「個性の尊重と自主自立」を教育方針に掲げる市川中学校・高等学校では、生徒がみずから考え、行動する力を身につけるための行事が充実しています。7月には、新型コロナウイルス感染症の影響で中止になっていた、中1の宿泊研修が3年ぶりに再開。また、10月には「なずな祭」(文化祭)が開催されました。その様子について、サピックス出身の中1生4人と、学年主任の粕谷悠子先生に伺いました。
3年ぶりに中1の宿泊研修を再開
自然に触れながら、交流を深める
左から、 吴沫萱さん(サピックス東京校OG)、遠山 敬梧くん(サピックス柏校OB)、粕谷 悠子先生、河野 美和さん(サピックス海浜幕張校OG)、山﨑 温心くん(サピックス柏校OB)
市川中では、中1生を対象とした宿泊研修を毎年夏休みに開催しています。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年と2021年は中止となりましたが、今年は3年ぶりに再開されました。
7月23日から25日の2泊3日の行程で、富士五湖の一つ、山梨県にある西湖の近くに宿泊。入学して3か月の中1生たちは、生徒同士の交流を深めながら、さまざまな自然体験を楽しみました。
1日目は、団結力を深めるチームビルディングのゲームに挑戦しました。「グループに分かれ、協力しながらミッションをクリアしていくのですが、会話をしないでブルーシートをみんなでひっくり返すというミッションが特に難しかったです」と山﨑温心くんは話します。遠山敬梧くんは、「みんなで手をつないで、『人間知恵の輪』をやりましたが、最初は手がからまって大変でした」と、心を一つにすることの大切さを学んだと言います。
2日目は、軽登山などを行いました。河野美和さんの1組と吴沫萱さんの7組は、午前中に富士山の五合目から宝永火口に向かう登山をした後、午後は「ふじさんミュージアム」と「富士山レーダードーム館」に出掛け、富士山の歴史や気候について学びました。「登山は、ガイドさんについていくのに必死でしたが、景色がとてもきれいだったので、疲れも吹き飛びました」と吴さんが言うように、ハードな行程ながらも楽しかった様子です。河野さんは、「森林限界を超えた、高い木がまったく生えていない状態の場所など、ふだん見ることのできない光景が印象に残っています」と、自然の景色に心を動かされたそうです。
「宿泊研修」では、自然に触れながら、机の上ではできない学びを深めました。研修前には、夏期講習で富士山の事前学習も行ったそうです
遠山くんの3組と山﨑くんの8組は、宝永火口への登山のほかに、「河口湖フィールドセンター」に出掛けました。「富士山が噴火したときに高温の溶岩流が大木を取り囲んで固まってできた、溶岩樹型洞穴を散策し、自然の力を体感しました」と遠山くんは話します。
3日目は、西湖こうもり穴の探検と樹海ハイキングです。こうもり穴は天井が低いため、ヘルメットをかぶってしゃがんだ状態で穴の中を進みます。河野さんは、「地面がぬれていたので、ゆっくりゆっくり歩きました」と振り返ります。樹海では、ガイドスタッフに地形の成り立ちや植物の名前などを解説してもらいました。目の前に広がる大自然からは、学ぶことがとても多かったそうです。
中1生のなかには、小学生のころに宿泊行事を体験していない生徒もいましたが、「生徒たちの楽しそうな表情は、マスク越しでもしっかりと伝わってきました」と、粕谷先生は久しぶりの宿泊研修に確かな手応えを感じています。
「友だちの私服姿を見るのは初めてで親近感を覚え、さらに仲が良くなって楽しかったです」(山﨑くん)、「小学生のころは宿泊行事がなかったので、友だちとたくさん話すことができてよかったです」(遠山くん)、「入学して3か月だったので、まだ話したことがなかった子とかかわりを持つ機会になりました」(河野さん)、「小学生のときよりも自由度が高く、クラスの仲が深まって良い経験になりました」(吴さん)と、宿泊研修を通じて得たものはとても大きかったようです。
先輩とのつながりが深まる「なずな祭」
工夫を凝らしたクラス展示が見どころ

2日間にわたって行われた「なずな祭」。中1生は初めての経験でしたが、在校生や保護者に楽しんでもらうために、クラスで力を合わせて準備に励みました
10月1日・2日には、「なずな祭」(文化祭)が開催されました。2020年は中止、2021年は在校生のみで行われましたが、今年は在校生の家族にも公開され、中1から高2のクラス展示やクラブの展示・公演などで盛り上がりました。
謎解きゲームを企画したのは、吴さんのクラスです。「楽しんでもらうために、射的でヒントが得られるように考えました。外装にこだわり、折り紙を使ってレンガ風にしたのですが、準備に時間がかかって大変でした」と話します。なずな祭のクラス委員長を務めた吴さんは、「最初から最後まで生徒がすべてを決めるという経験は初めてだったので、全員の意見をまとめるのに苦労しましたが、その分クラスの団結力も高まり、達成感がありました」とも振り返りました。
河野さんのクラスと遠山くんのクラスは、それぞれ縁日を行いました。同じ縁日でもクラスによって特色が異なります。河野さんのクラスは、スーパーボールすくい、もぐらたたき、射的を準備しました。「注文していたスーパーボールが前日までに届かなかったり、当日外装が壊れてしまったりと、予期せぬハプニングが続きました。でも、担当以外の生徒も手伝ってくれたおかげで、無事に開催できてうれしかったです」と、アクシデントを乗り越えたからこその喜びがあったと話します。
遠山くんのクラスは、もぐらたたき、千本釣り(くじ引き)、ヨーヨー釣り、射的による縁日です。「ぼくが担当した千本釣りでは、折り紙で作った景品を700個以上用意したのですが、2日目の午前中にはなくなってしまいました」と、予想以上の人気ぶりに驚いた様子です。
山﨑くんのクラスは、お化け屋敷をつくりました。「お化け役の配置を時間ごとに変え、どこから出てくるかわからないようにしました」と話すと、お化け屋敷に3回入ったという河野さんは、「怖すぎて、ずっと叫んでいました!」とコメント。細部にまでこだわった怖さが評判を呼び、すべてのクラス展示のなかから、投票で優秀な出し物を決める「なずな大賞」では、中1ながら見事3位に選ばれたそうです。
どのクラスも楽しく準備が進められたのは、中1の各クラスに高校生が2人ずつ付き、文化祭の進行管理などについてアドバイスをするチューター制度の成果でもあります。「新型コロナの影響で学校見学ができず、文化祭を見たことがないまま中学生になった生徒もいます。そこでこの制度を導入し、先輩の経験を後輩に伝えてもらうことにしました」と粕谷先生は話します。「お世話になった先輩のクラスの展示を見に行くなど、縦のつながりが強くなったと感じます」と中1の4人が口をそろえて言うように、なずな祭は先輩との交流も楽しみの一つとなっています。
入学以来、さまざまな行事に参加してきた中1生たち。自分たちで考えて行動し、時には失敗から学びながら、着実に成長している様子がうかがえました。