受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.19

夏休みは学習計画を立てる絶好の機会
試行錯誤して最適なペースをつかもう

 いよいよ夏休みが始まります。約40日間にわたる長い休みですから、ふだんできないことに思い切って挑戦するチャンスです。「苦手科目を克服する」「志望校の過去問に手をつける」など、それぞれに目標があると思いますが、柳沢先生が奨励するのは「自分に合った学習計画を立てる」ことです。夏休みだからこそできる学習計画の立て方や、学習ペースのつかみ方、家庭学習のこつなどについてアドバイスします。

文責=柳沢 幸雄

受験勉強はペース配分が肝
1週間単位で計画を立ててみる

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 受験勉強とは、いわば長いマラソンレースのようなものです。自分はどのくらいの負荷に耐えられるのか。どのようなペース配分であれば、パフォーマンスを最大化できるのか。トップアスリート並みの高い分析力と計画力が合否を左右するといっても過言ではないでしょう。

 そうした分析力や計画力を高めるためにお薦めしたいのが、この夏休みを使って、1週間単位で学習計画を立てることです。ポイントは、7日間のうち、6日を稼働日として、残り1日は休日とすることです。6日間で消化できる範囲の学習内容を設定し、それを完遂できたら1日は自由に過ごしてもいいというルールを設けます。もし、やり残しが出てしまったら、そこに予備の1日を充てればいいのです。

 これは何も、わたしが編み出したアイデアではありません。旧約聖書の創世記にも「神は地球を6日間で創造されたあと、7日目に休まれた」と書かれています。これは「6日がんばって、1日休む」というサイクルが、人間にとって理にかなっていることの証しといえます。

 計画を立てて1週間がたったら、一度、振り返りを行います。負荷がかかりすぎていたのであれば、翌週はもう少し演習量を減らし、まだ余裕があるのであれば、量を増やすか、問題の難度を上げます。夏休みは約5週間ありますから、こうした微調整を4~5回加えれば、おのずと自分に合ったペースの学習計画が出来上がるというわけです。これをもとに、秋以降の学習の量やペース配分を組み立てることができるでしょう。

勉強の進め方は人それぞれ違う
いろいろなやり方を模索しよう

 次に、具体的な学習計画の立て方ですが、子どもが集中して勉強できる時間は、せいぜい1時間くらいです。それならば、1時間を「20分」「15分」「15分」「10分」に区切って、そこに4教科を割り振るのがよいでしょう。

 受験勉強の過程では、できるだけ1日にすべての科目を入れることをお薦めします。なぜかというと、人間の記憶には短期記憶と長期記憶の2種類があり、初めて目にする漢字や公式などの短期記憶は、数秒から数時間で忘れてしまうからです。それらを長期記憶として定着させるには、短いスパンでインプットとアウトプットを繰り返すことが重要なのです。

 ここでのアウトプット方法は、人それぞれに得意なやり方が異なります。わたしが得意としていたのは、まるで教師が生徒に向けて授業をするかのように、自分で自分にレクチャーするという方法です。「ここはこうだから、これはこうなるよね」「この項目はちゃんと覚えておかなきゃだめじゃないか」と、教師が言いそうなせりふを、ぶつぶつとつぶやきながらノートに向かっていました。それは、さまざまな試行錯誤の末、覚えたい項目を“声に出す”ことが、自分にとって適した方法であると行き着いたからです。

 同様に、勉強に手をつける順番も、得意科目が先か、苦手科目が先か、人によって意見が分かれるところです。わたしの場合は、好きな科目から始めていました。そうすると、楽しくて、高揚した気持ちのまま苦手科目に取りかかることができたからです。

 このように、自分なりの方法や、気持ちよく勉強できる科目の順番を探ってみるのも、この夏休みに試してほしいことの一つです。

勉強時間は短ければ短いほどいい
定常的にこなせる内容を心がけて

 保護者の方に申し上げたいのは、「勉強する時間は長ければ長いほどいい」と考えないでほしいということです。しっかり集中できているかが大事なのであって、むしろ、時間をかけずに終わらせられるのであれば、それに越したことはないのです。

 また、夏休みで子どもが家にいる時間が長いのをいいことに、保護者の方が張り切って子どもに勉強を教えようとするケースが多く見られますが、これはあまりお薦めしません。何しろ、子どもにとって親は教師ではないので、教師でない人に教わっても、真面目に取り組もうとしないのは当たり前です。それでけんかになるくらいなら、初めから教えないほうがいい。わたしの経験を振り返っても、勉強を教えるのにいちばん苦労した相手は、自分の子どもたちなのですから。

 家庭学習の進め方として最適なのは、子どもに先生役になってもらって授業をさせることです。親は生徒役です。しかも、思い切り飲み込みの悪い生徒役に徹してください。「どうしてこうなるの?」「この答えじゃだめなの?」と食い下がると、お子さんは、あの手この手で説明してくれることでしょう。また、料理が出来上がる時間にキッチンタイマーをセットして、「アラームが鳴る前に、この問題をクリアしてみよう」という学習も、ゲーム感覚で取り組めるので、子どもたちは喜ぶと思います。

 長い夏休み。計画を立てることはもちろん大事ですが、計画に追われないことも大切です。計画通りに進まないことに焦り、勉強へのモチベーションが下がってしまっては意味がないからです。定常的に続けられる時間や量を意識して、自分のキャパシティーを把握できれば、夏休み以降の勉強はもちろん、検定などの受験の際にも役立つでしょう。たくさんのトライアンドエラーを繰り返しながら、自分なりの学習方法を模索してみてください。

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