。二松学舎の創立者・三島中洲が生涯の指針とした論語を通して、豊かな心を育むのが狙いです。島田先生は、論語の三徳とされる「知」「仁」「勇」について、「『知』とは単なる知識ではなく、実際に体験して得た知識を意味し、『仁』は人に対する思いやり、『勇』は殻を破って自分で決めたことをやり通すチャレンジ精神を表します。この論語の三徳は、すべての教育活動のベースになっています」と語りました。
伝統を大切に継承しながら、時代に即した新しい学びを追求する同校は、2022年度から「グローバル探究コース」「総合探究コース」の2コース制を導入しました。いずれのコースでも、次世代に必要な「探究力」を強化するためのカリキュラムが採用されています。「建学の理念の一つである『己を修め人を治め一世に有用なる人物を養成す』とは、まず自分(自国)を理解し、同じように他者(他国)も理解し、グローバルな視点を持って社会で役立つ国際人を養成するという意味です。AI(人工知能)による技術革新が進むこれからの時代に求められるのは、まさにこうした人材だと考えています。新コースでは、そのために必要となる『探究力』をより一層高めていきます」(島田先生)
「自問自答」をキーワードに
多種多様な探究教育を実践
探究教育は「学習支援プログラム」「自問自答プログラム」「進路支援プログラム」から成り立っています。学習支援プログラムでは、「三大新聞コラムの読み比べ」や日直による「1分間スピーチ」を毎日実施し、知識・教養を身につけると同時に、他者を理解する力やプレゼンテーションの力を養います。また、毎朝25分間の「モーニングレッスン」、生徒自身が内容を決めて毎日1ページの家庭学習に取り組む「365ノート」などを通して学力を伸ばします。
一方、みずから課題を発見し、仮説を立証しながら課題解決に向かう「自問自答プログラム」では、「田んぼの教室」「古都の教室」「世界の教室」などの多彩な体験学習を実施しています。中学校学年主任の森先生は、「中1の『沼の教室』では、近隣の手賀沼を取り上げ、身近な問題からアプローチします。歴史・文学とのかかわりを学んだり、水質調査をしたり、海外の湖沼と比較したりするという、教科横断的な内容です。そのため、生徒自身が他教科を学習する必要性を実感できるのです」と説明しました。

グローバル探究コースの中3生のうち、希望者はカナダ研修に参加できます
こうして地域から日本全体へ、そして世界へと視野を広げ、中3では3年間の集大成として「探究論文 自問自答」に取り組みます。生徒たちは、自分の好きなテーマに沿って1年かけて探究した成果を約8000字の論文にまとめ、7分間のプレゼンテーションに挑戦します。
また、学年に1クラス設置されるグローバル探究コースでは、SDGs(持続可能な開発目標)を中心としたグローバル教育が行われています。その学びを深める「NISHO GLOBAL PROJECT Jr.」は、四つのプログラムで構成されています。一つ目の「プレゼンテーションプログラム」では、週2回、7時限にSDGsを題材とした「グローバル」の授業があり、世界で起こっている問題の解決策を考えます。二つ目の「特別体験プログラム」では、「コミュニケーションワークショップ」などの体験型学習を、三つ目の「パワーアップイングリッシュプログラム」では、オールイングリッシュの英語集中講座を実施。四つ目の「海外研修プログラム」としては、福島県でのブリティッシュヒルズ研修(中1)、オーストラリア研修・セブ島語学研修(中2・3)、カナダ研修(中3)があります。
学びのきっかけとなる“種”をまき
知的好奇心の芽を伸ばす
高校では、「英字新聞」の作成と「英語プレゼンテーション」を目標に、英語での表現力・発信力の養成に力を注ぎます。森先生は「高2になると全員が『第一志望宣言書』を提出し、自分の求める進路にしっかりと向き合います。やりたいことを自分で決め、『自問自答』しながら興味・関心を持ったことを追い続ける経験は、人生において大きな財産になります」と力強く語りました。
中高時代に打ち込んだ探究活動のテーマを総合型選抜などに生かして、難関大学に合格する生徒も増えているそうです。島田先生は「大学側が探究学習のプログラムを提供し、高校在学中から生徒を育成して入学につなげる総合型選抜入試も一部の大学で導入されています。これからは、学力とともに探究力を身につけ、進路実現に向けた“マイストーリー”を具体的に描いていくことが、大学合格への近道になるでしょう」と強調しました。
中3では各自で資料を作成し、7分間のプレゼンテーション(中間発表と最終発表)にチャレンジします
最後に、受験生の保護者の方に向けて、先生方から次のようなメッセージが送られました。
「1年間の探究活動を終えた生徒からは、『これまで勉強は苦しいものだと思っていたけれど、学ぶことは楽しいとわかり、価値観が変わりました』という声が上がっています。本校では、学びのきっかけとなるさまざまな種をまき、生徒たちの心の奥底にある『もっと学びたい、知りたい』という知的好奇心の芽を伸ばしていきます」(森先生)
「本校の教員もまた、一人ひとりが『学ぶ楽しさ』を知っていて、それを生徒たちに伝えたいというエネルギーにあふれています。本校は、長い時間をかけて浸透した建学の精神が校風となり、生徒たちに受け継がれている学校です。ぜひ、一度足を運んでください」(島田先生)