受験ライフをサポートする進学情報誌 さぴあ

Books

2026年10月号から転載

Booksコーナー

Booksコーナーでは、小学校低学年から高学年までを対象とした読み物や、保護者の方向けの図書を、新刊中心に紹介しています。学習の合間などに、ぜひ読んでみてください。

注目の一冊

『医(い)人(ひと)の夢(ゆめ)』

重い現実と向き合う
医療の現場において
「正しさ」とは何なのか

医人は医学部をめざして猛勉強中の高校2年生。将来は患者の気持ちがわかる良い医者になって、多くの人の命を救いたいと思っています。そんな医人をからかうように、クラスメートの松(まつ)永(なが)は「医者なんてロクなやつがいない。医療ミスや治療のやりそこないもいっぱいある」と言います。医療問題に詳しいジャーナリストの父親が、そう言っているというのです。最近亡くなった同級生の水(みず)島(しま)の父親についても、「医療ミスで死んだ」と断定するので、医人は気になりました。

水島と共に水島の父親の本当の死因を調べ始める医人が、「命を救いたい」という夢だけでは務まらない、医師の仕事の本質を知っていきます。

物語の終盤、親戚の麻酔科医・黒(くろ)崎(さき)の病院で医師たちに話を聞くシーンは圧巻です。治療の不確実性、患者を練習台にせざるを得ない状況、無念の思いでみとる死。腫瘍内科・脳外科・小児科など、各科の医師が語る現場の実情は、医人にとっては重く受け入れがたい話ばかりです。黒崎は言います。「医療には世間から隠された暗くて重い現実があることを知っておくことが、本当の意味でいい医者になる心の準備になる」。医療の現場における正しさとは何なのか。医人の思いが読む人に重く問い掛けてきます。医師をめざす人はもちろん、そうでない人にもお薦めの青春医療小説です。

『きみはいっぽんの木』

それぞれの場所で
みんな懸命に生きている

丘の上に立つ木。蜜を探して羽ばたくチョウチョ。風に乗って飛んでいく鳥。ちょこちょこ歩くアリ。それだけではありません。雨にぬれた公園のブランコ。電車に置き忘れた傘。それぞれがみんな、自分の場所で精いっぱい生きています。

小さな生きもの。大きな生きもの。人々がいつも使うもの。地球の上で、太陽の光の下で、今を生きるものたちに心を寄せて、生きることの喜びをうたいます。自分がここに生きていることは、実は奇跡なのかもしれない。美しい絵とともに、そんな「今」を感じさせてくれます。

『ぼくたちは、
あらそうために生きるのか?』

世界的霊長類学者が送る
平和へのメッセージ

わたしたちヒトとゴリラは、同じ「ヒト科」の仲間。共通点がたくさんあります。たとえばサルは食べ物を独り占めしますが、ゴリラはヒトと同じように、食べ物を分け与えます。しかしヒトはゴリラと違い、森から出てやがて農業を始めました。それはヒトが、互いに助け合うことができたからです。

世界的な霊長類学者が、人類が繁栄してきた理由をたどります。その支えとなったのは「相手を思いやる力=共感力」です。「それがわたしたちの本能だ。いつかきっと戦争のない世界をつくることができる」と訴えます。

『山の神の使い』

田植えの日も稲刈りの日も
みんな自然が教えてくれる

大(たい)河(が)のじいちゃんは、山形で米作りをしています。今日は田植えの日。大河は父さんと、遠く離れた山形に手伝いに行きます。田んぼから見る月(がっ)山(さん)には、雪解けの跡が馬の姿に見える「田植え馬」が見えました。「月山に田植え馬が走れば、田植えをするもんだ」と、じいちゃんは言いました。

親族が協力して行う米作り。祖父や祖母が聞かせてくれる話。夢のような時間が流れるなか、農家の営みが大切なものを大河の胸に刻んでいきます。春の若葉の匂い、田の泥の感触、一つひとつが五感を通して染み込む、宝箱のような一冊です。

『知ったかぶりをした日から』

わたしは一生忘れない
優しさに救われたあの日を

父の仕事の関係で、北海道の小さな町の小学校に転校した風(ふう)子(こ)。習い事のダンスをやめたのは心残りでしたが、新しい町で友だちを作ろうとがんばっています。そんななか、町に映画のロケ隊が来ることに。クラスは芸能人の話で盛り上がり、その流れで風子はついうそをついてしまいます。

その場の雰囲気で知ったかぶりをして、後悔する。そんなとき、どうしたらいいのでしょう。風子は後悔したままにせず、大好きなことをきっかけに、前を向いて歩き始めます。心優しい人たちとの出会いが織りなす、温かい物語です。

『おはなしの時子』

老いと向き合いながら
シニアもがんばっている!

79歳の時(とき)子(こ)はある日、詐欺電話で大金を失ってしまいます。それをきっかけに、自宅の電話を解約することに。それならと、時子は解約までの期間限定で、「おはなし電話」を開設します。自分が話し相手になって、寂しい年寄りがしゃべる場になればいい、そう思って始めたのですが…。

子どもや孫、同年配の仲間たち、そして電話の向こうの見知らぬ人。さまざま人とかかわる日常を描きながら、老いと向き合う主人公の気持ちの変化を描きます。自分とは違う世代の気持ちに近づく、きっかけを与えてくれます。

先生お薦めの一冊

青葉台校校舎責任者

『自(じ)分(ぶん)の思(おも)いを言(こと)葉(ば)にする
こどもアウトプット図(ず)鑑(かん)』

受験生の悩みも解決できる
「アウトプット」の
大切さを知ってほしい

皆さんは悩み事があったら誰に相談しますか。昔なら身近な人に相談したものですが、今は生成AIに聞くという人が、小学生でも珍しくないかもしれません。でもAIの答えはいつも正しいわけではありません。

この本では児童精神科医のお医者さんが、小学生にありがちな悩み事を取り上げ、その解決方法を教えてくれます。学校生活のこと、友だちや家族のこと、受験生が抱えるような悩みも出てきます。たとえば「どうして勉強するの?」「毎日時間が足りない!」「すぐ緊張するのはどうしたらいい?」など。こうした悩みに、「これをしてみたら?」という具体的な解決法を提案しています。どれも「アウトプット」の力を使った解決方法です。そこがこの本の良いところです。

脳内に情報を入れることを「インプット」、入れた情報を脳内で処理して外に出すことを「アウトプット」といいます。たとえば「読む」「聞く」はインプット、「話す」「書く」「行動する」はアウトプットです。「アウトプットは生きていくうえでとても大切だ」と著者は言います。わたしもそう思います。皆さんも勉強を続けていると悩みやストレスが出てくると思いますが、ため込まず外に吐き出すことが大事です。相手は家族でも友だちでもいいのです。身近に相談相手がいるような人間関係を築くことは、社会生活を送るうえでも、人生を豊かにするうえでも不可欠です。それはAIとばかり話していてはできないことです。

楽しいイラストを使って短い文章でわかりやすく説明しているので、気になるページから気軽に読み始められます。日ごろ、保護者の方から受けている相談事に近いようなものもありますので、保護者の方にもお薦めです。

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