注目の一冊
『あの空にとどけ』
祖父は言った
「生きてれば悔やむことばかり。
でもな、前に進まにゃならん」
彩音の3歳違いの弟、逢音は、生まれつき病弱で学校も休みがち。でもおじいちゃんが住む阿坂村に行くと元気になって帰ってきます。逢音はこの地に伝わる阿坂太鼓が好きで、おじいちゃんにポリバケツで太鼓を作ってもらうほど。そんな弟の面倒をかわいく思ったり、時にはうるさく思ったりしていた彩音。でもその当たり前の生活に突然、終わりがやってきます。彩音のちょっとした不注意で、逢音が交通事故で亡くなってしまったのです。突然の悲劇に両親も彩音も立ち直れませんでしたが、おじいちゃんが体調を崩したことを機に、家族で一からやり直そうと阿坂へ引っ越すことになります。彩音はそこで弟と同じ名前の少年、蒼と知り合い、学校の太鼓クラブに誘われます。
長野県の温泉郷を舞台に、地域芸能の太鼓を通して弟への思いと向き合い、悲しみを乗り越えていく主人公の姿を描きます。阿坂太鼓、わらでできた魔よけの神様など、地域の伝承文化が色濃く残る地で、蒼や祖父の話を通して、生前の弟が言ったことば、描いた絵にどれも意味があったことを知る彩音。自分が知らなかった弟の姿に気づいた彩音が、悲しさ、悔しさ、そして強さを太鼓にぶつける音が、読む人の胸に響いてきます。
『空となかよくなる天気の写真えほん
くものしくみ』
形もでき方もさまざま
写真でわかる雲の不思議
空にふわふわした雲が浮かんでいると、乗ってみたくなります。でも残念ながら雲には乗れません。湯気をつかめないのと同じで、つかむこともできません。雲のもとは小さな水や氷の粒。それらが集まって、上向きの風に支えられて空に浮かんでいるのが、雲なのです。
なぜ雲の色は白なのか。なぜ赤や灰色に変わるのか。雲の種類の違いはどのようにしてできるのか。晴れ・くもりなどの天気はどのようにして決まるのか。小さな子どもたちにもわかるよう、不思議な雲について、ていねいに答えてくれます。読めば雲を見るのが楽しくなります。
『まてまて、ごめん。』
どうする?この世から
「ごめん」がなくなったら
友だちが描いた絵を間違って破ってしまった、そうた。謝ろうと思いますが、なかなか「ごめん」が言い出せません。それなら手紙にと、「きのうはごめん。そうた」と書きました。ところがびっくり。目を離したすきに「ごめん」の文字が消えたのです。
いろいろな理由で、人と人との間でやり取りされる「ごめん」。その「ごめん」が消えてなくなったら、どうなるでしょう。謝りたいのに謝れない。すごく困ります。そんな意表をつくおもしろさと、自分の気持ちに向き合う大切さが伝わる、魅力あふれる絵本です。
『ぼくはクルルをまもりたい』
守ってはいけない命、
なんてあるの?
「アライグマが出没しました。危険なので、見かけた人は市役所にご一報ください」。町でこんなポスターが目につき始めたころ、しょうたは神社のお堂の床下で1匹のアライグマを見つけます。「クルル…」。おなかがすいているのでしょう、弱々しく泣いていました。
大人たちは、アライグマを畑を荒らす「害獣」として捕まえようとします。でも目の前のアライグマは、必死に生きようとしています。どうしたらいいのでしょう。答えは見つかりません。命について、人間と生き物のかかわりについて、考えるきっかけになる一冊です。
『エイト!』
驚きのエジプト生活
世界はすごく広いのだ
ちょっとしたことがきっかけで不登校を続ける永都。5年生になったある日、外国人相手の日本語教師をする母から突然、エジプトに行かないかと誘われます。気乗りしないままエジプトに行った永都は、日本とまったく違う生活のなかで、同じ年のムハンマド少年と知り合い、親しくなります。
知らない人ばかりの環境のなかで、ムハンマドと共に過ごすうちに、素直に行動できる自分を発見していく永都。日本では「普通」のことも世界に出れば「普通」ではありません。世界は想像以上に広いことが感じられる物語です。
『パッチーズ ぼくらがつなぐ小さな世界』
「これ、超かわいい!」
このひと言がぼくを変えた
柊が転校した中学は公立では珍しく私服です。ある日、柊は清掃の仕事をする母のことでからかわれて倒され、服のひじに穴を空けてしまいます。新しい服はねだりにくく悩んだ末、100円ショップで買った布でひじ当てを付けて登校します。その日から、孤立していた柊の学校生活は変わり始めました。
古着を再生する活動を通して、主人公が仲間と共に自分の道を切り開いていきます。親に優しさを示す柊、いかつい外見に似合わぬ個性を持つ先輩など、登場人物たちが魅力的です。自分らしさを持つことが、すてきなことに思える物語です。
先生お薦めの一冊
武蔵小杉校校舎責任者
『山の上の家事学校』
当たり前の日常は
当たり前にできているのではない
離婚した男性が、生活のための家事を男性に教える学校、家事学校に入学。その体験を通じて、家事や男女の違いについて考えていく物語です。子どもが大人の立場で考えるのは難しいと思いますが、たとえば、食事をする、汚れていない服を着る、といった日ごろ当たり前にしていることの多くは、大人が代わりに用意をしてくれています。当たり前ではありません。わたしもこの本を読んで、もっと家事をしようと思うようになりました。洗濯物を取り込んでたたむ、流しのお皿を洗って片付けるなど、気がついたことはやるようにしています。
家事学校にはさまざまな生徒がいます。年配の人もいれば大学生の若者もいます。その人間模様がおもしろく、ストーリーも楽しめます。若者の生徒が、この学校が男性対象なのは「男性だけが家事を学ぶべきだ」という考え方に基づいた「男性差別」だと発言する場面があります。男子大学がないのに女子大学があるのは差別だと考える彼に、校長は昔の大学は男性中心で、女性は高等教育を受けにくかったという話をします。「もしこの家事学校に女子がいたら男子は入りにくいだろう」ともいいます。ごみ捨てについても意見の対立する場面が出てきますが、家事に対する考え方は、男女によって、人によって違います。この先、家事をお金で解決する時代がくるかもしれません。でもそもそも家事についてきちんと知らないで、どう解決するのでしょう。
受験生は今、お手伝いの時間があまりないかもしれませんが、ご両親に対する感謝の気持ちは、忘れずに持ってほしいと思います。気づいたら人のために動ける。この本が、そんな人に変わるきっかけになればうれしいです。