国語教育に対する危機感が
導入のきっかけに
副校長 林 宏之先生
森村学園では、予測困難な社会をたくましく生き抜くために、果敢に「挑戦」し、多様な人と協働しながら、世界で「活躍」「貢献」できる人財の育成をめざしています。現在、そのための学びを『イノベーションマインド』のもとに“アカデミックマインド”“グローバルマインド”“テクノロジーマインド”の三つに整理し、中身の充実に努めています。なかでも“アカデミックマインド”に含まれる「言語技術教育」は、あらゆる学びの土台となるため、特に重要視していると、副校長の林宏之先生は言います。
「言語技術教育とは、欧米の母語教育プログラムのことです。日本の国語教育には、欧米と比べると大きな問題があります。それは、読む・聞く・書く・話すという4技能をバランス良く育てられていないこと。従来の国語の授業では教科書を読むことが中心で、ほかの技能の訓練は不十分です。そこで、言語技術の授業では、さまざまな切り口から4技能と思考力を刺激して、情報を分析し、論理的に考え、ことばにする力を養います。母語の力という土台がなければ、コミュニケーション力や分析力、思考力を伸ばすことはできません。また、母語の力が十分でなければ、英語をはじめとする外国語の力を伸ばすこともできません。世界と渡り合える母語の力を持った人財を育てたいという思いから、本校では2012年から、言語技術教育の普及活動を行う『つくば言語技術教育研究所』と提携して、この学びを推進してきました」
言語技術部門の斉藤康晴先生も続けて、グローバル社会における、言語技術教育の重要性を次のように説明します。「日本では論理よりも共感を重視する傾向にありますが、欧米では逆。結論を先に示し、その根拠を論理的に説明することが重視されます。本校でも、国語教育にプラスアルファとして言語技術教育を組み込み、世界に通用することばの力、論理的思考力を育てています」
絵の分析の授業の様子
「何となく」で終わらせない
ことばで考えを表現する力を培う
言語技術部門 斉藤 康晴先生
言語技術の授業は、中1から中3までを対象に、週に2時間行います。扱う技術は大きく分けて、対話・物語・説明・論証・分析の五つ。これらをスパイラル式に学ぶことで、国語や数学といった各教科での学びを、より高度な思考レベルにまで引き上げることができます。
言語技術教育のカリキュラムは多岐にわたりますが、すべての中核となるのが「問答ゲーム」です。これは、「あなたは○○が好きですか」といった問いに対し、「主題文+展開文+まとめ文」のパラグラフ構成で、簡潔に話したり、書いたりする力を鍛えるものです。「結論を先に述べ、その後に根拠を明確かつ簡潔に示します。『何となく』や『微妙』という答えは認めません。最初はうまく自分の考えをことばにできない生徒もいます。それでも、教員はけっして答えを教えません。質問を繰り返して、生徒が自分の力で考えを組み立てられるように誘導します。わたしたち教員も良い質問をしなければならないので、日々学びの連続です」と、斉藤先生は授業の様子を語ります。
カリキュラムの内容は回を重ねるごとにレベルアップします。「空間配列の説明」という分野では、たとえば各国の国旗の柄を、ことばだけで相手がイメージできるように説明します。「最初はとても難しいと感じる生徒が多いようです。形・色・模様など、何から先に伝えれば、相手がその旗をイメージしやすいかをクラス全員で議論します。そして、その議論の結果をもとに、パラグラフ形式の作文にまとめます。作文は3年間で60本程度書き、ルーブリックに基づいて添削して返却します。こうした授業は、小論文を書く力や、プレゼンテーション力の向上にもつながります」(斉藤先生)
「丸本」という課題では、本の登場人物の関係性を図に表すなど、分析の手法を駆使して、1冊の本の内容を“丸ごと”多角的に読み取ります。自分の解釈の根拠は何ページのどの文章にあるのかを徹底的に突き詰めて、論理的思考力を鍛えます。「教科書の内容を漠然と読んで終わるか、それとも分析してその解釈を言語化していくのか。将来役に立つ力へと発展していくのが後者であることは明白です。また、授業では高い集中力が求められるため、積極的かつ主体的に学ぶ姿勢が自然と培われていきます」と、林先生は言語技術教育がもたらす成果について説明します。
物事を分析して伝える力は
一生の武器になる
言語技術教育で学んだことは、大学ではもちろん、社会に出てからも大いに役立つと林先生は言います。「たとえば、航空や鉄道など、交通に関係する会社でも、言語技術教育の導入が進んでいます。目の前の事象を明確かつ簡潔に伝える力がなければ、意思の伝達がうまくいかず、重大な事故につながる可能性があるためです。また、サッカーなどのスポーツ界でも、論理的思考力や議論をする力がなければゲームメークができないという理由から、言語技術に注目が集まっています。言語技術の力があれば、社会でも即戦力として活躍することができるのです」
実際、オープンスクールで言語技術の体験授業を行うと、受験生以上に、保護者の方の反響が大きいそうです。「『こんな教育法があるのかと新鮮に感じた』『もっと早く出会いたかった』など、好評の声を多くいただきました。社会で活躍されている保護者の方だからこそ、言語技術教育の重要性をより実感されたのだと思います」と林先生。生徒からも、「パラグラフの構成に従って文章が書けるようになった」「意見をまとめる力がついた」という声が多く上がっており、林先生は手応えを感じています。
最後に、斉藤先生は受験生に次のようなメッセージを送りました。「言語技術は、論文を書くときや、議論をするときなど、いろいろな場面で役に立ちます。考える力を伸ばしたい、あるいはみずからの意見を発信する力を伸ばしたいと考えている受験生の皆さんには、ぜひ本校で共に学んでほしいと思います」