受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

挑戦するキミへ

Vol.23

積極的な「あいさつ」を心がけて
新年度を心地よくスタートしよう

 もうすぐ学校でも新年度が始まります。6年生は中学校生活に、5年生以下の皆さんは進級後の新生活に思いをはせ、期待に胸を膨らませていることでしょう。新年度のスタートをスムーズに切るために、どんな準備をしておけばよいのでしょうか。そして、春休みを有意義に過ごすためにどのような心構えが必要なのでしょうか。柳沢先生が新しい人間関係におけるあいさつの重要性や、教科学習にとらわれない時間の使い方などをアドバイスします。

文責=柳沢 幸雄

新しい友だちと親しくなるために
まずはあいさつから始めてみよう

柳沢 幸雄

やなぎさわ ゆきお●北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年4月から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。2020年4月から現職。

 この4月から、進学先および進級先での新生活が始まります。特に6年生は、小学校から中学校へとまったく新しい環境に飛び込むわけですから、「クラスになじめるだろうか」「気の合う友人はできるだろうか」と、期待と不安の両方を抱えているのではないでしょうか。

 わたしが考える、新しい環境になじむためのいちばん簡単な方法は、自分から「あいさつをする」ことです。もちろん、初めから積極的に話し掛けることができたらいちばんいいのですが、知り合って日の浅い相手の場合、どんな話題を選べばいいのか困ります。その点、あいさつは、人やTPOを選ばない、万能なコミュニケーションツールです。相手はクラスメートでも、朝の通学路でよく見かける同級生でも、教師でも構いません。あいさつの後に相手の名前をつけて、「おはよう、○○さん」と話しかけてみましょう。相手との心理的な距離がぐっと近くなり、そこから会話のきっかけがつかめるはずです。

 新しい環境に不安を抱いているのはみんな同じです。恥ずかしがって、まごまごしていると、せっかく仲良くなれるチャンスを逃してしまいます。皆さんには、自分から「おはよう」と声を掛ける勇気をぜひ持ってほしいと思います。

新しい環境で居場所を見つけたら
その後の成績は必ず伸びる

 学校側も、生徒たちに早く環境になじんでもらおうと、さまざまな工夫をしています。たとえば開成では、中1の6月に2泊3日の学年旅行に出掛け、班に分かれてカレー作りに挑戦します。しかも、ただカレーを作るだけでなく、「ごみの量がいちばん少ない班の勝ち」というテーマを設定し、競争をさせるのです。班のメンバーは、1組の出席番号1番、2組の出席番号1番、3組の出席番号1番…というように、クラスをまたいで構成します。全員がほぼ初対面のため、初めはぎこちない雰囲気ですが、「カレーを作る」「ごみは極力少なくする」というミッションがあるので、それを完遂するために自然と会話が生まれ、仲が深まります。

 現在、わたしが北鎌倉女子学園で担当している「論文教室」の授業も、3人1組の「もんじゅの会」を作って進めています。授業ごとに「もんじゅの会」のメンバーはシャッフルされますが、知らない者同士だからと遠慮している暇はありません。「わたしはここを書くね」「あなたはここを考えて」というように、取り組むべきタスクを話し合い、分担して作業を進めるうちに相手の性格がわかり、自然に仲良くなっていくのです。

 なぜ、学校が生徒同士のコミュニケーションにここまで心を砕いているかというと、「所属するコミュニティーに居場所ができる」ことが、その子の能力を引き出すための最も大切な条件だからです。一般的に、中学入試での成績と6年後の進学先に相関は認められませんが、中1の学年末の成績と大学受験の結果は少なからず相関があります。つまり、1年間過ごした環境が、その子にマッチしていたか、居心地の良いものだったかどうかが、学業のパフォーマンスを左右するのです。

 最近は、ある日を境に突然学校に行けなくなる子、教室に入れない子が増えていると聞きます。その理由は子どもによってさまざまですが、「学校に居場所がない」ことも一つの原因ではないでしょうか。ご家庭でできる唯一の予防策は、わが子の話にしっかり耳を傾けることです。それによって子どもの悩みやトラブルに気づきやすくなります。また、子どもにとっても、自分の気持ちを言語化することは、他者と円滑にコミュニケーションを図る練習になります。

春休みは教科学習だけでなく
得意分野を磨くために活用しよう

 この春休みを使って、「これまでの復習をしておこう」「次の学年の単元を先取りしておこう」と張り切っているお子さんもいると思いますが、人生を長い目で見たときに優先すべきなのは、自分の得意分野を伸ばすことです。野球が好きならキャッチボールやバッティングの練習、音楽が好きなら楽器の練習にまとまった時間を割いてもいいのです。

 今や「ペーパーテストで良い点数を取ることが、安泰な人生につながる」という時代は終わりました。ChatGPTに代表される生成AIの台頭によって、知識を覚えているだけの人間は必要とされなくなってきているからです。今後は、勉強のみならず、芸術やスポーツといった幅広い分野から自分の適性を見つけ、自分にしかできないことの価値を高めていかなければなりません。せっかくの春休みは、教科学習だけに費やすのではなく、得意分野を見つけ、それを磨くための有意義な時間にしてほしいと思います。

 最後に、この時期にいちばん注意してほしいのが、ゲームやインターネットに夢中になって、生活リズムが崩れてしまうことです。わたしが見てきた中1生のなかにも、春休みの間、合格祝いで買ってもらったゲームに没頭しすぎて、昼夜逆転してしまった子がいました。10代前半は、健康な体を作るための最も大切な時期です。夜9時にはゲームやインターネットはおしまいにして、十分な睡眠時間を確保するよう心がけてください。

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