この人に聞く
苦手なことはすべて“伸びしろ”
小さなきっかけで大化けする可能性も
髙宮 ところで、田内さんはどのような幼少期を過ごされてきたのでしょうか。
田内 わたしは、茨城県のそば屋の息子として生まれました。父は中学卒業と同時に働き始めたこともあり、いろいろと苦労も多かったのでしょう。わたしは小さいころから父に「お前は東大に行け」と言われて育ってきました。あいにく、わたしが小学4年生のときにそば屋を畳むことになったのですが、父は気落ちするどころか「今ならどこにでも行けるぞ」と、関西への引っ越しを提案してきました。神戸に拠点を移して、東大への高い現役合格率を誇る灘中をめざそうというわけです(笑)。一度、どんな学校か見てみようと、茨城から神戸まで父の車で出掛けたことがあります。早朝に到着し、学校の周りを見てみたものの、あまりに情報がありません。そこで、給油に立ち寄ったガソリンスタンドのおじさんに「灘中をめざすにはどの塾がいいですか」と尋ね、そこで教えてもらったところに通うという、すべて手探りで始まった受験生活でした。
髙宮 そこから灘中に進学し、お父さんの念願だった東京大学の理科一類に進むわけですね。
田内 はい。父が熱心に勉強を教えてくれたので、小学校低学年のころには二次方程式が解けるくらい算数・数学は得意でした。中学受験も、大学受験も、そして就職試験でも、それを武器に戦ってきたという感じです。
髙宮 文章を書くのも昔から得意だったのですか。
田内 いいえ、まったく(笑)。原稿用紙3枚分の読書感想文を書くのも苦痛で、幼いころから向いていないと思っていました。英語も苦手だったので、「英語を使わずに生きていこう」と心に決めていたのに、結果的に外資系企業に就職するのですから、人生はわからないものです(笑)。
先ほどの話にもつながるのですが、そんなわたしに、どうして本が書けたかというと、佐渡島さんをはじめ、出版社の方々が「この人を育ててみよう」と思ってくれたからです。「自分の力で何でもできる」と考えていたら、得意なことしかできなかったでしょう。今、中高生に向けて話している「できないことは、いろいろな人に協力してもらえばいい」という教訓は、実は大人になってから学んだことでもあるのです。
一方で、算数や数学は、若いときにやり込んだせいもあって、もうこの年齢になってからはあまり伸びません。苦手なことはすべて“伸びしろ”です。小さなきっかけで大化けする可能性があるということは受験生にも伝えたいですね。
髙宮 そのことばは子どもたちの励みになると思います。それでは最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
田内 いちばん大切にしてほしいのは、「良い学校に入りたい」と思うのではなく、「自分が何をやりたいのか」「社会とどうかかわっていきたいのか」をじっくり考えることです。また、行き詰まってしまったときは、自分を客観視することも大事です。最近、平野啓一郎さんの著書『私とは何か―「個人」から「分人」へ』を読み、そのなかにある「分人主義」という考え方に感銘を受けました。「分人主義」とは、人間は単一のキャラクターで成立しているのではなく、対峙する相手やコミュニティーに合わせて変化していて、すべての“分人”が本当の自分であることを意味しています。
受験生の保護者のなかには、子どもの勉強を見ているうちにきつく叱ってしまい、自己嫌悪に陥った経験のある方も少なくないと思います。それは、子どもを愛していないのではなく、子どもと一緒に勉強をしているときの自分の振る舞いを、自分自身が嫌っているからです。そう考えると、マイナスの感情をある程度コントロールできるようになるのではないでしょうか。そういう視点を大切にしながら、親子で一緒に受験生活を乗り切ってほしいと思います。
髙宮 本日は貴重なお話を伺うことができました。どうもありがとうございました。
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―元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた
予備知識のいらない経済新入門』
田内学 著
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1,760円(税込)

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