貨幣ができるまで
「博物館エリアからチェックしてみよう。館内はいくつものコーナーに分かれていて、この一画では貨幣の製造工程を紹介しているよ」
「なるほど、貨幣は材料を溶かして、平たく広い延べ板にし、型を抜いて、縁を付けて、模様を刻んで造るのか。型抜きをした後の、穴だらけの延べ板も並んでいるぞ」
「わあ、こっちは偽造防止技術の解説だ。貨幣のデザインは社会の変化などに合わせて新しくなるけど、現在の500円玉は令和3年に発行されたものが最新版。複数の金属を組み合わせるなど、デザインをより複雑にして、偽造を難しくしたんだね」
「大きな原版の模様を、貨幣の金型に縮小して彫り込む『縮彫機』もあるよ。これは明治時代の機械なんだね」
日曜日が休みになったのは造幣局のおかげ!?
実は造幣局は、日本でいち早く「日曜休業」を取り入れた組織なんだ。明治政府が誕生し、近代化を進めるに当たって、政府が優先したのは貨幣制度を整えること。造幣局は1871(明治4)年に創業を開始し、いち早く外国人技師を雇って、貨幣造りを学んだんだね。キリスト教徒である技師たちは、6日働いて7日目を休みとしていたから、造幣局でもその日を日曜日として休みにしたんだ。
貨幣の歴史
「こっちは日本の貨幣制度の歴史がテーマだね。あ、7世紀後半から10世紀くらいまでの律令時代の貨幣だ。国内最古の富本銭や、有名な和同開珎も展示してあるぞ」
「これは江戸時代の大判・小判だね。きれいだけど、江戸時代も後期になると、幕府は財政難になって、材料の金や銀を節約。それで大判・小判の質もどんどん落ちてしまったんだ」
「そして、明治維新が起こって、政府は貨幣制度を一新。単位は『円』『銭』『厘』、計算は十進法、品位も必ず一定としたんだね」
「えっ、第二次世界大戦中は金属が足りなくなって、陶製、つまり瀬戸焼や有田焼の貨幣も造られたの? でも結局、この陶貨は流通しなかったんだね」
「見て、貨幣袋だって。完成した貨幣はこの指定の袋に詰めて、日本銀行へ届けるのね。持ち上げてみると…。うわっ、すごく重い!」
「袋に詰める貨幣の枚数は決まっていて、500円玉なら2000枚。重さは14.2kgか。1円玉は5000枚で5kg。ほかの貨幣は4000枚ずつで、15kgから19.2kgだね。重いはずだよ」
「あれっ、こっちの木箱は昔の千両箱の復元なの? ひゃあ、これも約20kgなんだ。泥棒が盗んだ千両箱をかついで屋根の上を走るなんて、実際にはできないよね」
「ほかにもフォトスポットやクイズ端末、手持ちの貨幣の傷み具合を調べる診断機などもそろっているね。いろいろ試してみなきゃ」
プルーフ貨幣の製造工程を見学
「まだまだ見どころはいっぱいだけど、ひとまず博物館エリアを出て、工場エリアへ行ってみよう。この2階の連絡通路を進めばいいんだね」
「造幣局の各工場は役割が決まっていて、さいたま支局は貨幣に模様を刻む工場。普通の貨幣も造るけど、メインはコレクションや記念品用に特殊な技術を用いたプルーフ貨幣なんだ」
「プルーフ貨幣は表面をぴかぴかに磨いたうえ、模様も2回以上刻むのか。ちなみに、ここでは勲章も造っているそうだよ」
「あ、ガラス張りの廊下が見えてきた。この向こうで、実際にプルーフ貨幣を造っているんだね。見るのが楽しみ!」
酸洗浄・バレル研磨
「さあ、見学スタートだよ! プルーフ貨幣は『美しさ』が重要。模様を刻む前の丸い『円形』は、酸で汚れを落としておくんだね」
「酸洗浄が終わったら『バレル研磨』だ。樽型の機械にステンレスボール、円形、研磨剤を入れて揺すり、摩擦で円形を磨くんだね。すごい。研磨剤がぶくぶく泡立ってる!」
「わあ、職員さんが磨いたばかりの円形を、ガラス越しに見せてくれたよ! 本当に鏡みたいにぴかぴかだね。ありがとうございます!」
