受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.04

ワーストケースシナリオを描いたら
あとは果敢にチャレンジするのみ

 2021年度の中学入試がスタートしました。新型コロナウイルス感染症の流行によって、学校が休校になったり、通塾もままならなかったりと、受験生の皆さんは、思い描いていた受験学年とは大きく異なる1年を過ごしたのではないでしょうか。今回は、そんな不安な日々を送りながらも、ひたむきに受験勉強をがんばってきた6年生と保護者の方に向けて、柳沢幸雄先生がエールを送ります。

文責=柳沢 幸雄

未知のウイルスの猛威を前に
今はじっと“静観”するとき

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 皆さんは、「地震、雷、火事、親父」ということばを聞いたことがあるでしょうか。この四つは、われわれにとって「怖いもの」であると同時に、「抗えないもの」です。「親父」にはぴんと来ないかもしれませんが、かつては、父親の言うことには、家族の誰であっても反対できない、という時代がありました。そのように、この世には、自分の力ではどうにもコントロールできないものが存在するのです。

 今、まさに、わたしたちが直面している新型コロナウイルス感染症の問題も、われわれが「抗えないもの」の一つです。ウイルスの全貌もわからない、安全なワクチンも確立されていない今、われわれはただ、感染リスクの低い行動を心がけ、予防に努めることしかできません。

 しかし、歴史が教えてくれるのは、過去に流行した感染症が、何十年も猛威を振るい続けた事実はないということです。14世紀のペストにしても、1918年からのスペイン風邪にしても、爆発的な流行が始まってから数年のうちに収束しています。ですから、われわれがこの新型コロナウイルスに振り回されるのも、ここ数年のことでしょう。「待てば海路の日和あり」。どんな逆境にあっても、じっと我慢していれば、必ず好機が訪れるものです。今は、新型コロナの収束を願って、じっと耐え忍ぶしかないのです。

最悪の事態を想定すれば
新たな一歩が踏み出せる

 さて、歴史的に見ても、大きな転換点に立たされ、漠然とした不安にさらされているわれわれが、今できること。それは、「ワーストケースシナリオを描く」ことです。つまり、「最悪の事態に陥ったときは、こうする」という行動計画をあらかじめ立てておくのです。そうすることで、自分が何に対して不安を感じているのか、その不安はどうすれば取り除けるのかを客観的に分析することができます。自分なりに納得できるワーストケースシナリオを描くことができれば、あとは失敗を恐れず、果敢にチャレンジするのみです。

 よくよく考えてみると、受験というのは限りなくゼロリスクに近いチャレンジです。合格可能性の高い併願校を受験することで、「全落ち」のリスクはある程度コントロールできますし、特に中学受験においては、万が一失敗しても、公立校という受け皿があります。もし、地元の公立校が荒れているというなら、比較的落ち着いている学区を調べて、そこに引っ越すという選択肢もあります。そこまで「腹をくくる」ことができれば、今、漠然と抱いている不安が、いかようにも対処できるということに気づくはずです。

 もっとも、ワーストケースシナリオを明確に織り込んでおくべきは、子どもよりも保護者のほうです。万が一の状況に陥ったとき、その次のステップに進むために、どのような段取りを用意してあげればよいのか。時には、冷徹な判断が求められるかもしれません。しかし、さまざまな可能性を考えて、粛々と準備を整えておくことこそ、保護者の役割なのです。

チャンスは何度も訪れる
失敗も次の挑戦の糧にして

 一つの試験の合否が、その人にとって成功となるか失敗となるかは、人生を俯瞰的に見なければわからないものです。たとえば、試験の前になると極度に緊張してしまう癖があり、それが原因で満足な点が取れず、不合格になってしまったとします。不合格という事実をひっくり返すことはできませんが、見方を変えれば、自分の癖を知るチャンスを得たということです。次のチャレンジまでにその癖を克服することができれば、その失敗は大きな意味を持ちます。

 人生において、チャレンジは1回ではありません。高校受験・大学受験・就職試験と、人生が続く限りやってきます。失敗を経験した年齢が若ければ若いほど、その反省は大きな教訓になるもの。受験は特に、運に大きく左右される戦いですから、仮に失敗したとしても、その経験を挫折ととらえるのではなく、次のチャレンジへの糧として昇華させてほしいと思います。

 今年の中学入試を控えた受験生の特徴として、自信のなさから志望校のランクを下げる傾向があると聞きます。しかし、あこがれの学校を受験する勇気を持てない理由を新型コロナウイルスによる混乱のせいにしている人が、平時であれば自信満々に出願できたのでしょうか。「今年は十分な準備ができなかった」といいますが、本当にそうでしょうか。

 学校が休校になったことや、通常どおりに通塾できなかったことなど、新型コロナウイルスに起因する特別な状況は、今年の受験生全員に当てはまることです。自分だけでなく、みんなが同じ条件の下でがんばってきたわけです。そう考えると、けっして弱気になる必要はないし、また、そうした“言い訳”をしてはならないのです。

 結果がわかる前に、「自分は受かるだろうか」と、くよくよ考えるのは時間の無駄です。大切なのは、最高のコンディションで本番を迎えられるよう、体調管理に細心の注意を払って、万全の準備をしておくことです。皆さんが試験当日、これまでがんばってきた成果を最大限に発揮できるよう、心から願っています。

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