受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.09

勉強は汎用性の高い〝武器〟
多くの学びから可能性を広げよう

 受験勉強に限らず、勉強は時につらいものです。時間をかけても理解できない、同じ間違いを繰り返す、友だちと遊びたいのに塾がある。そんなとき、「なぜ、こんなに苦しい思いをしてまで、勉強しなければならないのだろう」と考えるお子さんも少なくないのではないでしょうか。今回、柳沢先生は、保護者の方々ではなく、子どもたちに向けて、「なぜ、勉強しなければならないのか」についてアドバイスします。

文責=柳沢 幸雄

社会人として自立するために
勉強は最も簡単な方法

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 なぜ、勉強しなければならないのでしょうか。その問いに対する答えは、二つあります。一つは、勉強することが、自立するために、また、将来に向けた準備として、ほかのものと比較して最も簡単な方法だからです。

 さすがに、保護者の方にずっと食べさせてもらおうと考えている人はいないと思います。皆さんの誰もが、いずれは自立しなければなりません。そのとき、たとえば、「勉強は嫌だ。その代わり、好きな運動をがんばる。そして、将来はプロスポーツ選手になる」と考えたとします。それもいいでしょう。しかし、プロ野球やJリーグの選手になれる人が1年に何人いますか。野球とサッカーを合わせて300人程度です。それに対して、たとえば、最難関といわれる東京大学には、毎年、その10倍の約3000人が合格しています。

 音楽や美術が好きだからと芸術家をめざす場合も、それを仕事にして生計を立てられる人は、非常に少数です。勉強で勝負する世界より、勉強以外で勝負する世界のほうが、はるかに競争が激しく、門戸が狭いのです。

 そう考えると、勉強というのは、皆さんが社会人として自立する準備として、取り組みやすい、合理的でベストな選択肢だと思いませんか。

 もちろん、勉強をがんばる場合も、自分の行きたい学校をめざし、やりたいことをかなえるためには、競争に勝ち抜かなければなりません。しかし、自分の努力だけではどうしようもない、生まれ持った体格や才能が評価に直結する世界に比べれば、極めてフェアに戦える場でもあるのです。

展望台の階段を上るように
知識を得ると〝景色〟が変わる

 もう一つの答えは、勉強というのは、わたしたちが身につけることのできる、極めて汎用性の高い〝武器〟だからです。言い方を変えれば、「つぶしが利く」ということです。現時点では将来の夢が具体的に決まっていなくても、目の前の勉強に真面目に取り組んでさえいれば、それによって将来の可能性が狭まることはありません。勉強すればするほど、広がっていくのです。

 勉強することは、展望台につながる階段を、1段ずつ上っていくのと同じです。新しいことを学べば学ぶほど、地上にいたとき、つまり十分に知識を持っていなかったときには見えなかった〝景色〟が見えてくるからです。10段上れば、さらに遠くの景色が見えます。そして、展望台からは、〝海〟や、それにつながる〝大河〟が見えるかもしれません。

 知識を重ねることで、初めはわからなかったことが理解できるようになったり、興味が深まったりした経験はありませんか。それを繰り返しながら、自分の可能性を広げていくわけです。

 身につけた知識のなかには、結果として、将来の仕事の役には立たないものもあるでしょう。しかし、たとえ役に立たない知識だとしても、とりあえず学んでみることには意味があります。実際に触れてみて、興味を持てるか持てないか、好きか嫌いかによって、自分の適性を知ることができます。初めから「勉強したくない」と、扉を閉ざしてしまったら、それを判断する機会すら失ってしまいます。それは、未来のある皆さんにとって、非常にもったいないことなのです。

壁にぶつかり、苦しいときは
「垂直比較」で自信を取り戻そう

 さて、勉強する意義は理解できたとしても、成績が伸びないときなど、勉強が苦しいと感じることがあります。そんな場合はどうしたらよいのでしょう。お勧めしたいのは、今の学年より2年ほど下の学年向けの、薄い問題集を解いてみる方法です。あっという間に解けるはずです。それと同じように、今苦戦している問題も、あきらめずに立ち向かえば、1~2年後には、自分のものにできるという自信が得られるのではないでしょうか。

 それはつまり、現在の自分を、周りと比べるのではなく、昔の自分と比較する「垂直比較」です。以前に比べて成長した部分を自覚し、自信に変えるのです。たとえ、目の前の壁が高いと感じても、自分が確実に成長していることを実感できれば、それが壁を乗り越えるための強いモチベーションになります。

 また、自分が、「こういうことに行き詰まっていて、うまくいかなくて苦しい」ということを、家族や友だち、学校や塾の先生に積極的に相談することも大切です。自分が苦しいと思っていることは、ことばにして伝えないと、周りの人はなかなか気づいてくれないもの。いろいろな人に悩みを打ち明けて、たくさんのアドバイスをもらってください。そのうちに、きっと〝突破口〟が見つかるはずです。

 壁を目の前にしたとき、大切なのは、どんな工夫をし、どう乗り越えるかということ。「ああでもない」「こうでもない」と必死にもがきながら、解決方法を探る経験は、勉強以外のことにも役立ちます。霧がたちこめたように、もやもやとして視界の悪かったところから、問題を理解した途端、ぱっと目の前が開けるような喜びを味わえるのも、勉強の醍醐味の一つ。苦しいことも、うれしいこともひっくるめて、皆さんには学ぶことを楽しんでもらいたいと思います。

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