「おっ、研磨前と研磨後の円形のサンプルを発見。こうして並べてあると、輝きの違いがはっきりわかるな」
圧印
「次は円形に模様を刻む『圧印』だ。ちりが入らないように、この一画は医薬品工場レベルのクリーンルームにしてあるんだって」
「貨幣の模様が入った金型の極印も、光沢のあるものを使うのね。ロボットアームで円形をプレス機にセットしたら、ぎゅっとプレス!もう1回!こうやって連続プレスすると、円形に模様がきれいに刻まれるんだって」
「しかも完全な機械作業じゃなくて、職員さんが目で確認しながら、1枚1枚プレスしているよ。本当に手間暇をかけているんだなあ」
「だからプルーフ貨幣は、一日に1000枚くらいしか造れないんだね。1分間に約750枚製造する日常使いの貨幣とは、すごい差だなあ」
防錆塗装・印刷
「圧印が済んだら、今度は錆止めだよ。特殊な樹脂を全面にスプレーして、表面が曇ったり、変色したりするのを防ぐんだね」
「通常のプルーフ貨幣はこれで完成。でも造幣局はさまざまな記念貨幣も製造していて、色をつけたカラーコインもあるんだ。ここでは印刷の様子も見られるぞ」
「ふうん、貨幣の印刷工程では色をつけるために、筆の代わりにシリコンパッドを使うんだね。パッドに図案どおりに色を転写して、それを貨幣に押し当てるんだ。おもしろい仕組みだなあ」
「これが本物のシリコンパッドか。ふむ、ぷにぷにしていて手触りがいいね。この柔らかさなら、表面が傷つくこともなさそう」
見学を終えて…
「実はぼく、今まで使い道ばかり考えていて、お金そのものに目を向けたことはなかったんだ。観賞用の特別な硬貨があるなんて初めて知ったし、今日は発見の連続ですごく楽しかったよ」
「わたしも! それに製造ラインは三つあって、プルーフ貨幣以外のラインもチェックできたよね。通常貨幣は高速製造、勲章造りは手作業で、それぞれ雰囲気が違っておもしろかったな」
「造幣局は全国に3か所あって、さいたま支局はいちばん新しい施設なんだ。池袋にあった東京支局が、2016年にここに移転してきたんだね。博物館の展示品は、東京支局のものも引き継いでいるんだよ」
「博物館も見応えがあったよね。記念貨幣や勲章もたくさん並んでいて。アニメ系のタイアップもののメダルは、ぼくもほしいと思ったな」
「それにオリンピックのメダルや国民栄誉賞の盾も手掛けているし、貴金属の品位試験も行うんでしょ。造幣局の業務って意外と幅広いんだね」
「ちなみに造幣局の本局は大阪で、八重桜の並木道『桜の通り抜け』でも有名。広島支局は、材料を溶かして延べ板にする溶解工程が見られる唯一の工場なんだ。機会があれば、ほかの2局も見学するといいよ」
「そうだね。溶解の工程なんて迫力がありそう」
「大阪の本局は、博物館も立派だって聞いたよ。ぜひとも行ってみなきゃ!」
ミュージアムショップもチェック
「ミント(mint)」は英語で「造幣局」という意味がある。博物館エリアの1階には、その名を取ったお土産コーナー「ミントショップ」があるんだ。店頭にはプルーフ貨幣セットのほか、500円玉の偽造防止技術を活用した記念メダル、貨幣をかたどったせんべいやグミなど、造幣局ならではのアイテムが勢ぞろい。帰る前に、ぜひ寄ってみて。
INFORMATION
造幣さいたま博物館
●開館時間
9:00 ~ 16:30(入館は16:00まで)
●休館日
水曜、年末年始(ほか臨時休館、臨時開館あり)
※工場見学は月曜・火曜・木曜・金曜のみ
●入館料
無料
所在地:埼玉県さいたま市大宮区北袋町1-190-22
TEL:048-645-5899
H P:www.mint.go.jp/enjoy/plant/plant-saitama/plant_visit_museum_saitama.html
交 通:JR宇都宮線・高崎線・京浜東北線「さいたま新都心」駅下車、東口より徒歩約12分