受験ライフをサポートする進学情報誌 さぴあ

挑戦するキミへ

2026年10月号から転載

柳沢先生のメッセージコラム

学びに時間効率を求めるべからず
「急がば回れ」で臨むことが大切

受験勉強は、時間との戦いです。できるだけ短い時間で効率よく知識を身につけようと、日々励んでいる受験生も少なくないことでしょう。しかし、学びにおいては、必ずしもタイムパフォーマンス(時間対効果)を追い求めることが大切とは限りません。「無駄なものを排除せず、遠回りをするほうが人間の成長につながる」と柳沢先生は考えます。学びにおける時間効率のとらえ方と、勉強へのモチベーションを持続させるこつについて伺いました。

文責=柳沢 幸雄

子どもの成長に必要なのは
一見“無駄”に見える経験

近年、「タイムパフォーマンス」ということばをよく耳にするようになりました。費やした時間に対して、どれだけの成果や満足度が得られるかという「時間対効果」を意味します。しかし、ある目標を達成するために、無駄なものをすべて排除しようという風潮は、とりわけ勉強においてはあまり好ましくないとわたしは考えています。なぜなら、一見“無駄”に思えるものこそ、子どもの生きる力を育む重要な要素になるからです。

時間効率を追い求めることについてわたしが懸念しているのは、特定の目標には有効でも、ほかの場面では生かしにくい能力を身につけてしまうことです。勉強というのは、中学受験や大学受験といった目の前の試練を突破するためだけにあるのではありません。本来の目的は、困難な状況に置かれても、自力で対処できるような「生きる力」を身につけること。その意味では、子どもたちに家事をさせることも、外遊びをさせることも、立派な「勉強」といえるでしょう。想定外の出来事がたびたび起こる人生では、さまざまな形状の武器(=知識や経験)を持っている子のほうが強いのです。

ましてや、これからの子どもたちが生きていくのは、保護者世代の想像もつかないような新しい時代です。親が“無駄”だと思うことが、子どもにとっても“無駄”とは限りません。今後はむしろ、遠回りに思えることでも前向きに受け入れ、損得を考えずに取り組む姿勢が大切になるのではないかと思います。

受験勉強はいわば「マラソンレース」
無理なく続けられるペースを大切に

損得を考えずに勉強を進めるこつは、無理のないペースで続けること。スポーツにたとえるならば、まさに「マラソンレース」です。できるだけ長く息が続くよう、どのようなペース配分で走り、どの地点でラストスパートをかけるべきか。それぞれの体力やレースの状況に合わせてタイミングを見極めることが重要です。

途中で息切れすることなくゴールにたどり着くためには、その子にとって精神的負担の少ない方法を見つけなければなりません。わたしがお勧めしたいのは、得意科目から勉強を始める方法です。そうして気分が乗ってきたところで、苦手科目へと切り替えるのです。得意な科目は短めに、苦手な科目は長めに時間を設定して取り組むのも一つの方法です。そうすれば、科目ごとの勉強時間の偏りをうまく均等化できます。ちなみに、わたしの学生時代は、まず数学や物理、化学の問題から解き始め、最後に古文に手をつけるというのがお決まりのコースでした。

息切れを避けるためのもう一つの秘訣は、無理に予定を詰め込まず、ゆとりを持ったスケジューリングを行うことです。わたしがお勧めしているのは、1週間のうち6日間の学習計画を立て、残りの1日を予備日にする方法です。6日間で目標を達成できれば、7日目は休息日に充てられます。6日間で消化できなかった場合は、7日目を調整日として活用するのです。自分自身でめりはりをつけて取り組むことができれば、モチベーションを維持しながら、最後まで走り続けられるのではないかと思います。

生活の「時間対効果」を向上させ
子どもと向き合う機会を大切に

柳沢 幸雄

このように、自分のキャパシティーを考慮した学習スケジュールを立て、継続的に勉強に取り組んだ経験は、やがて大人になり、仕事や家事を回す立場になったときに、自分の時間を上手に管理する力として役立ちます。それは回り回って、生活者としてのタイムパフォーマンスの向上につながっていくのです。

実際に保護者の方も、日々のさまざまな場面でタイムパフォーマンスを上げるための工夫をしていらっしゃると思います。そこで生み出した時間はぜひ、お子さんとの対話に充ててください。1日15分でも構いません。その時間だけは、仕事のことも家事のことも考えず、ひたすらお子さんの話を聞くのです。子どもというのは、いつだって自分の話を聞いてもらいたいものです。あらかじめ1日のルーティンに組み込んでおけば、お子さんにとってもその時間が励みになるはずです。

発話量の理想的なバランスは、子ども8に対して大人2くらいです。子どもにたくさん話をしてもらい、どんなにとりとめのない内容であっても、保護者は聞き役に徹してください。「自分の話を大人がじっくり聞いてくれる」という安心感は、子どもの情操面にも良い影響をもたらすでしょう。

受験勉強だけではなく、子育てというミッションもまた、タイムパフォーマンスの概念とは対極にあるものです。なかなか自分の思うような結果が出ないからといって焦ることなく、「急がば回れ」の精神で、どっしりと構えて臨んでほしいと思います。

スクールデータ