創設時より受け継がれる理念
「自然・生命・人間」の尊重
神田初めに、貴校の沿革についてご紹介ください。
坂井東邦大学の母体は、額田豊博士と額田晉博士の兄弟が1925(大正14)年に創設した帝国女子医学専門学校です。豊先生はドイツ留学の際、西洋の合理的な精神に基づく科学的思考法に触れ、特に女子への科学教育の必要性を痛感しました。2人は結核の名医でしたが、当時は結核の予防法が明らかでなく、まずは栄養状態をよくすること、それには家庭の食事を担う女性にも科学的な教養と理解が必要だと強く感じたようです。戦後は特に中等教育に関心を持ち、1952(昭和27)年に高等学校を、1961(昭和36)年に中学校を設立しました。当初は男子部と女子部に分かれていましたが、1970年に完全共学化しました。
神田坂井先生はこの春、校長に就任されました。学校とはどのようにかかわられていたのですか。
坂井わたしは千葉大学教育学部を卒業後、高校の英語教員となりました。その後に千葉大学大学院修士課程で学び、修了後、県内の中高一貫校に長く勤めた後、2014年に本校へまいりました。英語を教える一方で国際交流室長を12年間務め、今春、校長に就任しました。4月の入学式で新入生に話したのは、本校で「楽しくて」「おもしろくて」「うれしい」経験をたくさんしてほしいということです。何かをして「楽しい」と思い、達成感が得られれば「うれしい」ですし、何かを知り興味を持てば「おもしろい」と感じます。ただ、人生には、その反対の「つらい」「つまらない」「悲しい」もあります。そこに寄り添うのが本校の教員だと思っています。
子どもたちには自己肯定感を持ってほしいと思います。朝、校門の前で「おはよう」と声を掛けていると、早く来る生徒は元気よくあいさつを返します。自己肯定感が高いからです。時間がたつにつれて元気がなくなり、遅刻組はとぼとぼと歩いてきます。でも、青春は自己肯定感を持ちにくい時期です。わたしは高校時代、「人は何のために生きるか」という問いに苦しみました。ですから、あいさつが返ってこなくても、その表情を見て、「自分自身と向き合っているのだな」「葛藤しているな」と思います。そして「よく来たね」と心のなかで拍手をするんです。あいさつできる生徒はもちろんですが、できない生徒もすばらしいです。
晉先生は著書『自然・生命・人間』の前書きでこのように述べています。「世の中の人は忙しそうに働いているけれど、みんな何を考え、何を目標に生きているのか。高校生のとき、それが疑問でいろいろな人に聞いてみたけれどわからなかった。そこで考えた、生きられるだけ生き、自然と人間を見つめて人生の根本問題に対する回答を考えよう、それを若い人たちに伝えよう」と。高校時代に同じ悩みを抱えていたわたしは、35年後、このことばに衝撃を受けました。
神田わたしも拝読しました。「悩みながらいろいろなことにぶつかって、傷つきながらも一体なぜこうなのかと考え続ける、それが真理に向かって近づくことになる」と書かれていました。また、「おのれの不完全さを自覚してこそ人間は謙虚になれ、さらなる向上を求めて自己鍛錬に励むことができる」とも書かれています。そのとおりだと思います。
坂井晉博士が提唱した「自然・生命・人間」に関する世界観とは、宇宙・自然の無形の偉大な力を畏敬し、自然からその一部を頂いた生命を大切にし、科学技術の進歩や物質文明の限界を自覚して、人間の心の向上をめざして生きようということです。本校はこの建学の精神の下、豊かな人間性と高い倫理観を持って社会貢献する人材の育成を使命としています。良い主張、良い意見、良い判断は正しい知識にほかなりません。正しい知識こそ、正しい思想と行動の源泉です。正しい知識を追求する、それが科学的な思考、科学的な方法であり、その学びをもって世界人類の幸福に貢献することが本校の誓いです。
自主的・能動的な「自分探し学習」
国際交流では生活体験を重視
安酸重視する教育として、「EXPLORING STUDY」ということばを使われています。「自分探し学習」ということですが、具体的にはどのような内容ですか。
