子育てインタビュー
桜蔭学園の技術・家庭科教育について聞く

他教科の学びとも連動しながら
「自立して生きる力」を育む
女子校トップの進学校として知られる桜蔭中学校・高等学校では、「すべてが主要教科」という考えの下、技術・家庭科教育に力を入れています。中1から始まる裁縫や調理実習をはじめ、金融教育、ジェンダー教育などを通して、生徒たちはどのような力を身につけていくのでしょうか。カリキュラムや授業内容、教育の目的などについて、同校の教務主任、技術・家庭科担当の宮永邦子先生に伺いました。
すべての教科とつながる
技術・家庭科の学び

調理実習(上)、被服製作(下)の様子。授業では「自分でやる」「考えながら作業する」ことを重視しています
広野 宮永先生は、2025年4月から教務主任を務めていらっしゃいます。貴校では、技術・家庭科と他教科との関連性をどのようにお考えですか。
宮永 わたしたちは、技術・家庭科をほかの教科と切り離された独立した科目とはとらえていません。たとえば、先ほど紹介した中1で作る「鮭のムニエル」についていえば、バターで焼いた後のフライパンや皿は油脂でギトギトですが、それを冷たい水で洗い始め、スポンジまで油まみれにしてしまう生徒が必ずいます。そしてさらに、そのスポンジでコップも洗おうとします。そこで「お湯を使ってごらん」と声掛けすると、「すごく落ちる!」と驚きます。このときに初めて、「油脂は温度が上がれば溶ける」という理科の知識が、目の前の洗い物と結び付くわけです。
広野 桜蔭中学校の入試で、おせち料理の由来や材料が取り上げられたことがありました。調理も被服も、理科だけでなく、さまざまな科目と関連付けられますね。
宮永 おっしゃるとおりです。実習でも教科書を使った授業でも、中1からなるべく他教科との関連性を考えながら教えます。栄養の話であれば、化学や生物につながっていきます。調理でも、洗剤の成分である界面活性剤を使えば、化学や環境問題にもつながっていきます。日々の生活のなかで浮かび上がる「なぜ、そうなるのか?」という疑問を大事にしながら説明しています。
中3の修学旅行で東北を訪れる際は、宿泊先にお願いして郷土料理を出してもらい、各地の食文化、風土、特産物を学ぶ機会としています。高校では、理科や社会の先生のほうから「これ、家庭科でやったよね」と授業中に問い掛けてくださいます。すると、生徒も「そういうことか。ここでこの教科とつながっているんだ」と意識するようになり、複数の教科にまたがった学習が楽しくなるようです。実は、わたしは本校の卒業生なのですが、こうした学びを通して技術・家庭科への関心を深めたことが今の仕事へとつながっています。
「生きるための武器」を
6年間かけて手渡しする

桜蔭中学校・高等学校 被服室にて
広野 近年、技術・家庭科では金融や情報など、学ぶ範囲が広がりました。貴校では、どのように対応されているのでしょうか。
宮永 中学の技術分野では電気製品の取り扱い方はもちろん、コンピューターの基本的な知識やプログラミングの基礎を学ぶようになっています。
家庭科では「消費生活分野」の一環として、お金の管理についても学びます。現代の生徒たちは、非常に恵まれた環境にあり、保護者がキャッシュレス決済にお金をチャージし、履歴も管理します。便利といえば便利ですが、これでは「お金を使い切ってしまった」という失敗体験から学びを得ることができません。だからこそ、修学旅行などの行事で現金を持ち、「お小遣いの範囲内でやりくりする」ということは有意だと考えています。授業では「金融」や「契約」についても取り上げ、資産形成や金融リテラシーなどにも触れていきます。大人になってから困らないように「生きるための武器」を、6年間かけて手渡していくのが、わたしたちの役割だと考えています。
広野 女子校として、力を入れて教えていらっしゃることはありますか。
宮永 ジェンダーや労働問題にも踏み込みます。女子校では、生徒たちは男女間の不平等をあまり感じずに過ごせます。今は「女の子だから、勉強しなくていい」と言われた経験のある生徒はほとんどいないでしょう。しかし、一歩社会に出れば、まだ厳然とした男女格差が存在します。地方では「女子は地元の大学へ」と制限される場合がありますし、女子が資格取得を強く勧められる背景には「女性の雇用の不安定さ」が潜んでいます。こうした社会の現実を、動画や新聞記事などを用いて徹底的に議論させます。
広野 技術・家庭科では、単に家事能力を身につけるのではなく、一人の人間として自立するすべを学ぶわけですね。最後に、受験生の皆さんにアドバイスをお願いします。
宮永 ささやかなものでもいいのですが、多様な体験を積み重ねてほしいですね。家庭のなかにあるものに触れたり、学校の往復などで空とか周りを眺めるちょっとした時間を持ったりすることで、さまざまなことに気づける感性を養ってきてほしいと思います。
広野 そうした体験や気づきのなかから自分の好きなこと、関心のあるものを見つけ、それらを入口にして、学ぶ楽しさを知っていただきたいですね。
本日はありがとうございました。
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