さぴあ仕事カタログ
事故や災害などの現場に駆けつけて、チームワークを発揮しながらけが人や病人を助ける救急救命士。高度な医療知識と技術、冷静な判断力と迅速な対応力が求められる職業です。救急救命士をめざすにはどうしたらいいのでしょうか。帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科で救急救命士を養成している菊川忠臣先生にお聞きしました。
救急救命士は
どんな仕事をしているの?
帝京大学医療技術学部
スポーツ医療学科
救急救命士コース
救急救命士 博士 (健康科学)
菊川 忠臣 講師
救急救命士は、救急現場でけが人や病人の救命処置を行う専門職で、その多くは消防署に所属し、救急隊員として活動しています。
救急車で救急現場に駆けつけると、まずけが人や病人の状態を評価し、通信端末を使って報告した医師の指示の下で、気管挿管・点滴・薬剤投与などの救急救命処置を行います。さらに、救急車で病院へ搬送している間も容体を観察し、必要な処置を続けます。特にけが人や病人が心肺停止状態の場合は、適切な救急処置を迅速に行うことで救命率が上がるので、救急救命士の役割はたいへん重要です。
気管挿管は、呼吸困難などで人工呼吸が必要な患者に対して行う処置で、空気を肺に直接送るために、口の中からチューブを入れて気道を確保します。一般の救急隊員は行うことができず、かつては医師のみに認められていた医療行為でした。しかし、救急救命士による気管挿管が可能になり、患者さんの命を救うための選択肢が広がりました。また、心肺停止の患者に対する蘇生のための血管へのアドレナリン投与も、一般の救急隊員は行えず、救急救命士だけに認められている医療行為です。
以上のような業務に加え、救急救命士は地域住民を対象とする講習会などで、応急手当の方法やAED※(自動体外式除細動器)の使用方法を指導することもあり、地域全体の救急医療体制の向上に貢献しています。
また、救急救命士には、消防署の救急隊員として働くほかに、次のような活躍の場もあります。
◎医療機関/病院の救急外来や救急センターなどで、医師や看護師と連携して処置を行います。
◎民間企業/救急搬送サービスを提供する会社、スポーツイベントの救護を担う会社、総合警備保障会社、医療機器メーカーなどでも、救急救命士の資格を持った人が活躍しています。
◎自衛隊/災害が発生した際や訓練時に、救助や救護活動を行います。
◎海上保安庁/海上での救助活動や船舶内での救急処置を担当します。
救急救命士になるには?
救急救命士として仕事をするには、厚生労働大臣が認定する免許(国家資格)を取得しなくてはなりません。この国家試験の受験資格は、次の二つの道のどちらかで得ることができます。
(1)救急救命士の養成課程がある大学や専門学校で所定の課程を修了する。
(2)まず消防官になり、5年以上または2000時間以上の救急業務を経験。さらに養成所で6か月以上の講習を受ける。
※現在、年間3500人ほどの受験者のうち、65%程度が(1)からの受験者です。
救急救命士に求められる資質は?
まず、大切なのは「人を助けたい」という気持ちが強いこと。日常生活でも、困っている人がいたら、助けたり手を差し伸べたりする気持ちがある人が向いています。次に、冷静に正しい判断ができること。救急の現場では、時間も人も道具も限られますが、そうした緊急を要する状況でも冷静な判断が求められるからです。医療の世界は日進月歩ですから、医療に興味があり、学び続ける姿勢も大切です。そして、体力も必要です。救急車は季節や時間を問わずに出動依頼があり、重い器材を運びながら患者さんを搬送しなければなりません。
将来、救急救命士になりたいと思う小学生の皆さんは、コミュニケーション能力を養うために、人の話をよく聞くように心がけてください。患者さんの話を聞いて、病気やけがの状態を判断するのも、救急救命士の大事な仕事だからです。また、医療だけでなく社会のさまざまなことに幅広く興味を持ち、スポーツを楽しむなど、丈夫な体づくりを心がけてほしいと思います。そして、困っている人がいたら、思い切って声を掛けて、「自分ができることをしよう」という気持ちを大切にしてください。
救急救命士は人命にかかわる現場で活動することが多いため、失敗によって学ぶのが難しい職業です。そのため、帝京大学の救急救命士コースでは、さまざまなケースを想定して実習をするシミュレーション教育に力を入れています。また、多様な職種の医療従事者と一緒に働くうえで必要な「心」を育てる教育も大切にしており、外国人の患者の文化的背景を理解するのに必要な国際教育にも力を入れています。同じキャンパス内には大学の附属病院があるので、医師や看護師をはじめとする医療従事者とかかわって、チーム医療を学ぶ環境が充実しているのも特徴です。
実習室で蘇生(そせい)用マネキンをストレッチャーに寝かせ、バックバルブマスクを使った人工呼吸の指導をしています
実際の現場と同様の器材。床に置かれているオレンジ色の機械は、救急隊が使用するAED※(自動体外式除細動器)

※AED…血液を流すポンプ機能を失った状態になった心臓に電気ショックを与え、正常なリズムに戻すための医療機器
- 「第72回 救急救命士」:
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