高3生が新入生をサポート
伝統的な「ビッグシスター」制度
神田 初めに、貴校の沿革についてご紹介いただけますか。
佐藤 本校は1888(明治21)年、イギリスから来日したエドワード・ビカステス主教によって創設されました。校地は麻布区永坂町(現在の港区麻布永坂町)にありましたが、校舎が火災で焼失したため芝区白金三光町(現在の港区白金など)に移転し、その時代に本校の基盤が築かれました。その後、学校の規模が大きくなったことから、広い校地を求めて移転したのが現在の旗の台です。しかし、校舎完成直後に太平洋戦争が始まり、終戦の年である1945年5月、空襲によって校舎が焼失してしまいます。一時は九品仏のお寺で授業をしていた時期もありましたが、1948年11月にこの地へ戻ることができました。
神田 大変なご苦労を重ねて教育を続けてこられたのですね。先生ご自身は、学校とどのようなご縁があったのでしょうか。
佐藤 祖父が日本聖公会の司祭だったので、子どものころから生活のなかにキリスト教の考えや習慣がありました。大学卒業後は、同じ日本聖公会の学校である立教大学の系属校で、ロンドン郊外にある立教英国学院で3年間、数学科の教員を務めました。帰国後は東京都の公立小学校で長く教員を務め、その後、再び立教英国学院で5年間、うち2年間は校長、さらに立教新座中学校・高等学校で6年間、校長を務めました。そして昨年4月、本校に招かれ、着任しました。
神田 貴校は、日本におけるガールスカウト発祥の地としても知られています。また、長く続く伝統的な制度として、高3生が新入生をサポートする「ビッグシスター」制度がありますね。明治時代から続く中1生のお世話係を2007年に復活させたと伺いました。
佐藤 ビッグシスター制度は、高3生から選ばれた生徒たちが、中1の各クラスを6名ずつで担当し、学校生活・学習・部活動などについてアドバイスやサポートを行うものです。毎朝行う礼拝でのお祈りの仕方も教えます。先日、学校説明会の手伝いを募集したところ、休日にもかかわらず、多くのビッグシスターが手を挙げてくれました。このような機会にはビッグシスターに限らず、手伝いの希望者が多く、いつも抽選になるほどです。自分たちが入学したときに上級生に助けてもらったことを覚えているのでしょう。この制度はこれからも大事にしていきたいですね。
神から授かった賜物に気づき
それを磨く6年間であってほしい
安酸 教育理念として大切にしていることを教えてください。
佐藤 本校は創立以来、一貫してキリスト教信仰に基づく女子教育を行っています。初代校長が提出した「私立香蘭女学校設置願」の設置目的には、「優等全備ノ貴女ヲ養成スル」とあります。「優等」とは、神の前ではすべての人が平等であると知り、誰に対しても等しく優しく接することができる人という意味です。これは普遍的な本校の理念です。教養と品性を備え、他者への想像力と優しさを持った女性を育てたいと考えています。
また、副校長として本校の基盤を築いたルーシー・キャサリン・タナー先生がよく口にされていた“Come in to Learn, Go out to Serve.”(来たりて学べ、いでて仕えよ)ということばがあります。ここで学び、卒業した後は自分のためだけでなく、人のため、社会のために力を尽くしてほしいという意味です。本校ではこのことばをとても大切にしています。神さまは一人ひとりに必ず「賜物」を与えてくださっています。それが何なのかに気づいてほしいと思います。もしまだ気づいていなければ、わたしたちが一緒に探します。そして見つけたなら、それを磨き、自分のためだけでなく、他者のため、他者と共に生きるなかで生かしていってほしい。そうした力を育てたいですし、そのような女性に成長してほしいと願っています。
神田 与えられた個性や才能に気づき、それを社会に還元できる人を育てたいということですね。
佐藤 一人ひとりが持っている賜物はそれぞれ異なります。皆が同じことを身につけようとすると、どうしても優劣がつきがちですが、形の違うものが組み合わさることで、初めて生まれるものがあります。一人ひとりはかけがえのない存在であり、その人たちが集まることで、より良い、より大きな力が生まれるのです。石垣の石のように、それぞれ形は違っても組み合わさることでしっかりとかみ合う。もし合わないところがあっても、そこに別の人が入ることでぴたりと収まることがあります。人と人とをつなぐことはとても大切で、その力は一人ひとりが持っています。あなたにしかできないこと、あなただからこそできることが必ずあります。それをこの6年間で見つけ、磨いていってほしいと思います。
