受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.13

面倒な反抗期を乗り切るには
先人たちの「知恵」を活用すべし

 前回に引き続き、子どもの反抗期について。今回は、「最近なんだかもやもやする」「理由はないけれど、いらいらする」と感じている、反抗期に差しかかった子どもたちへのアドバイスも紹介します。反抗期とは、子ども自身にとっても「よくわからない」もの。だからこそ、知識を持って対処することが大切だと柳沢先生は説きます。保護者の方に向けた、子どもの見守り方のヒントもお聞きしました。ぜひ参考にしてください。

文責=柳沢 幸雄

反抗期は生物学上の転換期
理解することで不安は軽減できる

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 子どもの反抗期というのは、大人の立場から見ても面倒ですが、その渦中にいる子どもにとっては、さらに面倒で厄介なものです。いったいなぜ、こんなに気持ちがもやもやするのか、取るに足らないことにいらいらするのか、自分でもよくわからないからです。それだけに、うまく反抗期を乗り越えるには少し知識が必要です。

 まずは、人生を長いスパンでとらえ、現在の自分がどういう成長段階にいるのかを「俯瞰して知る」ことが大切です。人生には、生物としての大きな転換期が3回訪れます。一つは2歳前後。二足歩行ができるようになり、手が自由に使えるようになる、いわば人間らしい動作が身につく時期です。身体的な発達にことばが追いつかないので、思いどおりにいかないもどかしさが、第一次反抗期とも呼ばれる「イヤイヤ期」につながる、というのは前回お話ししたとおりです。

 もう一つの転換期が、50歳くらいから始まる思秋期です。更年期とも呼ばれ、子どもを生み育てるという役割から退き、老いを感じはじめる時期です。

 そして、その二つの間にあるのが、思春期です。これは、それまで子どもだった者が、子孫を残すことができる成熟した個体へと到達する時期。生物としての役割の変化に伴い、ホルモンバランスも体つきも変わってきます。そのような大きな変化を受け入れるわけですから、精神的に不安や混乱が生じるのは当然のことなのです。

 人間というのは、これらの転換期を経て、生物として成熟していくものなのです。このことを理解しておけば、今感じている「もやもや」にも、相応の理由があることがわかり、少し安心できるのではないでしょうか。

小説や漫画で先人の知恵を借り
自分を見つめ直すのも一つの方法

 そうはいっても、今まさに反抗期に踏み込もうとしているお子さんにとってはもちろんのこと、その“渦中”いるお子さんにとっても、反抗期は何だかよくわからない存在です。自分でどう対処していいかわからず、余計に不安やいらいらが増し、それを人や物にぶつけてしまうこともあるでしょう。そんなときに、あるいはそうなる前に参考にしてほしいのが、すでにその時期を経験した人からのアドバイスです。

 身近な人であれば、2~3歳上の同性の先輩が適任ですが、必ずしも身近な人でなくてもいいのです。長く親しまれている文学作品を読むのも、先人からアドバイスを得ることと同じだからです。

 わたしが思春期に読んで感銘を受けたのは、ヘルマン・ヘッセの『デミアン』『車輪の下』、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』、ドストエフスキーの『未成年』、スタンダールの『赤と黒』といった小説です。いずれも、若者特有のナイーブな感情や情熱を描いたもので、子どもたちにもきっと共鳴するところがあるだろうと思います。もちろん、小説に限らず、漫画でも構いません。たとえば、あだち充の『タッチ』。甲子園をめざす双子の野球少年と、その幼なじみの女の子をめぐる青春漫画ですが、甲子園出場の夢を追い掛ける気持ちと、思いどおりにならない恋愛感情のもどかしさは、思春期にこそ理解できるテーマではないでしょうか。

 小説や漫画は、自分を相対化して、ほかの視点から見つめ直すという意味でとても有用です。多感な時期にどういう作品に触れ、そこから何を得たかは、その後の一生を左右するといってもいいほど大きな影響力を持つものです。身近な大人や先輩にお薦めの作品を尋ねながら、その幅を広げていけば、ゆくゆくは深い教養にもつながっていくことでしょう。

反抗心は「マグマ」のようなもの
小爆発を受け入れ、自立心に任せよう

 さて、この時期のお子さんを見守るうえで、保護者の方にお願いしたいのは、子どもの人間関係をよく観察しておいてほしいということです。「つき合う友人が変わってきた」「遊び方が変わってきた」と感じたときは、要注意かもしれません。

 最近は、SNSを通じたトラブルがニュースをにぎわせています。子どものインターネットでのやり取りは、なかなか大人の目が届きにくく、気づいたときには深刻な問題になっているケースも少なくありません。お子さんにスマートフォンを持たせるご家庭も多いと思いますが、その際は、しっかりルールを決めておきましょう。

 わたしは、親が携帯料金を支払っている限り、親は子どものスマートフォンをチェックする権利があると思っています。もちろん、こっそりというわけにはいかないでしょう。しかし、「気になるときは見せてもらうよ」と、最初に断っておくべきです。子どもは「不自由だ」と反発するでしょうが、経済的自立なしに自由は得られないわけですから、少しでも気になることがあれば、親がちゅうちょなく介入できるような関係を築いておくべきだと思います。

 そして、反抗期の子どもには、「心ゆくまで反抗させる」ことも大事です。反抗期の「いらいら」は、火山活動における「マグマ」のようなもの。長い間ため込んでいて、ある日「ドカン」と大爆発するより、日ごろから「小爆発」を繰り返していたほうが、後々リカバーしやすいからです。

 子どもの反抗期とはすなわち、親にとっても子離れのタイミングです。本当に助けが必要なときに手を差し伸べる準備さえしておけば大丈夫。あとは子どもたちの自立心に任せ、温かく見守ってあげてください。

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