1931年の創立以来、「教養ある堅実な女性」「自立できる人」の育成をめざしている江戸川女子中学校・高等学校では、生徒の自主性を育む機会として校外学習を重視しています。多彩なプログラムと、それによってもたらされる生徒の成長について、中学入試対策委員長の吉田秀徳先生と、中学入試対策委員の水嶋瞳先生に伺いました。
みずから考え、行動するからこそ
失敗も成功も大きな収穫になる
中学入試対策委員長
吉田 秀徳先生
中学入試対策委員
水嶋 瞳先生
江戸川女子中学校・高等学校では、生徒の自主性や適応力を育てるため、中学のすべての学年で校外学習を実施しています。中1では、入学後すぐの柴又遠足から始まり、5月には2泊3日の校外学習で軽井沢を、3月には社会科見学で上野を訪れます。中2の社会科見学では、横浜と鎌倉へ出掛け、回を追うごとに班行動の時間と範囲を広げていくのが特徴です。その集大成として、中3の秋には3泊4日の関西修学旅行が実施されます。中学入試対策委員の水嶋瞳先生は、「中1から段階的に班行動を経験していくので、中3の修学旅行では、こちらから特別な指示を出さなくても、生徒たち自身の力で計画を進めることができます。グループ内でのコミュニケーションの取り方、意見のまとめ方など、体験を通して多くのことを習得できる環境を整えています」と語ります。
同校の校外学習は、原則として現地集合・現地解散で行われます。どの電車に乗り、どの駅で乗り換えを行えばよいか、集合時間から逆算して、自分たちで考えて行動しなければなりません。この過程を「すべてが判断の連続」と話すのは、中学入試対策委員長の吉田秀徳先生です。「われわれ大人が力を貸せば、生徒たちは難なくミッションを達成できるでしょう。しかし、それでは意味がありません。正しい判断力や決断力を身につけるべき10代前半に、このような経験を積むことは大いに意義があると考えています」
とはいえ、すべてが計画どおりに進むわけではありません。実際に、中3の修学旅行では、「バスに乗り間違えたり、計画どおりにいかずに悩んだりする生徒もいました」と水嶋先生は振り返ります。「ただ、彼女たちのふだんの様子を見ているからこそ、本人がいちばん責任を感じていることがわかります。そのため、ミスを叱責するのではなく、『どうすればよかったかな』『この経験を次に生かすためにはどのような心がけが必要だろう』と解決策を一緒に考えられるような声掛けを意識しています」と水嶋先生。失敗したこと自体が問題なのではなく、それを次にどう生かすかを考えることが、生徒の成長につながっていくのです。
吉田先生も「誰かに決められたことを、そのまま行うだけでは、生徒のなかには何も残りません。自分たちで計画し、自分たちで考えて行動しているからこそ、失敗も成功も大きな収穫となります。その主体性の体得こそ、本校の校外学習がめざしているところです」と語りました。
ごみ問題や貧困問題と向き合い
生徒の視座を高めるバリ島海外研修
同校では、海外研修においても特色あるプログラムを展開しています。その代表例が、国際コースの中3希望者を対象にした「バリ島海外研修」です。これは、SDGsにおける課題解決の視点を取り入れた英語探究プログラムで、インドネシアのバリ島が抱えるごみの大量発生や貧困率の上昇など、国際的な社会課題に「自分ごと」として向き合うのを目的としています。事前学習を通して課題に対する理解を深めた後は、現地での実地研修によって問題の実態を受け止め、具体的な解決策を考えていきます。
バリ島に到着してまず訪れたのは、「スウン」と呼ばれる広さ約30ヘクタールのごみ山です。生徒たちは、そこに暮らす人々や、NPO法人によって建てられた教育施設で学ぶ子どもたちと交流しました。もう一つ、生徒たちに大きな印象を与えたのが、貧しい妊産婦や赤ちゃんに無償医療を提供するために開かれた「ブミセハット国際助産院」です。助産院の設立者であり、「現代のマザーテレサ」とも呼ばれる助産師のロビン・リムさんの話を聞いた生徒たちは、彼女の思いに心を動かされ、涙を流したといいます。
実際に生徒を引率した吉田先生は、「バリ島での滞在生活は、ごみの悪臭がしたり、ホテルの窓を開けるとすぐに外から虫が入ってきたり、空調設備も万全ではなかったりなど、中3の女の子にとっては過酷な環境だったはずです。しかし、彼女たちはそれに対して一度も不満を漏らしませんでした。その姿からは、現地の生活をそこで暮らす人々と同じ視点で体験したいという思いが伝わってくるとともに、彼女たちのたくましい成長を実感できました」と話します。
高校生になると、2週間のオーストラリア課題解決型研修や、4週間のイギリス語学研修、10週間のニュージーランドターム留学、1年間のニュージーランド/オーストラリア留学など、短期から長期まで、さまざまなタイプの海外研修に挑戦する機会があります。水嶋先生は、「このバリ島海外研修を経験した後は、どの国に行ったとしても、それまで以上に充実した知見を持ち帰ることができると確信しています」と、自信を持って語ります。そのくらい、バリ島海外研修には生徒の視座を高める効果があるのです。
最後に、吉田先生と水嶋先生は、同校の校外学習の意義についてこうまとめました。「何事も机上の空論で終わらせるのではなく、現地に赴き、実物に触れるからこそわかることがあります。そこから湧き出す自分の思考や価値観を見つめ直すプログラムを数多く用意していますので、勉強に限らず、多角的に力を伸ばしたい受験生に、ぜひ来てほしいですね」(吉田先生)
「わたしたちが願っているのは、校外学習やバリ島海外研修を通して、どのような環境においても能動的なアクションが起こせる人間になってほしいということです。それが、ゆくゆくは本校がめざす『自立できる人』に結びついていくのだと思います」(水嶋先生)
「バリ島海外研修」では、反省会・ディスカッションを毎日実施し、国際的な課題を「自分ごと」としてとらえることの重要性を肌で感じ、成長していきます
「ブミセハット国際助産院」を訪問し、インタビューを実施。助産師のロビン・リムさんの話に感動し、命の問題に向き合いました