神田 「フォロワーシップ」ということばがありますが、フォロワーというとリーダーに従う人という意味に受け取られがちです。しかし実際には、自分から積極的に参加し、集団の目標を達成するために自分の力をどう生かすかを考えて行動する人のことを指します。先生がおっしゃるように、一人ひとりが異なる賜物を持ち、それを組み合わせながら他者と協働していく生き方は、これからの社会でますます重要になるでしょうね。
円筒形の構造が特徴的な図書館。2フロアにわたる広々とした空間に約6万5000冊を所蔵しています
人工芝の校庭は、陸上競技トラック、テニスコートとしても活用できます
いつの日か芽を出すことを願い
さまざまな種をまくのが役割
卒業後は自分のためだけでなく、
他者や社会のために力を尽くしてほしい。
安酸 毎朝礼拝があるとのことですが、全校生徒が集まってお祈りをするのでしょうか。
佐藤 本校には中高合わせて1000人を超える生徒がいますが、チャペルには全員が入れます。そこに全校生徒が集まり、毎朝8時15分から礼拝を行います。一日の始まりに祈りを捧げるだけではなく、創立記念日やクリスマスはもちろん、入学式や卒業式など行事の際も必ず祈りから始めます。日常のなかで「祈りで始まり、祈りで終わる」ことを大切にしているのです。そうした生活のなかで育まれたものは、いつか必ず本人に返ってきます。その芽が出る時期は人それぞれで、すぐに表れるとは限りません。しかしわたしたちの仕事は、「あらゆる場面で種をまき続ける」ことだと考えています。
安酸 カリキュラムを拝見すると、聖書の時間や礼法の時間があり、芸術科目も重視されていますね。
佐藤 本校では6年間を通して聖書の授業があり、音楽の授業も6年間続きます。これは特徴の一つだと思います。礼法は主に中1で学びます。小笠原流の礼法を通して、和室での所作やお茶のいただき方、葬儀の際の献花の作法など、さまざまなことを身につけます。また、立教大学への推薦入学が決まった高3生も礼法の授業を受けます。人との交流を円滑にするうえで大切な作法を、あらためて身につける機会になります。キリスト教に基づく倫理観と、日本文化の伝統に裏打ちされた所作の両方を学べることは、とても意義深いと思います。
理系プログラムも充実の海外研修
高大連携では医学分野が拡充
安酸 英語教育には創立当初から熱心で、海外研修も盛んですね。
佐藤 海外に行く機会はたくさんあります。カナダでの研修には、夏休みに実施する短期研修(高1・2の希望者)のほか、学期中に参加する中期研修、1年間の長期研修(高1の希望者)があります。期間の異なるプログラムがあるのは良い点だと思います。英国語学研修は、中2から高1までの希望者を対象に、夏休みに約3週間行います。名門ボーディングスクールで本校の生徒向けの特別語学プログラムを受け、その間は学校の寮で生活します。現地の寄宿制学校と同じような環境で学べるので、非常に良い経験になると思います。このほか、オーストラリアでの研修も計画しており、できるだけ早く実現させたいと考えています。
理系分野の研修としては、立教英国学院が主催する「ヤングサイエンス・ワークショップ」があります。ケンブリッジ大学の研究室で行われる理系プログラムで、現地の高校生と日本の高校生が一緒に参加します。また、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)では、日本人の教授が主催する研修があります。「ユースチャレンジ」という日英の高校生が参加するプログラムで、本校の生徒も参加します。英語をツールとして研究からプレゼンテーションまでを行う内容で、ハードルは高いですが、こうしたレベルの高いプログラムも増やしていきたいと思っています。
神田 特色ある教育プログラムの一つに「SEED」(Self-Enrichment EDucation)があります。先ほど先生は「種をまくことが学校の仕事」とおっしゃいましたが、まさに「種」を意味するこのSEEDとは、どのような取り組みなのでしょうか。
