受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.07

どんな興味も「YES」で受け止め
子どもの得意分野を伸ばそう

 現在ある仕事の半分は、そう遠くない将来、人工知能に取って代わられると予想されています。それはつまり、まんべんなく平均点が取れる「ゼネラリスト」より、何らかの特定の分野に秀でた「スペシャリスト」の需要が高まっていくことを意味します。では、スペシャリストになることをめざして、子どもの得意分野を見つけ、その力を伸ばすために、親はどんなことができるのでしょうか。今回は、「子どもの個性を伸ばすこつ」についてお聞きしました。

文責=柳沢 幸雄

「小さな興味」を見逃さず
子どもの志向を探る

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 「子育ての最終目標とは何か」を考えたとき、一つの答えは、「親である自分自身が死んだ後も、子どもが自立して生きていける状態にさせること」です。

 人工知能が活躍する社会では、どの分野でもまんべんなく平均点が取れる「ゼネラリスト」より、一つでも飛び抜けた得意分野を持つ「スペシャリスト」が求められます。そう考えると、これからは、子どもの得意分野、つまり、「個性を伸ばす」ことこそ、子育てにおける、親の最も重要な役割だといえるのではないでしょうか。

 周りを見渡してください。ご自身を含め、経済的に自立した大人で、自分の嫌いなことや、苦手なことを生業にしている人がいるでしょうか。なかなかいないはずです。好きなことや、得意なことに関連した仕事に就いて、収入を得ている人のほうが圧倒的に多いのです。そのことからも、なるべく早くから、子どもの得意なことを見つけて、その力を磨くことが重要だということがわかります。

 では、子どもの得意分野は、どうやって見つけたらよいのでしょうか。それには、日常生活のなかで、子どもが示す興味や関心を、親がしっかりキャッチする必要があります。

 たとえば、カブトムシを前にして、「かっこいい。飼ってみたい」と思う子もいれば、まったく関心を示さない子もいます。そんなところからも、子どもの志向性は大まかにわかるものです。また、カブトムシをかっこいいと言う子どもに、大人が「どうして?」と尋ねたところで、理由は本人にもわかりません。つまり、子どもの内在的かつ本能的な興味の発露に対して、大人は否定したり、疑問を口にしたりせずに、「静かに見守る」ということが、とても重要なのです。

親からのアドバイスは
「AND」か「BUT」で〝ちょい足し〟

 子どもの興味の対象は、次から次に移り変わります。それが成長するということでもあるのですが、時には、本人の「やりたい」という主張に、親の立場から、助言を与えたい場合もあるでしょう。そこで、わたしが勧めたいのが、子どもの興味に、親のアドバイスを〝ちょい足し〟することです。

 まず、子どもが何かに興味を示したとき、親が示すべき態度は、常に「YES」です。「NO」を繰り返すと、子どもは自分のことを受け入れられていないと感じ、主体性の乏しい人間になってしまいます。

 そこで、親のアドバイスを〝ちょい足し〟するわけですが、その場合、「AND」で足すか、「BUT」で足すか、二つのやり方があります。まず、「YES」で受けて、「AND」で足すというのは、子どもの興味を、「それはいいね」と肯定的に受け止めたうえで、「こういうアイデアをプラスしたら、もっとおもしろくなるかもしれないよ」と、子どもの発想にはなかった新しい視点を与えること。一方、「BUT」で足すというのは、「おもしろいね。だけど、この点は注意して進めないと、後で苦労するよ」と、忠告を与えることです。

 何も勉強に限ったことではありません。野球の素振りを例にとってみても、「違う、違う。バットはこう振るのが正しいんだよ」と言われるのと、「おっ、良いスイングだね。脇を締めると、もっといいよ」と言われるのでは、どちらがやる気になるかは明白です。

 このように、子どもの興味をまずは受け入れ、その時点でできていることを認めたうえで、本人が気づいていない視点や、次にクリアすべき課題を提示する。このサイクルがうまく回れば、子どものやる気と能力は、相乗的に、飛躍的に高まっていくはずです。

親だけが知る本人のがんばりを
「垂直比較」で積極的にほめよう

 わたしたちは、子どものころの自分を過大評価しがちです。子どもに立派に育ってほしいあまり、「お父さんはもっと勉強していた」「もっと上手にできていた」とか、「まだそんなこともできないのか」といったことを、つい口に出してしまうものです。当然、そんなことを言われた子どもは、いい気持ちはしません。発奮するどころか、へそを曲げてしまうでしょう。

 そんなとき、お勧めなのは、ご自身の幼いころのアルバムを見返してみることです。そうすると、当時の記憶がよみがえり、自分が子どものときに好きだったことや得意だったこと、逆に嫌いだったこと、苦手だったことが思い出され、案外、お子さんのほうが優れていることに気づくのではないでしょうか。そうして、「そうか、そんなものか」と、肩の力が抜け、お子さんが今がんばっていることや、ほめるべきポイントが、たくさん見えてくるはずです。

 10年、15年という長期的な時間軸で子どもの成長を見守ることのできる存在は、親のほかにいません。そう考えると、親がやるべきなのは、子どもの能力を他人と比べる「水平比較」ではなく、過去の本人と比べる「垂直比較」です。「以前と比べて、こういうことができるようになったね」「こういう工夫をしたから、上達できたんだね」と、親だけが知る本人のがんばりにフォーカスし、積極的にほめてあげてほしいのです。それこそが親の特権であり、これからお子さんの個性を伸ばすうえで、特に意識すべき役割なのではないかと思います。

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