坂井これは、生徒一人ひとりが自己の可能性の開拓に向かって、学校生活を主体的に送るためのプログラムです。本校では、教科の授業や総合学習などあらゆる学びにおいて、自主的・能動的な学びを重視し、特に生徒自身の体験を大切にしています。
たとえば国際交流です。本校の生徒はオーストラリアの姉妹校とシンガポールの友好校の生徒たちと交流しています。オーストラリアはブリスベンのセントピーターズという名門校で、10年ほど前から交流が始まりました。先方からは毎年50人ほどが来校し、本校の生徒宅にホームステイします。日本でこれだけの人数を受け入れるのは簡単ではありませんが、多くのご家庭が快く引き受けてくださっています。今年からは本校の生徒約120人も、現地の生徒宅にホームステイできることになりました。
神田セントピーターズはルーテル派の名門校で、国際バカロレアのディプロマプログラムもあります。すばらしい学校と提携されているのですね。
坂井英語を学べるだけでなく、ご家庭で交流できるのが大きな魅力です。たとえばオーストラリアは通学区域が広いこともあって朝が早く、5時ごろに起きる生徒もいます。そのため、日本でも夜9時になると「休ませていただきます」と部屋に戻るそうです。本校の生徒や保護者の方も驚き、生活習慣やマナーの大切さをあらためて学ばされます。
神田礼儀作法や他者との接し方もしっかり教育されているのでしょうね。シンガポールでもホームステイをするのですか。
坂井シンガポールでは公立校と交流しており、宿泊はホテルです。教育立国だけあって、公立校も本当に熱心です。この学校では3日間の体験入学ができ、現地の生徒とバディを組んで一緒に授業を受けます。授業はすべて英語なので、かなり苦労するようです。放課後はバディの案内で街を歩き、地元の人が行く屋台で食事をするなど、観光旅行ではできない経験ができます。生徒たちはとても喜んでいます。
明るく広々としたカフェテリア。400席あり、中学生も利用できます
玄関ホールには宇宙教育に関するミニコーナーが設置されています
歴史学習では留学生と史跡巡り
高大連携プログラムでは医学実習も
自主的・能動的な学びを重視し、
特に生徒自身の体験を大切にしています。
安酸英語に関しては、国内でも「Power in ME」というプログラムがあります。これは来日している留学生と交流するものですね。
坂井英語はあくまでもツールです。英語を話すことより、何を話すか、その中身が大切です。その意味で、生徒たちには留学生と直接やり取りする体験を数多くさせたいと思っています。夏休みに実施している「Power in ME」もその一つです。日本に来ている留学生と直接触れ合う3日間のアクティブラーニングで、肌の色も母語も異なる留学生が集まります。アジアやアフリカからの留学生には、国を代表するような優秀な学生も多く、英語も美しく内容も深い。そういう人たちと接し、たどたどしい英語でも何とか伝わったという体験をする。これは英語教育ではなくグローバル教育です。意思疎通にバリアーはないことを、早い時期に体感してほしいと思っています。
安酸それはとても大切なことですね。
坂井中学生は宿泊を伴う校外学習があります。中1は富士山で自然学習、中2は京都で歴史学習、中3は長崎で平和学習を行います。今年の京都には、日本に来ている留学生にも同行してもらいました。8人ほどの班に留学生が1人ずつ加わり、一緒に史跡を巡ったのです。留学生たちはとても優しく、生徒たちも積極的に英語で話し掛けていました。英語は未熟でも、工夫すれば思いは伝わりますし、人の優しさや聡明さもわかります。こうした肌感覚はとても大切です。これはAIにはできないことです。
神田京都の歴史や寺社について留学生に説明しようと思えば、自分でも調べますよね。学びの幅も広がります。
安酸大学付属校ならではの中高大連携プログラムも充実しています。その一つが「学問体験講座」ですね。
坂井これは、東邦大学や他大学と連携し、さまざまな学問を体験できる講座です。自然科学・生命科学・人間科学などに分かれ、最先端の研究テーマを学びます。年3回実施しており、東邦大学の理学部や薬学部で実験を体験できる講座もあります。夏休みには東邦大学医療センター佐倉病院で、医学部志望者を対象とした外科実習模擬体験「ブラック・ジャックセミナー」も実施しています。
