挑戦するキミへ
Vol.18
身近になりつつある推薦型入試
「得意」を伸ばして“スペシャリスト”に
大学入試の多様化が進み、私立大学はもちろん、国公立大学においても募集人員のうち、学校推薦型選抜や総合型選抜の割合を増やすところが増えています。全大学生の半数はこのような一般選抜以外の方式で入学しているというデータもあるほどです。保護者世代とは大きく様変わりしている現在の大学入試を、柳沢先生はどう見ているのでしょうか。学校推薦型・総合型選抜の意義やメリット、早期にキャリアを意識することの重要性についてアドバイスします。
文責=柳沢 幸雄
保護者世代とは異なる大学入試事情
マッチングが入学後の伸びを左右
柳沢 幸雄
やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。
このところ、私立大学のみならず、東京大学をはじめとする難関国公立大学でも、学校推薦型選抜や総合型選抜が続々と導入されています。いまや一般選抜に並ぶ身近な選択肢の一つになっているのです。
ここで一度、それぞれの入試方法について整理してみましょう。まず、学校推薦型選抜は、いわゆる推薦入試。大学の求める特技や能力がある人物かどうか、高校の評定平均が一定の水準にあるかどうかが合否に直結します。一方、総合型選抜は、昔でいうところのAO(アドミッションズ・オフィス)入試です。受験生が大学の提示する条件(アドミッション・ポリシー)に合う人物かどうかを、面接や小論文などで判断します。
さて、AO入試と聞いて、保護者の皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。勉強しなくても入れる、消極的な選択肢だととらえる方も少なくないかもしれません。以前は中堅以下の大学が広く学生を集めるための選抜方法としての色合いが濃く、難度設計がしっかりなされていなかったからでしょう。
しかし、今は違います。大学側は、アドミッション・ポリシーを明確に打ち出し、それに対応したアカデミックプランを実践することが求められるようになっています。一方の受験生は、面接や小論文などを通じて、自分がどういった得意分野を持つ人間なのか、それがいかに大学のアドミッション・ポリシーに一致するのかをアピールすることが不可欠となりました。いわば、大学と受験生のマッチングが、より重視されるようになってきたわけです。
実は、一般選抜での入学者と、学校推薦型・総合型選抜での入学者とでは、一般的に後者のほうが入学後の伸びが大きいといわれています。それは、大学側と学生側の描くビジョンが合致しているからといえるでしょう。
“ゼネラリスト”から“スペシャリスト”へ
求められる人材が変化
そもそもなぜ、日本では一般選抜が主流だったのでしょうか。その理由は、主要教科すべてをまんべんなくカバーできる“ゼネラリスト”が長く社会に求められてきたことにあります。歴史を振り返ると、日本は他国が生み出したものを忠実に模倣し、巧みに改良する、いわゆる“二番煎じ”で成長してきました。そこにはとっぴな才能よりも、与えられた課題を正しく処理する力が必要だったのです。しかし、ゼネラリストには新しいものを生み出す力はありません。一時期は飛ぶ鳥を落とす勢いのあった“二番煎じ”にもやがて限界が訪れ、その結果が「失われた30年」につながったのだとわたしは考えています。
それに引き換え、アメリカはどうでしょうか。この30年でGAFAと呼ばれる新進気鋭のIT企業が台頭し、それまでになかったビジネスモデルで巨大な富を生み出しました。アメリカがこのような成功を収めることができたのは、“スペシャリスト”を育てる国だからです。アメリカの大学入試もまた、総合型選抜に近い手法で行われます。抜きんでた才能を持ち、世の中に新しい価値を生み出すスペシャリストを育てるには、やはり「好きなこと」「得意なこと」を伸ばす以外に方法はないのです。
「好き」「嫌い」「得意」「不得意」で
めざすべき方向性を把握しよう
わたしは、キャリアについて生徒に話をする際、「好き」「嫌い」を横軸に、「得意」「不得意」を縦軸にして、簡単なマトリクスを作るように指導しています。そうすることで、自分の「好きで得意」「得意だけど嫌い」「好きだけど不得意」「嫌いで不得意」が可視化できるからです。
この際、「嫌いで不得意」なことはあきらめて構いません。「嫌いで不得意」なことを職業に選ぶ人はいませんし、仕方なく選ぶことはあっても、長く続けられるものではないからです。いうまでもなく、最も大切にすべきなのは「好きで得意」なことです。次に「好きだけど不得意」なことですが、これは周りにいる得意な子を見つけて、まねしてみることが突破口になります。そうやって、自分の適性や将来の進路を意識させるわけです。
昔は、絵を描くのが得意な人がめざす職業といえば、画家くらいでした。しかし今はどうでしょう。イラストレーター、デザイナー、アニメーターなどさまざまな選択肢があり、「得意」を仕事につなげやすい時代になってきています。その意味でも、日本の大学入試制度が、学生の個性を重視する方向にシフトしつつあることは、非常に好ましい動きではないでしょうか。
学校推薦型選抜や総合型選抜の拡大によって、自分の得意分野を伸ばしてくれる大学を見極め、早くから明確なキャリアビジョンを描くことは、今後ますます重要な課題になります。それは、大学合格への近道であると同時に、結婚、子育てといった近い将来起こりうるライフイベントに備えた、しなやかなキャリア構築のためにも、必要不可欠な作業といえるでしょう。これらの制度を上手に利用しながら、自分の適性とマッチした大学で才能を伸ばし、この国から多くのスペシャリストが生まれてくれることを期待しています。
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