佐藤 「総合的な学習の時間」が導入される以前から、本校には生徒の興味・関心を生かす「SE」(Self-Enrichment)という自由選択授業がありました。その趣旨を受け継ぎながら内容をさらに発展させたのが「SEED」です。中2・3では「探究基礎」、高校では「総合的な探究の時間」として行っています。生徒は自分が関心を持ったテーマについて課題研究を行い、高2で論文としてまとめます。その成果を全校生徒の前で発表する機会があり、後輩たちへと引き継がれていきます。立教大学以外の大学に進学を希望する場合には、この研究を発展させた内容を総合型選抜などに生かすこともできます。
安酸 同じ日本聖公会に属する立教大学や聖路加国際大学との高大連携プログラムも充実していますね。
佐藤 聖路加国際大学との交流は、特に看護や出産といった分野について、学年の発達段階に応じた講義をしていただくところから始まりました。自分のライフステージを考える際には、身体面だけでなく、メンタル面についても理解を深めることがとても大切です。そのため、この分野の学びを充実させようと連携を進めてきました。昨年10月からは昭和医科大学とも正式に連携することになりました。すでに講演会やSEEDの授業に協力していただいており、今後さらに内容を充実させていきたいと考えています。
本格的な日本庭園も整備された茶室「芝蘭庵(しらんあん)」。礼法の授業やお茶会などで使われています
大きなクスノキがあるパティオは生徒の憩いの場。構内に緑豊かな築山があるのも同校の魅力です
全員が立教大学への推薦進学が可能
自分で選び自分で決めることが大切
神田 学習支援体制が充実しているのも特色ですね。放課後や長期休暇中の補習はもちろんですが、特に印象的なのは、聖ヒルダ記念館に全校生徒を対象とした自習室「Study Hall」があることです。勉強をサポートするスタッフが常駐しているのは、生徒にとっては恵まれた環境ですね。
佐藤 わたしたちは、縁があって香蘭に入学してくれた生徒たちのために、何ができるかを常に考え、実行しています。その取り組みの一つが、全校生徒が利用できる「Study Hall」です。勉強をしていて疑問が生じても、教員が忙しくてすぐに対応できないという状況は、どの学校でも起こり得ます。そうしたことをできるだけ減らすために設けた仕組みです。ここでは生徒一人ひとりの要望に合わせて、対面形式とオンライン形式の両方で個別質問ができる体制を整えています。
神田 生徒が入退室するときには保護者にメールで通知が届き、閉室まで残っていた生徒はスタッフが駅まで送るそうですから、セキュリティー面でも安心ですね。
安酸 立教大学への推薦入学については、学則定員の100%に当たる160名が進学できるようになったと伺いました。
佐藤 基準を満たせば全員が進学できる環境を整えてくださった立教大学には、とても感謝しています。以前は、行きたいと思っても必ずしも希望がかなうとはかぎりませんでした。しかし今は、自分で進学すると決めればその道を選べます。比較や競争がなくなり、「本校を卒業した以上、あなたは自信を持って送り出せる人です」と全員に言えるようになったことは、大きな意味があります。
神田 昨年3月卒業生の進路状況を見ると、立教大学に進んだ人が全体の64%、他大学に進学した人が32%です。立教大学への進学者の内訳を見ると、最も多いのが経済学部、次いで社会学部で、文科系学部への進学が多くなっています。一方、他大学への進学者を見ると、理工系が29%、医歯薬保健農系が24%で、合わせると半分以上が理系分野に進んでいます。
佐藤 理系志向の生徒は確かに多いですね。立教大学には理学部がありますし、新しく環境学部も設置されましたが、工学系や医学・薬学系の学部はありません。そうした分野を志望する生徒は、他大学をめざすことになります。何をめざすかは一人ひとり違ってよいはずです。その異なる希望をわたしたちが一生懸命に応援した結果が、立教大学進学64%という数字だと思います。
神田 それでは最後に、貴校をめざす受験生と保護者の方にメッセージをお願いします。
佐藤 本校には、香蘭にしかない、香蘭でしか感じられない雰囲気があります。学校を訪れたときに、「自分はここに来たい」「ここで学びたい」と感じる瞬間があると思います。その直感を大切にしてほしいですね。そのためにも、ぜひ見学に来てください。そして、他校も見てください。そのうえで「香蘭でがんばりたい」と思ってくださる方に選んでいただければ、とてもうれしく思います。
神田本日はありがとうございました。
香蘭女学校中等科
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