学習指導要領の改訂で、「探究学習」が重要視されています。晃華学園中学校高等学校では、それ以前から探究的な取り組みを行ってきました。なかでも力を入れているのが中3の「中学課題研究」と高1の「探究論文」で、生徒たちの成果は外部のコンクールでも高く評価されています。高2の学年主任の原田佳伸先生と担任の藤井裕子先生、コンクールで受賞した高2の生徒3人に話を聞きました。
テーマ自由の「中学課題研究」
全員が8000字以上を執筆
左より原田 佳伸先生、Y・Nさん、R・Tさん、M・Kさん、藤井 裕子先生
晃華学園では、主体的に学ぶ力と、新しい課題を発見して次の学びにつなげていく力を養うために、中学から高校にかけて、段階的に探究の芽を育てていく多様なプログラムを用意しています。
まずは「職業学習」(中1)や「地域学習」(中2)、夏休みに行う「プラスαチャレンジ」を通して、調べ方、まとめ方、プレゼンテーションスキル、レポートの書き方などを身につけながら、自分の興味・関心を探っていきます。
なかでも、20年以上前から力を注いできたのが「中学卒業論文」です。これを8年前から、探究学習を見据えた「中学課題研究」に刷新。生徒たちは中3の夏休みに予備論文、3学期に本論文を提出します。テーマは自由で、8000字以上を執筆。高校入学後にさらに磨きをかけて発展・深化させ、「探究論文」として仕上げていきます。「最初はテーマ選びに悩む生徒も多いのですが、この機会にじっくり考えると、自分の好きなことや興味のあることを見つけるきっかけにもなります。教員は生徒の自主性を大切にしながら、アドバイスを行っています」と藤井先生は話します。
中学課題研究をブラッシュアップさせた探究論文は、外部のコンクールに応募し、毎年多くの生徒がさまざまな賞に選ばれています。原田先生は、「自分の研究が評価されることが、自信につながっているようです。この中学課題研究や探究論文が、大学の学部・学科選びのきっかけになった生徒もいます」と、その成果を強調します。また、藤井先生は、「一連の研究によって、生徒の積極性が高まっている」とも話します。「生徒が進んで教員にアドバイスを求めに来ることが増えました。教員が情報を提供しているコンクール以外にも、自分でコンクールを探して応募し、受賞する生徒も少なくありません」
興味や疑問をとことん追究
客観的な視点で物事をとらえる
最終発表の様子。中1からiPadを1人1台持っていることも、プレゼンテーションや資料作成スキルの向上に役立っています
昨年実施された旺文社主催の「第66回全国学芸サイエンスコンクール」では、高2の生徒2人が受賞しました。「自然科学研究部門」で金賞を受賞したR・Tさんの論文テーマは、「臨床検査の精度に関する考察〜polymerase chain reaction(PCR)法は臨床検査として有効か?〜」。中3のときにPCR検査についての報道が盛んになり、「そもそもPCR検査とは何か」「PCR法の臨床検査への応用は本当に適切なのか」という疑問が浮かんだことがきっかけでした。R・Tさんがこだわったのは、PCR検査を実際に行うこと。「臨床検査としての有効性をいかに評価するのか、その方法を自分自身で調べ、可能な限り実践してみようと思いました。実際に検査を行ってみると、検体が混ざらないように注意するなど気をつかうことが多く、とても大変であることがわかりました」と話します。論文を書いていたのは、新型コロナウイルス感染症について、まだ情報が少なかった時期。世間で流れている情報に疑問を持ち、実験や統計分析などを用いて結論を導き出したことが大きく評価されました。
「人文社会科学研究部門」で銅賞を受賞したM・Kさんは、「新聞を通して自分の考えを持つためにできることは何か」をテーマに論文を作成しました。「家で購読している新聞は1紙なのですが、ある社の新聞をなぜ購読しないのかと親に尋ねたところ、『その新聞社の考え方が合わないから』と言われました。新聞社によってそんなにも考え方が違うのかと疑問に思い、テーマに選びました」。実際の検証では、意見が分かれやすい自民党政権の政策などを選び、6社の新聞の縮刷版などからその内容が書かれている過去の社説や一面記事を探して、新聞社の意見が書かれている部分をマーク。時間をかけてじっくりと、各新聞社が自民党政権に肯定的なのか否定的なのかを判断していきました。「自分の力だけで調べて結論を出すという経験は初めてのことでしたが、それを評価してもらえたのはとてもうれしく思いました。これからも社会の出来事に対して、さまざまな立場の考え方を知ったうえで、自分の考えを持てるようになりたいです」と、視野が大きく広がったようです。
また、「サイエンス分野 自然科学研究部門」では、晃華学園高等学校がフジテレビ学校特別奨励賞に選ばれました。
そして、昨年から新たに始まった、トモノカイ主催の「第1回自由すぎる研究グランプリ」で、奨励賞を受賞したのは、同じく高2のY・Nさんです。「1年以上かけて研究をするので、自分の好きなものについて取り上げたいと思いました」と話し、テーマに選んだのは、「リーダーシップ論から見るジャニーズエンターテインメント」でした。現代に求められるリーダー像と、ジャニーズの五つのグループのリーダーを比較して、ジャニーズの人気の理由を探りました。「最初はこのテーマ案で通るのかなと思いましたが、学校も認めてくれて、外部のコンクールでも評価してもらえたので、研究することの楽しさを感じることができました」。自身が好きなジャニーズのグループを、リーダーシップ論という社会的なテーマにつなげて研究したことで、「ユニークかつ柔軟な取り組み」と、審査員から高評価を得ました。一次審査通過後には、PR動画の提出を求められたそうで、「自分のことをアピールするのは苦労しましたが、動画作成が得意な友だちにも手伝ってもらい、最後までやり抜くことができました」と達成感でいっぱいの様子です。
発表会で生徒同士が学び合い
プレゼンのスキルを磨く
中学課題研究と探究論文は書いて終わりではなく、中3の中間発表で同級生と中1の生徒に、高1の最終発表で同級生と中3の生徒に向けてプレゼンテーションを行っています。パワーポイントで要点をまとめ、1人3分という限られた時間のなかで、いかに自分の研究の魅力を伝えられるかが鍵となります。
「研究テーマがエンターテインメントであるため、おもしろく伝えるところと、真面目に伝えるところとのバランスを考えました」(Y・Nさん)、「遠くの席の人にも見える大きさの文字でスライドを作り、検証結果を表にするなど、わかりやすさを意識しました」(M・Kさん)、「中1にはできるだけかみ砕いて話すなど、聴き手に合わせて説明する内容を変えました」(R・Tさん)と、発表を聴く相手のことを考えながら、プレゼンや資料作成のスキルを磨きました。
また、同級生の発表を聞くと参考になることが多いうえ、後輩からは感想や意見が戻ってくるため、他者の考え方や評価に触れる貴重な機会にもなっています。「教員が一方的に教えるのではなく、生徒同士で学び合えるところが、この発表会の良いところです」と原田先生は話します。
このほか晃華学園では、学びの集大成として、地域学習、平和学習、SDGs的な視点などから沖縄の魅力や課題について探究し、校内の新聞や論集にまとめる「沖縄修学旅行」(高2)も実施しています。中高6年間で継続的に探究学習を行うことで、生徒たちは自主的に学ぶ姿勢を身につけ、未来を切り拓く力を着実に伸ばしています。