作業療法士は
どんな仕事をしているの?
杏林大学 保健学部
リハビリテーション学科
作業療法学専攻
博士(保健学)
原田 祐輔 講師
作業療法士は、病気やけが、障がいなどによって、体や心の力が弱くなり、生活に困っている人を支えるリハビリテーション(リハビリ)の専門家です。体や心の回復を促すだけではなく、道具の使い方や周りの環境も工夫して、「その人にとって大切なこと」ができるようにサポートします。その人にとって大切なこととは、ご飯を食べる、歯を磨くなど、毎日の生活に必要なことです。たとえば小学生なら、学校で勉強する、友だちと遊ぶ、家族と出掛ける、といったことも含まれます。
何かがきっかけとなって、生活するための作業ができなくなることは、誰にでも起こる可能性があります。さまざまな状況を抱えている人、さまざまな年齢の人とかかわることになる仕事ともいえます。
作業療法士は、病院や介護施設、障がいのある人を支える施設、子どもの通う施設や学校、地域の保健・福祉施設など、さまざまな場所で活躍しています。働く場所によって、主に支える人や仕事の内容は異なります。病院では、病気やけがをした人が日常生活に戻るためのリハビリを行います。介護施設では、高齢者ができることを維持し、安心して生活できるように支えます。子どもの施設や学校では、勉強や遊び、身の回りのことに取り組みやすくなるようにサポートします。それぞれ支える人や支え方は異なりますが、その人にとって大切なことができるように体や心の回復を促し、道具や周りの環境を工夫する点は共通しています。
作業療法士になるには?
高校を卒業した後、作業療法士になるために必要なカリキュラムのある養成校(大学や専門学校)で学ぶことが必要です。学校によって学科やコースの名前は異なり、「作業療法学科」「作業療法学専攻」「リハビリテーション学科の作業療法コース」などがあります。学校を選ぶときは、作業療法士の国家試験を受ける資格が得られるかどうかを確認することが重要です。
国家試験を受けるために必要な授業や実習を修めると、受験資格が得られます。国家試験は卒業する年度の2月ごろに行われます。試験に合格して養成校を卒業し、免許を取得すると、作業療法士として病院や介護施設、学校などで働くことができます。
養成校を卒業後、作業療法や医療についてもっと深く学びたい人や、将来、学校で教えたり研究したりしたい人は、大学院に進むことがあります。また、実際に働くなかで生まれた「もっと良い方法はないかな」という疑問を調べるために、働きながら大学院で学ぶ人もいます。
作業療法士に
求められる資質は?
人とかかわること、相手の話を聞くことを大切にできる人に向いている仕事です。同じ病気やけがだとしても、困っていることや大切にしていることは一人ひとり違います。そのため、相手の気持ちや生活をよく理解して、「どうすればできるようになるだろう?」と一緒に考える力が求められます。また、うまくいかないときに別の方法を考えたり、道具を工夫したりする力、医師や看護師など、関係者と協力する力も必要になります。
初めからすべてが得意である必要はありません。人に関心を持ち、相手のために学び続けようとする気持ちが大切だと思います。
作業療法士に興味を持ったら、まずは勉強や遊び、スポーツ、音楽、料理、工作、ゲームなど、いろいろなことを楽しんでみてください。自分の好きなことや、これまでに経験したことが、リハビリに生かせるケースもあります。何かがうまくいかないときに、「ほかのやり方はないかな」と考えてみたり、友だちと一緒に工夫したりする経験も、作業療法士の仕事につながります。
自分の好きなことや得意なことを見つけ、さまざまな人とかかわりながら、たくさんの経験をしてほしいと思います。
杏林大学 作業療法学専攻での学び
杏林大学では、医学部付属病院とのつながりを生かして、医療や作業療法を学ぶことができます。作業療法士の資格を持つ教員が10名以上おり、教員が実際に仕事で経験してきたことを聞きながら、作業療法のさまざまな見方や考え方を学べる点も特徴です。1年生は人の体の基礎を学び、2年生になると患者さんの体に対する技術的な演習が始まります。3年生ではどういった治療を行うと関節が動かせるかなど、より実践的な治療につなげる方法を学修し、4年生は病院などに出向いて実習を行います。杏林大学には、リハビリだけでなく、健康や医療について学ぶ学科が多くあります。ほかの医療の仕事について知り、力を合わせて治療を行うことを学べる環境も備えられています。
「ADL(日常生活活動)室」には、ベッドやキッチン、お風呂などが設置されており、実際の生活を想定した動作練習や指導方法の実習ができます
「運動療法学実習室」では、体の状況を把握する検査や測定を行います。人の運動メカニズムを理解するための機械や道具もそろっています
杏林大学医学部
付属病院
リハビリテーション室
作業療法士
宮田 沙弥さん
「作業療法士」
ってどんな仕事を
するんですか?
