挑戦するキミへ

子どもの成長は6年ごとに分けて考え、
「手は離しても目は離さない」を心がける
子どもの年齢が上がるにつれて、難しくなってくるのが親子間のコミュニケーションです。これまでのように素直に話を聞いてくれなくなったり、反抗的な態度が目立ったりするのは、けっして悪い変化ではありません。それは自立へ向かおうとする成長の証しであり、同時に未知の世界へ踏み出す不安の表れでもあると柳沢先生は言います。多感な時期を迎える子どもたちに対し、保護者にできることは何でしょうか。「手は離しても目は離さない」を基本に、良好な親子関係を築くポイントについて、柳沢先生がアドバイスします。
文責=柳沢 幸雄
教育の役割は保護者から学校へ
一定の距離を置き、健全な子離れを
柳沢 幸雄
やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。
子どもの成長は、おおよそ「6年ごと」に区切って考えることができます。まず、生まれて6歳ごろまでの「乳幼児期」。保育園・幼稚園で、初めて協調性や社会性を学ぶ時期です。この期間は、子どもの教育のほぼすべてを保護者が担います。
次の6年間は「初等教育期」です。小学校で基本的な読み書きや計算を学ぶと同時に、時間割に沿って行動する、授業中は静かに話を聞くなど、学習の基本を身につける段階で、教育の比重は保護者から学校へと移行していきます。そして、次の6年間が「中等教育期」です。この期間は、一人ひとりの個性が顕在化し、自立へ向けた準備が本格化します。この時期に起こる最大の変化は、親の影響力が急速に小さくなることです。子どもは精神的に親から離れようとし、教育の役割は学校の教員、あるいは先輩や友人へと移っていきます。
このように、教育に占める親のウエートは、子どもの成長とともに徐々に低下していくものです。にもかかわらず、小学校時代と同じように細かく干渉し続ければ、親子の間には大きなすれ違いが生まれてしまいます。中等教育期に求められるのは、管理ではなく距離感。「いかに手を掛けすぎないか」を意識することが、健全な子離れへの第一歩なのです。
信頼できる友人は精神的な支柱になる
親は“遠くから観察する”存在に
この時期に大切なのは、「手は離しても目は離さない」こと。特に、子どもの友人関係については、注意深く見守っておく必要があります。
そこで、わたしがお勧めしたいのは、おいしいものを用意して、定期的に子どもの友人を自宅に招いてみることです。そうすれば、これまで一緒に遊んでいた友だちの顔ぶれが急に変わっていないか、友だちとの会話のなかで子どもに不自然な言動がないかを、さりげなくチェックできます。そこで安定的な人間関係を築けていることがわかれば、それで十分なのです。対人コミュニケーション能力は、勉強して身につくものではなく、大人が「こうするんだよ」と手取り足取り教えるものでもありません。信頼できる友人がいるかどうかは、学校生活の充実度のバロメーターとしても参考になります。
親から離れた子どもたちが次に指標とするもの、それは同級生や先輩といった同年代の存在です。多感で不安定な中高時代は、大人には打ち明けられない悩みも多いもの。そんなとき、信頼できる友人や先輩の存在は、子どもにとって大きな精神的支柱になるのです。自分にはない価値観や能力、人間性にあこがれを持つこと、そして、その人を「越えたい」と思って努力することが、子どもに大きな成長をもたらします。
将来の理想と現実をうまく接続させ
子どもの不安を払拭するのが親の役割
その一方で、保護者にしか担えない教育もあります。将来、子どもが親元を離れ、真の意味で自立して生きていくためには、一般的な金銭感覚や生活の実感を理解することが欠かせません。それを具体的に伝えられるのは、同級生でも先輩でもなく、日々の生活を共にしてきた親だからです。
先日、北鎌倉女子学園では、テレビドラマ化もされた朱野帰子さんの小説『対岸の家事』を題材に、生徒が考えたことを作文にまとめるという課題を出しました。この作品には、子育て中の専業主婦、キャリアウーマン、シングルマザー、育休パパなど、さまざまな立場の人物が登場します。物語のどこに共感し、どこに違和感を覚えたのかを文章として整理するなかで、自分自身の将来像や理想のキャリアを具体的に描いてほしいという狙いがありました。
すると、生徒たちは自然に自分の親に話を聞くようになりました。実際、親はいちばん身近な人生の先輩であり、「どんな考えで今の生き方を選択したのか知りたい」と思うのは、ごく自然な流れといえるでしょう。
そのなかで、生徒たちは「昔は今よりもジェンダーギャップが大きく、出産後にキャリアを続けることが難しかった」「きょうだいが同じ保育園に入れず送迎に苦労した」といったリアルな体験談に触れ、専業主婦にも働く母にも、それぞれ異なる苦労があることを知りました。将来への理想と現実は、学校の学びだけでは結びつきにくいものですが、それが親の経験や価値観に触れることで具体性を帯び、自分自身のキャリアをより現実的に考えるきっかけとなったのです。
子どもが親に反抗的な態度を見せるのは、大人として自立したい気持ちと、それに伴う不安感が心の中でせめぎ合っているからです。だからこそ親に求められるのは、みずからの生き方を通して安心感を示すこと。もし、お子さんがアドバイスを求めてきたら、手を止めて真剣に耳を傾けてあげてください。不安が和らいだとき、子どもたちは再び前を向き、一回りも二回りも大きく成長していくことでしょう。
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