受験ライフをサポートする進学情報誌 さぴあ

Books

2026年7月号から転載

Booksコーナー

Booksコーナーでは、小学校低学年から高学年までを対象とした読み物や、保護者の方向けの図書を、新刊中心に紹介しています。学習の合間などに、ぜひ読んでみてください。

注目の一冊

『ねぎのねぎしくん』

幸せには
いろいろな形がある
でもネギの幸せって何?」

お母さんに頼まれて買い物に行った帰りのことです。トモは街で、街灯の下に寄り掛かっている1本のネギを見つけます。つやがある立派なネギでした。トモはしゃがんで話し掛けました。「何してるの」と。ネギは答えました。「ぼーっとしている」と。

これだけなら、動物や物がしゃべる、よくあるファンタジー童話だと思うかもしれません。でも違います。想像してみてください。一人の少年がしゃがんで、街灯の下に立てかけてあるネギに話し掛けている姿を。かなりシュールです。聞けば、ネギの名前は「ねぎし」。トモは「ねぎしくん」と呼ぶことにします。ねぎしくんは、誰かの自転車に乗せた買い物袋から落ちたようで、ひどく落ち込んでいます。「歩けるか」と聞くと、「歩くことはできないが空を飛ぶことはできる。タイムトラベルもできる」と言いました。

ここからネギのファンタジックな旅が始まるかと思いきや、またまた期待は裏切られます。そう単純な話ではないのです。「人においしく食べられるのがネギの幸せ」とねぎしくんは言います。心優しいトモと、渋くて格好いいねぎしくんの会話がおもしろく、独特の世界に引き込まれます。価値観も幸せの形も立場を変えれば変わるもの。2 人が一緒にネギの新しい幸せを見つけるまでを描く、ハートフル・ユーモア童話です。

『しゅっぱつ!でんしゃのうんてんし』

「当たり前の毎日を守る、」
それがぼくの使命だ

ぼくは電車の運転士。出勤したらまず、事務所の更衣室で制服に着替えます。体調に異常がないことを伝え、運転の準備を終えたら、ホームで乗務する電車を迎えます。電車が来ました。異常がないか指さし確認をしたら、運転席に乗り込んでさあ出発進行です。

駅のホームで運転士さん同士が、運転の交代をしている姿を見たことはありませんか。その前後にいかにたくさんの仕事があるのかが、よくわかります。電車好きならわくわくする、運転士の一日が体感できる絵本です。運転士になった気持ちで読んでください。

空となかよくなる天気の写真えほん
そらのひかり』

空には美しい光が
あふれている!

曇りの日に、雲から広がる光の筋が見えたことはありませんか。たとえば雲の隙間から地上に向かってのびる、はしごのように見える光。これはずばり「天使のはしご」と呼ばれる現象です。昼は白っぽく、朝や夕方は赤っぽく見えるなど、時間によって色が変わるところがすてきです。

「天使のはしご」「天使の階段」などと呼ばれる薄明光線、反薄明光線など、天空に広がる光の現象の仕組みを、美しい写真とともに紹介します。日本でも見られる「低緯度オーロラ」や、珍しい「いさりび光柱(こうちゅう)」なども登場します。

『はじまりは わざとじゃない!』

友だちまでの距離って
思うほど遠くない

いきなり人にぶつかってきたり、座ろうとする椅子を引いたり。るいのクラスのつばさは、いつも誰かにちょっかいを出します。今日も廊下でぶつかってきたのに、「わざとじゃない」と言って謝ろうともしません。なんでつばさはいつもこうなんだろう。

一度人に嫌がられてしまうと、何をやっても悪くとられがちです。でも同じ出来事でも、立場を変えてみれば感じ方は違います。その違いに気づけば、相手の良さも見えてきます。友だちになるまでの距離は思うほど遠くない、そんなことが感じられる物語です。

『やさしさバトン』

どっちが損?どっちが得?
それって大事なこと?

町の音楽ホールで、受付の仕事の職場体験をした有咲(ありさ)。ホールの利用客は優しい人もいれば、身勝手な人もいてさまざまです。理屈の通らないことでお客に怒られることもあり、「怒られ損は嫌だな」と思う有咲でした。

こんなに手伝ったのにほめられなかった。そんなとき、つい「損した」と思いがちです。何でも損得で考えがちな主人公が、家族や友だち、職場体験で知り合った人との交流を通して、損得では計れない大事なものがあることに気づいていきます。情けは人のためならず。優しさのバトンが、人から人へつながります。

『国際協力ってなんだ?
つながりを創るJICA職員の仕事

困難、葛藤、試行錯誤。
その粘り強く地道な軌跡

「バングラデシュで堤防をつくる」「東ティモールで大学院をつくる」「カンボジアで人身取引と戦う」「タコ産業を発展させたモーリタニアの水産衛生検査技術を、近隣諸国に広める」など、一口に国際協力といってもJICA(国際協力機構)の仕事はさまざまです。

「現場では、理解もあればトラブルもあります。職員には工夫の積み重ねがあり、困難や葛藤、粘り強く地道な試行錯誤の軌跡があります」と著者。JICA の若手職員の仕事の実像を通して、国際協力の仕事の社会的意義と重要性、やりがいが伝わります。

先生お薦めの一冊

新越谷校校舎責任者

『君と漕ぐ
ながとろ高校カヌー部

後悔はある、でも
今できることにベストを尽くす

女子4 人の高校のカヌー部を舞台にした、シリーズ全5 冊の物語です。文章はサピックスの国語のテストにも掲載されたことがあり、実際に入試問題でも使われています。ただ、お薦めするのはそういう理由からではなく、シンプルに自分が読んで感動したからです。好きなポイントは二つあります。

まず登場人物たちが自分自身と向き合う、心情変化の描き方です。幼いころは天才少女と呼ばれたのに、成長とともに体格が変わり、ほかの子たちに抜かれていく。逆に特別な才能がないのはわかっているけれど、努力を続けていく。それぞれ違う事情を抱える人物たちが、自分自身と真剣に向き合い悩みながらもがんばっていく。その姿がわたしは好きです。

もう一つはペアの競技であるところです。さまざまなペアが登場しますが、たとえばペアの2 人に力の差があると、人としては好きだけれど、競技に勝つためには別の相手と組む決断をせざるを得ない場合もあります。お互いに相手への思いは複雑で、そうした心情の揺れ動きがていねいに描かれています。

カヌーの大会に向けてみんながんばっています。でもみんなが優勝できるわけではありません。その意味では受験に似ています。カヌーに必要な筋力をつけるには、必要なトレーニングをすべき適齢期があります。高校生にとっては「しておけばよかった」という後悔ばかりです。それでも主人公たちは後悔を前に向ける気持ちに変え、今からできることに全力で取り組み、先に進んでいきます。

来年受験を迎える皆さんも、まだまだできることはたくさんあります。今やれることにベストを尽くしてがんばってほしいと思います。