前のページでは、作業療法士の仕事の内容や、なるための方法などを紹介しました。ここでは、杏林大学医学部付属病院で作業療法士として活躍している宮田沙弥さんに登場していただきます。どのようなきっかけで作業療法士をめざし、現在はどんな仕事をしているのでしょうか。これまでの道のりや仕事の内容などを伺いました。
恩師のことばに影響を受け
人の役に立つ仕事をめざす
小学生のころからバレーボールに夢中になっていた宮田沙弥さん。体を動かしたり、友だちとおしゃべりしたりするのが大好きな子どもでした。バレーボールを続けるなかでも、人とかかわることに楽しさを感じていました。
作業療法士をめざすきっかけとなったのは、高校時代のバレーボール部の監督のことばでした。「尊敬していた監督が、『人のために、世のために、活躍できる人になりなさい』とよくおっしゃっていました。それを聞いて、頭のなかに医療職が浮かんだので、病院で働こうと思いました」と振り返ります。
進路を考える時期になり、職業を調べていくと、人の役に立つ仕事のなかでも、作業療法士という職業に「ピンと来た」と言います。「作業療法士を紹介する資料を見たら、『心と体のリハビリを行う』と書いてありました。体ももちろん重要ですが、特に『心のリハビリ』が印象に残ったのです。自分も悩んだとき、困ったときに人に支えてもらうことが多かったので、患者さんの心のリハビリの役に立ちたいと考えました」
大学1・2年生の基礎学習は
すべて作業療法の現場につながった
作業療法士の国家試験を受ける資格が得られる大学を受験した宮田さんは、無事に杏林大学に合格。作業療法士となるための勉強が始まりました。
大学1・2年生では、体の仕組みや反応など、医学の基礎的な知識を学びます。体の部位やそのはたらきなど、覚えることが山のようにあって、テスト前の勉強も大変だったそうです。3年生になり、作業療法の演習が始まると、「それまでに習ってきた基礎的な知識が役に立つことが増えた」と言います。「病院で実習を受けていくうちに、医療について学んだ知識がすべて作業療法につながっていることがわかってきました。知識を治療の現場で生かせることが増えると、おもしろく感じられるようになりました」
4年生の前半に病院の実習を終えると、秋から冬にかけて就職活動を行います。宮田さんは大学付属の病院を志望しました。「大学病院では、病気の人、けがをした人、子どもから高齢の人までさまざまな人と接して、幅広い経験を積むことができると考えました。病気やけがをした患者さんにとって、すぐにリハビリを始めることがその後の生活に良い影響を与えるので、自分も早い段階で患者さんとかかわって、リハビリの土台づくりをしたいという思いもありました」と、その理由を語ります。
患者さんが生活の場に戻ったときに困らないよう、家事の仕方を指導したり、作業機能を上げるための運動を一緒にやってみたりします。家の中を想定した設備を使いながら、日常生活の作業が自分でできるようになるためのリハビリを行います
臨機応変に対応しながら
患者さんと信頼関係を築いていきたい
作業療法士となって9年目を迎えた宮田さんの仕事は、朝8時30分から始まります。まずカルテを見て情報収集を行い、患者さんの状態を把握。9時から12時まで、5人程度の患者さんのリハビリを担当します。お昼休みを挟んで、13時から16時までまた5人程度のリハビリを担当。16時以降にはカルテに治療内容を書いたり、そのほかの書類に記入したりして、17時ごろに一日が終わります。
仕事をするうえで「大変だな」と思うことを聞いてみると、「まだ経験や知識が足りない部分もあり、患者さんとかかわってみないとわからないこともたくさんあります。その人の性格や置かれている状況、リハビリに対する考え方もそれぞれ違うので、同じ患者さんは一人としていません。臨機応変に対応することを求められるのが難しいところだと思います」と答えてくれました。
そんな宮田さんが最も大切にしているのは、「患者さんと信頼関係を築くこと」です。「リハビリと聞くと、『きつい』『しんどい』と思う人もいます。初めは『やりたくない』と言っていた患者さんでも、いろいろな話をしていくと、コミュニケーションが取れるようになって、リハビリに向き合ってくれるようになることもあります。一人ひとりと試行錯誤を重ねながら接していくなかで、患者さんのできることが一つでも増えたり、『一緒にリハビリができてよかった』と喜んでもらえたりすることが、何よりもうれしいです。わたしも患者さんの姿に元気をもらっていて、やりがいを感じています」
「つかむ」「離す」などの基本動作の練習ができるアクリルコーン、手の指や手首のトレーニングができるエコパテなどの道具を使った作業療法。患者さんの状況に合わせて、作業療法士がその日のリハビリのメニューを決めていきます。必要な筋力を強化するため、1日に2~3個の道具を使用することもあります。また、ティッシュボックスを制作するなど、手芸で何かを作ることが機能向上につながる人もいます。それぞれの適性を見極めて、目標とする生活が送れるようにサポートします