子育てインタビュー
わが子の中学受験を体験した作家からのアドバイス
チャレンジする勇気があれば
失敗さえも人生の糧になる
藤岡 陽子さんFujioka Yoko
(ふじおか ようこ)●1971年、京都生まれ。同志社大学文学部卒業。報知新聞社にスポーツ記者として勤務。退社後、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。慈恵看護専門学校を卒業し、看護師資格を取得。2006年、『結い言』で第40回北日本文学賞選奨を受賞。2009年、『いつまでも白い羽根』(光文社)でデビュー。主な著書に『トライアウト』(光文社)、『手のひらの音符』(新潮社)、『海とジイ』(小学館)、『きのうのオレンジ』『金の角持つ子どもたち』(集英社文庫)、『空にピース』(幻冬舎)など。
受験生活は長きにわたります。子どもの成長を実感する一方で、なかなか成果が出ず、親子でつらい思いをすることもあるでしょう。作家の藤岡陽子さんも、保護者としてそんな体験をされたおひとりです。つらいこともあるけれど、何かに挑んだ経験はその後の人生の糧となる―。みずからの体験をもとに『金の角持つ子どもたち』(集英社文庫)を上梓した藤岡さんから、中学受験に挑む子どもたちと保護者の方々に応援メッセージをいただきました。
「勉強は自分のためにするもの」
その思いが子どもを成長させる
広野 藤岡さんの小説『金の角持つ子どもたち』は、中学受験をテーマにしています。この作品を執筆されたきっかけは何でしょうか。
藤岡 わたしには子どもが2人いて、2人とも中学受験をしました。1人は第一志望校に不合格となり、地元の公立中学に進学しました。もう1人は第一志望校に受かり、私立の中高一貫校に通っています。不合格と合格の両方を経験しましたが、わたしは2人に中学受験をさせて本当によかったと思っています。
中学受験の良さは、実際に経験した保護者の方やお子さんは実感しているでしょうが、世間一般にはそれが伝わり切れていない部分があります。「中学受験って大変そう」と思われがちですが、実は子どもたちは日々のなかで塾通いを楽しんだり、「今日は小テストで満点だった」といった小さな喜びを感じたりしているのです。中学受験を通して、子どもたちはさまざまなことを体験し、学んでいきます。わたし自身が実感した、こうした中学受験の良さを多くの方に伝えたいという思いから、この本を執筆しました。
広野 「なぜ中学受験をするのか」と子どもに聞かれたとき、表面的な目標の話はできても、もっと深い本質について説明するのは意外と難しいものです。ところが、この作品は、受験が子どもにとって一生の財産になるという趣旨で書かれています。その点がまさに、わたしたちの思いと合致していて、非常に共感しました。
藤岡 ありがとうございます。物語に登場する進学塾の「加地先生」は、わが子がお世話になった塾の先生方がモデルになっています。先生方は、「なぜ勉強するのか」ということをいつもことばでしっかりと伝えていました。その先生方を、塾のクラスの全員が信じることで、どんどん力を伸ばしていったようです。やはり、ただ「勉強しなさい」「偏差値を上げなさい」「合格をめざしてがんばれ」と言うだけでは、子どもは本気になれないものです。「この人の言うことは信じられる」「勉強は自分のためにするものだ」という強い思いがあればこそ、がんばることができるのではないでしょうか。
広野 おっしゃるとおりで、子どもに「自分で問題を解きたい」「みずから物事を解決したい」という意欲を持たせることが大切です。そのようなモチベーションを伸ばしてこそ、努力の積み重ねが可能になり、実力は向上していきます。小手先の対策や知識の詰め込みに終始しても、子どもの力はなかなか伸びません。
結果をどう受け止めるかによって
その後の人生が大きく変わる
サピックス小学部
教育情報センター 本部長
広野 雅明
藤岡 この作品には、勉強そのものをポジティブに伝えたいという思いも込めました。勉強には、スポーツなどと違って平等な面があります。たとえば、集団スポーツだといくら練習しても、上手な子しか試合に出してもらえません。補欠の子は試合に出られないので、どれだけ自分が伸びているかということがわかりづらいのです。でも、勉強だと誰でもテストを受けられ、その都度、自分ががんばった結果を確認できます。そこが勉強の魅力の一つだと考えています。
広野 勉強は、がんばった結果がテストの点数として如実に表れます。点数が悪かったときは、できなかった原因を見つけやすいため、弱点克服の対策を立てやすいという面もあります。努力したことが報われやすいので、それが子どものモチベーションを高めるようです。もちろん、本番の合否は運に左右される部分もありますが、結果はどうであれ、勉強で積み上げたものが本人の人生において大きな財産になっていくことは間違いありません。
藤岡 中学受験では、がんばれなかったり、運が悪かったりして失敗したことさえも糧となります。娘は中学受験ではまじめに取り組めず、志望校に不合格となりました。しかし、悔しい思いをしたことで、中高6年間をかけて本気で勉強に取り組み、その結果、大学受験では第一志望校への合格を果たしました。受験ですから合否は気になりますが、大切なのは受験にどう挑み、結果をどう受け止めるかです。それが後の人生につながっていくということを、すごく実感しています。
広野 サピックス小学部が発足して30年以上がたち、保護者の方のなかにもサピックスの卒業生が増えてきました。卒業生からは、中学受験で一生懸命にがんばったことが今の自分につながっている、だからわが子にも経験させたいと、よく伺います。また、先生や仲間との絆が印象深かったと、懐かしむ方も少なくありません。
藤岡 塾の先生というのは、先生方が思っていらっしゃる以上に、親や子どもから頼りにされている存在なのです。わたしも塾の先生とは、ちょっとしたひと言に救われ、それが杖のように支えになるという関係性がありました。また、塾の友だちの存在も見逃せません。「あの子はすごい」と、お互いに刺激し合いながらみんなで伸びていきます。今回の作品にも書きましたが、中学受験は団体戦という側面もあるのではないでしょうか。
広野 最近の子どもは、クラスのみんなで一緒に合格しようという意識が特に強いですね。そうした子どものがんばる気持ちをどう盛り上げていくか、そこが講師の腕の見せどころです。一人ひとりに成長のペースがあり、大きく伸びる時期は違いますから、むやみに他人と比較するのではなく、長い目で見ながら、スモールステップで伸びていく姿を段階ごとに評価していくように心がけています。
- 22年9月号 子育てインタビュー:
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