受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.11

心身ともに変化の激しい6年間には
中高一貫校の「俯瞰した教育」が生きる

 お子さんが進学塾で学ぶご家庭の多くは、中高一貫校への進学をめざしています。入試を行う中学校、特に私立校の大半が中高一貫ということもありますが、あらためて「一貫校の魅力は?」とお聞きすると、即答できない方も少なくないのではないでしょうか。今回は、13歳から18歳くらいまでの6年間を一つの学校で学ぶ中高一貫校のメリットと魅力について、柳沢先生にお聞きしました。

文責=柳沢 幸雄

成長のスピードは一人ひとり違う
「6年間の余裕」が子どもを伸ばす

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 中高一貫校で学ぶメリットについて、世間ではよく、「中学・高校の学習内容に重複・不連続がなく、6年間、無駄のない、体系的なカリキュラムで学ぶことができる」「多くの学校で単元の先取りがなされるため、早期から大学受験の準備ができる」ということが言われます。いずれも事実ですが、それがすべてではありません。わたしは、それ以外に、大きく二つの魅力があると思います。

 一つは、教員が「子どもの成長を、長い時間軸で見守る」という点です。公立中学では、入学して3年後に高校受験を迎えるため、先生方は、「生徒にいかに発破を掛けて、高校に合格させるか」を強く意識せざるを得ません。それはお子さんを学校に預ける保護者の方の多くが望んでいることでもあります。「高校進学」のためには、多少無理をさせてでも、3年間で生徒を“仕上げる”必要があるわけです。

 しかし、13歳から15歳くらいのこの時期、早熟な子、のんびりしている子など、子どもたちの成長スピードは一人ひとり違います。高校受験という“ゴール”のために、それらを無視して画一的な教育を行うと、その子の良さを見逃してしまったり、押さえつけてしまったりして、子どもたちの知的好奇心を広げる機会を失う危険性があります。

 これに対して、中高一貫校には高校受験がないため、生徒によっては、中2から中3くらいの間に「中だるみ」が生じます。保護者の方はその点を心配します。多くの学校では、その時期に何らかの課題を出したり、イベントを用意したりと、中だるみを防ぐ工夫や仕掛けを用意していますが、多少停滞したり、脱線したりする時期があったとしても、教員が生徒に軌道修正を「強いる」ことはありません。教員も、これまでいろいろな生徒を見てきているので、「最近、少しおちゃらけているけど、しばらくすれば、落ち着くだろう」と、6年間を俯瞰した視点から子どもたちを「見守る」、放っておけるときは「放っておく」のです。そうした「余裕」は、子どもたちの自主性や興味・関心を伸ばすうえで、とても大切なことです。

ロールモデルの存在が
思春期の精神的支柱となる

 中高一貫校のもう一つの利点は、ロールモデルとなる先輩を見つけやすいことです。一貫校の場合、最大5学年上の先輩と共に学校生活を送ることになります。行事や部活動を通して、「こういう人になりたい」と思える、あこがれの先輩と出会うことで、より具体的に自分の将来像を描きやすくなるわけです。また、1〜2学年上の、年齢の近い先輩であっても、中高にわたるつき合いになるので、おのずと結び付きも強くなります。

 わたしにも、開成時代、まさにロールモデルと呼べる先輩がいました。一つ上の人で、後に東京大学の教授になった方です。彼が高2で文化祭準備委員長を務めたとき、わたしは高1で副委員長。その翌年は、わたしが委員長を引き継ぎました。そして、彼が東大の理Iに合格した後は、使っていた問題集を譲ってもらい、わたしも同じ理Iに進みました。わたしの学生時代は、常に彼の背中を追っていたと言っても過言ではありません。

 ロールモデルの存在がプラスに作用するのは、進路選択に限った話ではありません。多感で不安定な中高時代は、大人には打ち明けられない悩みも多いもの。特に男の子はそうです。そんなとき、少し年上の、信頼できる先輩の存在は、子どもにとって大きな精神的支柱になるのです。

「朱に交われば赤くなる」6年間
だからこそ、志望校選びは慎重に

 さて、今年の4月から、成年年齢が18歳に引き下げられます。高校を卒業したら、法律上ではもう大人。では、生まれてから大人になるまでの18年間、子どもたちはどんなステップを踏んで成長するのでしょうか。この18年を6年刻みで考えてみると、実は中高一貫校の教育システムは、非常に理にかなったシステムであることがわかります。

 まず、生まれて最初の6年間は、乳幼児期。保育園や幼稚園で、初めて協調性や社会性を学びますが、この時期の教育のほとんどは保護者が担います。

 次の6年間は初等教育期。小学校で基本的な読み書きや計算を学ぶと同時に、毎日、決まった時間に学校に行く、時間割どおりに授業に参加する、授業中は静かにして、先生の話を聞くなど、基本的な生活習慣、学習姿勢を習得する時期でもあります。教育の役割は、保護者から学校へと徐々に移行していきます。

 そして、その次の6年間が、中等教育期です。一人ひとりの個性が顕在化し、大人として自立するために必要なスキルを磨く時期。親の役割が減って、教育の主な担い手が学校の教員や先輩、友人に移っていきます。この6年間は、心身ともに劇的な変化を迎える、大人への「過渡期」です。この点でも、6年間を俯瞰して見守ってくれる教員や、長期的に時間を共有できる先輩や友人のいる一貫校は、個性を尊重しながら伸び伸びと成長できるという点で、非常に合理的だと思います。

 さて、中高一貫校は、良くも悪くも「朱に交われば赤くなる」場所です。校風が合えば、6年間でその子の能力をぐんと伸ばしてくれますが、うまく「はまらなかった」場合、そこでの学校生活は、子どもにとってつらいものになってしまいます。この場合、6年間はとても長い時間です。めざす学校がどんな雰囲気で、生徒たちの様子はどうなのか。「こういう人になりたい」と思えるような生徒がいそうな集団かどうか。具体的に受験を考えるようになったご家庭には、この視点を大切にしながら、本当に行きたいと思える学校を見つけてほしいと思います。

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