注目の一冊
『君の火がゆらめいている』
全部わかり合えないからって
友だちじゃないわけじゃない
葉澄の双子の姉、菜々実には発達障害があります。家ではもちろん、通学時も病院に行くときも葉澄は姉を手伝っています。そのせいで友だちと遊びに行けず、親友も離れてしまいます。姉のことが最優先の母親ともゆっくり話せません。姉のことは大切に思うけれど、この先ずっと菜々実を中心とした生活が続くのかと思うと、やるせない気持ちになります。
ある日、葉澄は病院の中庭で同学年の恵太と知り合います。恵太にも障害のある弟がいて、葉澄以上に深刻な事情を抱えていました。
「えらい」「優しい」。周りからそう言われることの多い葉澄は、「菜々実のことを好きなときも嫌いなときもある。でもとにかく放っておけないの」と言います。本当のところは当事者でなければ理解できないのかもしれません。だからといって「全部が全部わかり合えないからって、友だちじゃないわけじゃないしさ」と言う恵太のことばが心に残ります。
障害や重病を持つきょうだいがいる子どものことを「きょうだい児」といいます。全国には、悩みつつも毎日ふんばっている「きょうだい児」がたくさんいます。作者はそんな彼ら、彼女らに「あなたは絶対に独りではないよ」と伝えたくてこの物語を書いたといいます。中学入試頻出の作家による最新作です。
『だれでもどうぞ
こどもしょくどう カバさん』
おいしくて、うれしい
ようこそ、こども食堂へ
新しくできたこども食堂「カバさん」。でも開店3日目なのに、お客さんは一人だけ。ほかにだれも来ません。だれでもいいのにね。そう思って、所長のひろしさんは看板に「だれでもどうぞ」と書き加えました。すると、どかどかと入ってきたのは…。
「だれでもどうぞ」。そのひと言からとんでもないことに? いえいえ、楽しいことがたくさん起こります。みんなでご飯を食べるって幸せなことです。おいしい料理でおなかを満たすだけでなく、誰かと出会える安心できる温かい場所がこども食堂です。読めば行ってみたくなります。
『そのときぼくは9さいだった』
なぜ今も生かされているのか
ずっと考えて生きてきた
朝、母に見送られ、弟と学校に向かったつねひろ。「遅刻するから」と先に行った弟の後ろから、のんびり校舎に入り、靴を履き替えたそのとき、「ピカーッ! ドーン!」気がつくと、吹き飛ばされて倒れていました。外に出ると、朝礼で並んでいた子どもたちが真っ黒になって倒れていました。そのなかに弟もいました。
広島のグラウンド・ゼロ(爆心地500m以内)で被爆した最後の生存者の体験をもとに、9歳の少年の「あの日」以降を描いた絵本です。胸が痛む場面の連続ですが、ていねいに読んで胸に刻んでほしい一冊です。
『宇宙飛行士を支える医師
“宇宙酔い”への挑戦』
耳鼻科の研究から宇宙へ
医療の世界は広い
ひと口に医師といっても、活躍の仕方はさまざま。耳鼻咽喉科医の石井正則さんは、宇宙飛行士の選抜試験や健康診断に長く携わってきました。アメリカに留学した際、留学先がNASAと関係する医科大学だったことから、「宇宙酔い」の研究を始めたのがきっかけでした。
「宇宙酔い」とは、宇宙空間で現れる、頭痛や嘔吐などの体調不良。これを防ぐため、石井さんは宇宙飛行士たちといろいろな訓練を行い、研究を続けました。その成果は、一般の耳の病気の治療にも役立っています。新しいことに挑戦し続けた、医師の姿を描きます。
『誰も知らない
のら猫クロの小さな一生』
生まれて死ぬ、ただそれだけ
あとはおまけさ
クロが公園の茂みの寝場所から起き出すのは、お昼ごろ。人の気配がない早朝に出歩くのは、のら猫をいじめる人がいて危険だからです。でも、昼は昼でカラスが集団で襲ってくる恐れがあります。また、なわばりに入ってくる雄猫とけんかして大けがをする場合もあります。
気ままに暮らしているように見えますが、のら猫の生活は毎日が危険と隣り合わせ。それでもたくましく生きたクロをはじめ、同じ地域にすむのら猫たちの、短くも厳しい生きざまを描きます。命について、そして動物とのかかわり方について深く考えさせられる物語です。
『水中遺跡はそこにある』
海の底にも川や湖にも
人々の生活の跡がある
2011年、長崎県松浦市の鷹島沖で沈没船が発見されました。この地域は鎌倉時代に、日本に侵略したモンゴル帝国の船団が、嵐で壊滅した地として知られています。その際に沈没した船が発見されたのです。この地は元寇にかかわる鷹島海底遺跡として、以前から研究されていました。
こうした水中遺跡が日本には数多くあります。沈没船以外に交易に使用された港、水没した集落などさまざまです。その研究を行うのが水中考古学です。日本各地に残る水中遺跡を紹介しながら、水中考古学のおもしろさを教えてくれます。
先生お薦めの一冊
松戸校校舎責任者
『理由がわかればもっとおいしい!
コーヒーを楽しむ教科書』
知ればもっと知りたくなる
「好き」を探究するっておもしろい
わたしは趣味でウインドサーフィンをやっています。以前、仲間と海に入った後、「海の後はコーヒーがうまいよね」という話になりました。そのころ、わたしはコーヒーが飲めなかったのですが、勧められるままに評判のコーヒー店に行きました。それがきっかけでコーヒーが好きになり、いろいろなお店に行くようになりました。コーヒー豆に詳しい店員さんに聞くと、同じ国でも産地の標高によって味が違うし、同じ農園内でも場所によって味が違うなど、いろいろなことがわかり、コーヒーの奥深さを知りました。
わたしは興味を持つと、かなりのめり込むタイプです。コーヒーのことも、家で入れて飲むのとお店とではなぜ味が違うのかなどと考えていたので、この本を見つけて読み、入れ方をいろいろ試してみました。そうするともっとコーヒーのことを探究したくなりました。
実は麻布中の入試で、豆の焙煎の仕方などコーヒーについて科学的に考えさせる問題が出たことがあります。理科もそうですが、何でも興味を持つともっと深く知りたくなります。調べれば知識が得られ新しい発見があり、ものの見方も広がります。それは自分だけのもので、そのことに関しては周りの誰もかなわないはずです。
わたしはたまたまそれがコーヒーでしたが、皆さんも何か人から勧められたら、最初は気が進まなくても一度は手に取ってみてください。わたしのように、それが「好き」の扉を開けるきっかけになるかもしれません。ぜひ興味あることを見つけて突き詰めてほしいと思います。