二松学舎大学附属柏中学校・高等学校は、1877年に創設された漢学塾「二松学舎」を母体とする歴史ある学校です。2011年には中学校を併設し、中高一貫校として今年で13年目を迎えました。昨年度からは「探究」を前面に出した2コース制を導入するなど、次世代に必要な新しい学びも取り入れています。同校の活動の成果などについて、副校長の島田達彦先生と中学校学年主任の森寿直先生に伺いました。
探究学習を重ねることで
指示を待たずに動ける生徒に
副校長
島田 達彦先生
「社会に貢献できる人材の育成」をめざす同校では、「人間力の向上」と「学力の向上」を2本柱に掲げ、「探究」と「論語」を軸にさまざまな教育を展開しています。まず、探究教育は、大きく分けて「学習支援プログラム」「自問自答プログラム」「進路支援プログラム」の三つから成り立ちます。学習支援プログラムでは、毎日行う「三大新聞コラムの読み比べ」や日直による「1分間スピーチ」などを実施し、知識や教養のほか、他者を理解する力や発信力を養成します。一方、自問自答プログラムでは「田んぼの教室」「古都の教室」といった体験学習を通して、課題発見力や問題解決力を磨きます。進路支援プログラムでは、中学3年間を通じ、自分の個性や理想とする生き方について考えを深める「二松柏ジュニアキャリアデザインプログラム」を構築するなど、中学開校から10年以上を経て、幅広い取り組みを行っています。
探究学習の成果について、中学校学年主任・グローバル探究委員会委員長の森寿直先生は「探究学習そのものが進化を遂げている」と振り返ります。たとえば、中1の探究プログラム「沼の教室」では例年、学校近隣の手賀沼に行き、1年間かけて水質調査をしたり、歴史・文学とのかかわりを学んだりします。ただし、現在では学年が進んでも取り組みを続ける生徒が多いとのこと。森先生は「学年を重ねた今でも、生徒みずから3か月ごとに水質を確認するほか、海外研修に訪れた際に現地の水質を調べ、手賀沼と比較するなど、自発的に探究を続ける生徒が増えています」と話します。このほかにも、インターネットから検索した二次資料ではなく、生徒たちが小説の舞台となる場所に訪れ、そこで撮影した写真を資料にするなど、一次資料を使う生徒が増えてきたとのこと。「生徒自身が探究学習の本質を理解してきたことを実感している」と森先生は言います。
中3で取り組む探究論文に
グループワークも検討
中学校学年主任
森 寿直先生
2022年度には「グローバル探究」と「総合探究」の2コース制を導入しました。グローバル探究コースでは英語力の強化だけでなく、SDGsや世界レベルの問題解決について考えるプログラムを用意するなど、グローバルに特化した取り組みが多く行われますが、両コースとも探究教育に力を注ぐ点は変わりません。新コース始動から2年目を迎え、「生徒たちは教員の指示を待たずに行動するようになりました。しかも、その授業のときだけではなく、夏休みや春休みなど時間が経ってからも自主的に探究を続けているのです。この主体性のある学びは、まさに本校がめざしていたものです」と、森先生は話します。昨年度は、高2のグローバル探究コースに在籍する7人のチームが、これまで行ってきた探究活動について、1年間かけて英字新聞を作成。その紙面構成や内容の完成度を競い合う「第6回英字新聞甲子園」で全国準優勝を獲得しました。英語での表現力・発信力の養成にも力を注いでいます。
来年度からは、さらに探究内容を一部変更します。中3では、興味のあるテーマについて1年間かけて取り組み、論文にまとめて発表する「探究論文 自問自答」がありますが、今後は「3年間探究した成果を論文にして発表する」「グループで一つのテーマを探究する」「これまでどおり、一人で好きなことを探究する」という三つのカテゴリーから生徒たちが選んで取り組むスタイルに変わります。森先生は「探究を自主的に続ける生徒が増えたので、3年間という長いスパンでの活動を考えました。グループワークを考案したのは取り組める内容の幅が広がるからです。たとえば、水質調査一つでも、5人いれば5か所のデータが一度に入手できます。また、グループならば、各生徒の得意分野を生かした役割分担も可能だと考えました」と述べました。
新しい取り組みとともに
二松学舎の伝統も学ぶ
新しいプログラムの多い探究教育に対し、二松学舎の伝統を継承するのが「論語教育」です。中1から「素読・暗唱」に取り組み、二松学舎の創立者である三島中洲が生涯の指針とした論語を通して、豊かな心を培っています。副校長の島田達彦先生は、孔子の論語の三徳とされる「知・仁・勇」について、「『知』は自分で体験して得た知識を意味し、『仁』は人に対する思いやり、『勇』はチャレンジ精神を表しています。すべての教育のベースはこの論語に通じています」と話します。
また、同校は建学の精神に「己を修め人を治め一世に有用なる人物を養成す」を掲げています。これは「自分のことをしっかり理解し、自分を理解するように周囲のものを理解しなさい」という意味だそうです。島田先生は「将来的には探究学習を通して、地域の問題解決などに携わってほしいと考えていますが、今探究学習に取り組んでいるのも創設者の思いに根付いたこと。これからの世の中に役立つ人材を育てることにつながるのではないか」と語ります。
最後に、受験生とその保護者に向けて、先生方からメッセージが送られました。「『探究』というキーワードのとおり、チャレンジ精神旺盛な方にはぴったりの学校です。多様なことに取り組みたいという人にはぜひ来ていただけたらうれしいです」(森先生)。「ちょっとした体験学習などでも生徒の成長を感じられます。さまざまなことでわが子の成長を見たい保護者の方は、ぜひ本校の受験を検討してみてください」(島田先生)
「沼の教室」では、導水施設も見学。学校を離れた体験プログラムを通じて、見聞を広げています
白樺文学館を訪問する「手賀沼と文学」プログラムでは、文学作品からこの土地の歴史について考察します