受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

毎日が楽しくなる子育て法をアドバイス

「子育てを学ぶ」環境があれば
親子はもっと幸せになれる

工藤 いずみさんKudo Izumi

(くどう いずみ)一般社団法人sunnysmile協会代表理事。大阪大学人間科学部で比較発達心理学を専攻。卒業後はSAPIX YOZEMI GROUPで海外大学進学プログラムの立ち上げなどに携わる。結婚を機に退職し、大手メーカーに勤務。出産後に育児と家庭の両立に悩み、独立・起業してsunny smile協会を設立。「『子育てを学ぶ』が当たり前の社会に」「子どもの笑顔のために、まずママの笑顔から」を理念に、オンライン講座の実施、コミュニティー運営など、さまざまな活動を展開中。著書に『子どもの能力をつぶさない イラッとした時の怒り言いかえ手帖』(総合出版すばる舎)がある。

 「お母さんが笑顔で楽しく暮らしていれば、子どもは健やかに成長していく」という理念の下、子育てに悩む母親のために、オンライン講座の実施やコミュニティーの運営などを行っている組織があります。今回は、一般社団法人sunnysmile(サニースマイル)協会 代表理事の工藤いずみさんにインタビュー。協会を設立した経緯や活動内容、親子が笑顔でいられる子育て法などについて語っていただきました。

みずからの体験をベースに
子育てに悩む母親をサポート

広野 工藤さんは、一般社団法人sunnysmile協会という組織を立ち上げ、子育てに悩む母親を対象にさまざまな活動を展開していらっしゃいます。どのような経緯で協会を設立されたのですか。

工藤 もともと教育に興味があり、大学では比較発達心理学を専攻し、幼児の心身の育ちについて研究していました。卒業後は、SAPIX YOZEMI GROUPに就職し、新規事業の立ち上げに携わっていた時期もあります。

広野 そうでしたね。わたしも当時のことはよく覚えています。

工藤 そのころは子育てについて実感がなく、“お花畑のような幸せな”イメージでとらえていたのですが、結婚を機に退職して大手メーカーに勤め、いざ出産して育児が始まると、「なんて大変なんだろう」と戸惑いました。子育てや教育について勉強してきたつもりなのに、わからないことばかりです。不安感にとらわれ、大泣きすることもありました。それと同時に感じたのは、「世の中のお母さんたちは、どうやって育児しているのだろうか」という疑問です。「育児はこれほど大変なのに、なぜ、母親にはそれをきちんと学ぶ機会が与えられていないのか」と考え始めました。

 多くの母親は、子どもが生まれてから必死になって育児について勉強します。でも、出産前から子育てについて学ぶことができ、出産後も継続的に学習できる環境があれば、もっと幸せな親子が増えるのではないでしょうか。そのためにも、「子育てを学ぶ」ことが当たり前の社会を作りたいという思いが強くなり、独立起業してsunnysmile協会を立ち上げました。お母さんたちのために「イライラしない子育て法」などのオンライン講座を実施したり、コミュニティーの運営を行ったりしています。

広野 「子育てを学ぶ」と聞くと、一般的には授乳の注意点や乳児食の作り方、おむつの替え方といった内容をイメージします。これらについてはすでにたくさんの情報があるかと思いますが、そういったものとは異なる内容を学ぶのでしょうか。

工藤 講座では発達心理学をベースに、0歳から15歳ぐらいまでの脳と心の成長について段階的に学びます。子どもの気質を見極め、その子に合わせた声の掛け方などについても紹介しています。また、親自身のアンガーマネジメント(怒りなど感情のコントロール法)、NLP(神経言語プログラミング)を使ったコミュニケーションスキルについて学ぶ講座も用意しています。

 ただ、講座ではなるべく学術用語を使わず、「こういう場面では、こんなことばを掛けましょう」「こういうタイプの子には、ひと言目にこんな声掛けをすると有効ですよ」などと具体例を挙げ、誰もが理解でき、家庭ですぐに実践できるようにお話ししています。

「ほかの子」と比べて悩まないために
いちばん大切にする「軸」を定めよう


サピックス教育事業本部
本部長
広野 雅明

広野 育児での不安は、「ほかの子」との比較のなかで生まれることが多いように思われます。ところが、現代のライフスタイルだと不安があっても、気軽に相談できる相手がいません。いわゆる「ママ友」も、仲間である一方でライバル的な側面もあり、なかなか悩みを話しづらいものです。そうしたなかで、こうした講座があると安心できそうですね。

工藤 ほかの子との比較で悩むお母さんにお勧めしているのが、子育ての軸をつくることです。わが子を育てていくにあたり、保護者としていちばん大事にすることを決めておくのです。そこをしっかりと守って育児をしていけば、ほかの子どもと比較する必要がなくなり、安心して子どもと向き合えるようになります。

 軸といっても、難しく考える必要はありません。「優しい子に育ってほしい」「勉強好きな子になってほしい」「伸び伸びと育てたい」など、人それぞれで構わないのです。たとえば、「伸び伸びと育てる」を軸にしたのであれば、その観点から子どもの成長を見守るようにします。そうすれば、そもそもほかの子と大事にしていることが違うのですから、比較しても意味がないことになります。ぶれない軸を持つと、子育てがとても楽になるはずです。

広野 子育ての軸を持つというのは、乳幼児期に限らず、大事なことだと思います。成長し、塾に通うようになると数値化された成績に一喜一憂し、「ほかの子と比べて、わが子は大丈夫なのか」と不安になることもあるでしょう。しかし、中学に進学すると、勉強以外にも「運動」「芸術」「生徒会活動」など、軸の選択肢が増えてきます。それぞれのご家庭で大切にすべき軸を見つけるといいですね。

 ただ、親の決めた軸と、子どもの長所や得意分野とが一致しない場合もあると思います。そうしたときは、どうすればいいのでしょうか。

工藤 「子どもにこうなってほしい」という思いが必ずかなうとは限りません。難しいことではあるでしょうが、やはり子どものいちばん良いところを見極める視点を持ちたいものです。そして、子どもの得意な部分を伸ばせるような声掛けをしてほしいですね。大人の声掛け一つによって、子どもの才能が大きく伸びる場合もあるからです。

子どもの能力をつぶさない
イラッとした時の怒り言いかえ手帖』

工藤いずみ 著
総合出版すばる舎 刊
1,650円(税込)

 子育てのことでイライラしたり、不安になったりすることはよくあります。ただ、そのいら立ちをそのまま子どもにぶつけてしまうと、子どもは萎縮し、本来持っている力を発揮できなくなってしまいます。本書では、怒りをポジティブなかたちに変換し、子どもの非認知能力を育むための具体的なことば掛けを紹介しています。

26年1月号 子育てインタビュー:
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