受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

桜蔭学園の技術・家庭科教育について聞く

他教科の学びとも連動しながら
「自立して生きる力」を育む

宮永 邦子さんMiyanaga Kuniko

(みやなが くにこ)桜蔭学園理事・教務主任。技術・家庭科を担当。桜蔭高等学校卒。お茶の水女子大学家政学部食物学科卒業後、民間企業勤務を経て、1994年より桜蔭学園の教壇に立ち、2025年より現職。文科省教科用図書検定調査審議会第9部会家庭小委員会の専門委員などを歴任。

 女子校トップの進学校として知られる桜蔭中学校・高等学校では、「すべてが主要教科」という考えの下、技術・家庭科教育に力を入れています。中1から始まる裁縫や調理実習をはじめ、金融教育、ジェンダー教育などを通して、生徒たちはどのような力を身につけていくのでしょうか。カリキュラムや授業内容、教育の目的などについて、同校の教務主任、技術・家庭科担当の宮永邦子先生に伺いました。

「手」を動かすことで得る
「やればできる」という実感


桜蔭中学校・高等学校
〒113-0033 東京都文京区本郷1-5-25
TEL:03-3811-0147
www.oin.ed.jp 別ウィンドウが開きます。

広野 難関大学への高い進学率を誇る貴校では、家庭科教育も重視されているそうですね。

宮永 本校では、すべての教科が数学や英語と同じ「主要教科」という方針で授業に臨んでいます。もちろん、技術・家庭科も同様です。成績が悪ければ、ほかの教科と同じように呼び出しもあります(笑)。

広野 桜蔭の家庭科といえば、卒業生の皆さんが口をそろえて「裁縫が印象深い」とおっしゃいます。具体的に、どのようなカリキュラムになっているのでしょうか。

宮永 本校では、自分の手で一つの作品を仕上げる「被服製作」を大切にしています。昨今の生徒たちは中学受験をする・しないにかかわらず、小学校で手縫いの経験がほとんどないまま、中学に入学してきます。ですから、中1の1学期は手縫いの基礎から始めます。最初は、針穴に糸を通すことすらままならない生徒も少なくありません。でも、それでいいのです。大事なのは「最初からうまくいくこと」ではなく、「練習すれば必ずできるようになる」という体験を重ねることです。

広野 今や、雑巾もお金を出して買う時代です。だからこそ、あえて手作業にこだわっているのですね。

宮永 「手って、こんなことができるんだ」と実感してほしいと思います。中1の2学期は時間割をやりくりして週3コマを確保し、それを丸々使って、3~4か月かけてスモック(袖なしのエプロンドレス)を作ります。そして中2の3学期には「パジャマのズボン」、中3の1学期には「パジャマの上着」に挑戦します。特に上着は襟と袖がつくため、難易度が高いのですが、これを家に持ち帰ることなく授業中に自力で完成させるのが、桜蔭の伝統です。その出来栄えはもちろん、成績に反映されます。

 また、スモックやパジャマの製作のほかに、かぎ針編みや刺繍にも取り組みます。特にかぎ針編みは難しいようで、最初は「できない!」と大騒ぎしています。しかし、2週間も経てば、驚くほどサクサクと編めるようになります。「2週間前の自分を思い出してごらん」と声を掛けると、自分の成長を実感して驚いています。

広野 そうやってできた作品には、思い入れがあるのでしょうね。

宮永 スモックもパジャマも、その後の生活のなかで活用することを意識して作ります。卒業生からも「まだ使っています」などという声がよく寄せられます。

 スモックやパジャマを自力で完成させた経験そのものも、大切な財産になります。衣服を作る楽しさに目覚めた生徒は、ダンスや演劇の衣装などをどんどん自分で作るようになります。


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仲間との協働作業を通して
プロジェクトマネジメント力を養う


サピックス教育事業本部
本部長
広野 雅明

広野 調理実習でも、さまざまな学びがあるのでしょうね。

宮永 高校卒業後、すぐに一人暮らしを始める生徒もいますから、そのときに困らないよう、ひと通りの生活スキルは身につけてほしいと思っています。

 中1生は家事の経験がほとんどありませんから、調理実習でもさまざまなハプニングが起きます。かつては、オーブンに金属製の天板を入れなくてはならないのに、樹脂製のまな板を入れた生徒もいました。生卵を初めて割る生徒を、お友だちが「がんばれ、がんばれ」と励ます、ほほえましい姿もありました。当然、包丁の扱いもおっかなびっくりです。

 ですから、調理実習も、最初は包丁を使わずにできる鮭のムニエルからスタートします。切り身に粉をまぶしてバターで焼けばいいのですから、やけどにだけ気をつければ簡単に出来上がります。その次に、さつま汁を作ります。こちらはさまざまな野菜を切らなくてはなりませんから、難易度がぐっと上がります。

 包丁さばきだけでなく、段取りも重要になります。さつま汁(とん汁)は、根菜を先に煮て、ネギは最後に入れるという順序があります。しかし、全体の手順を考えずに、友だちに指示されたとおりにネギだけを黙々と切り続ける生徒もいます。そんな子には、「この材料はいつ使うの?先に使う材料があるのでは?」と問い掛けます。

広野 家庭科の実習は、時間管理やプロジェクトマネジメントの能力を伸ばす機会でもあるのですね。

宮永 そのとおりです。料理を手早く仕上げるには、「司令塔」の役割を果たす生徒、状況を見て動く「フォロワー」に徹する生徒の両方が必要です。それぞれが協力し合いながら、限られた時間内においしいものを仕上げるというプロセスを通じて、リーダーシップ、フォロワーシップ、そして全体の状況を把握する力が磨かれます。こうした「段取り力」は、将来どのような仕事に就いても、また家庭を持つことになっても、求められる普遍的なスキルなのです。

広野 宿題は出るのでしょうか。

宮永 中1生のほとんどが、それまで家族に支えられ、守られる存在として過ごしてきました。そのため、入学当初は手作業に不慣れなだけでなく、生活そのものを自分事としてとらえられないケースも多く見受けられます。そこで、本校では中1の夏休みに、「家族の一員として、役割を担う人にステップアップしよう」という目標を掲げ、トイレ掃除や食器洗いといった家事を宿題として課しています。

 家事を手伝うと、家族から「ありがとう」とねぎらわれます。そのひと言が、彼女たちの自己肯定感を高めます。「自分は人の役に立っている」という実感と、「親は毎日、こんなに大変なことをしてくれていたんだ」という他者への想像力、思いやりを育てます。こうした心の成長こそが、自立して生きるための土台となるのです。

26年3月号 子育てインタビュー:
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