根っこに栄養が行きわたるよう
じっくり育てるから逸材が育つ
神田卒業生の方々は医学分野に限らず、多方面で活躍されています。たとえば、1994年度卒業生である宇宙飛行士の金井宣茂(かないのりしげ)さん。海上自衛隊の医官で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士として2017〜18年に宇宙へ行かれましたね。
坂井金井さんもそうですが、本校からは「尖った」人材が多く育っています。在学中から課外活動に積極的に取り組む生徒は少なくありません。その代表例が「SAKURA Tempesta」です。これは、在学中にアメリカへ留学した女子生徒が、現地でロボットコンテストに参加したことをきっかけに、同級生たちと立ち上げたNPO法人で、次世代のリーダーやイノベーターの育成を目的に活動しています。彼女は現在、アメリカで脳神経科学者として活躍しています。わたしは彼女が留学する際、エントリーシートを書きました。
安酸先生が国際交流室にいらしたときに、留学をサポートされたのですね。
坂井留学は国際交流室で全面的に支援しています。留学した生徒はさまざまな分野で活躍しています。2年前、奨学金を利用してカリフォルニア大学バークレー校へ進学した卒業生もいます。中高時代から水泳の強化選手で、今年6月の日本選手権でも優勝しました。バークレーを選んだのは水泳の強豪チームがあり、スポーツ科学やマネジメントを学んで、将来、日本の水泳界に貢献したいという目標があるからです。
安酸すばらしいですね。将来が楽しみです。
坂井本校でそうした尖った人材が育つのは、表現はよくないかもしれませんが、「ぬるま湯」のような環境だからだと思っています。本校は千葉県を代表する進学校ですが、選抜クラスは設けていません。みずから学ぶことを大切にし、尻をたたくのではなく、根っこに十分な栄養が行きわたるよう、最適な温度でじっくり育てる。それが本校の良さだと思っています。
神田本当の意味でのゆとりがあるからこそ、やりたいことを突き詰められるのですね。
中高あわせて九つの理科実験室があり、本格的な実験器具・観察機器もそろっています
図書館の蔵書数は約8万冊。CDやDVDなどの視聴覚教材も豊富です
この時期の子育ては尊い
抱きしめて安心させてほしい
神田今年の大学進学実績を拝見しました。国公立大学の合格者数は113名で、そのうち現役が81名。卒業生302名に対する現役合格率は26.8%です。難関私立大学への合格率も非常に高く、特に東京理科大学には208名が合格していますね。全国3位の実績です。医学部医学科は国公立大学に12名(現役9名)、私立大学に88名(現役67名)が合格し、合格者数、現役合格率とも非常に高いですね。医学部を持つ大学の付属校だからと思われがちですが、東邦大学への合格者は24名で、他大学への合格が大半を占めています。
坂井東邦大学への内部推薦は15名ですから、それ以外は一般受験で合格しています。付属校といっても、全員が進学するわけではなく、内部推薦も狭き門です。
神田いかに在学中にしっかり勉強しているかがわかります。では最後に、受験生と保護者の方にメッセージをいただけますか。
坂井今は子育ての大切な時期です。保護者の方には、中学受験で“迷子”にならないでほしいと思っています。富士山は美しいですが、5合目まで近づくと全体は見えなくなります。子育ても同じで、その真っただ中にいると、この時期の尊さが見えなくなりがちです。必要なのは、食事・遊び・睡眠、そして抱きしめて安心感を与えることです。それがあれば子どもは育ちます。本校に来ていただければもちろんうれしいですが、どの学校に入ってもいいのです。人生は進学した学校で決まるのではなく、その後に自分がどうするかで決まります。
神田自分を生かせる学校であることがいちばん大事ですね。中高6年間という尊い時期をどんな環境で過ごしてほしいかを考え、学校を選んでいただきたいと思います。本日はありがとうございました。