受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

映画『こどもかいぎ』監督が語る対話の重要性

「正解」も「結論」も不要
訓練の積み重ねで対話力は伸びる

 多発する自然災害や混迷の度合いを深める国際情勢。先行きが不透明で、正解のない時代といわれる今、人とのつながりや対話が一層重要になってきています。今回は、子どもたちが対話する様子を撮ったドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』の監督・豪田トモさんに、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がインタビュー。対話の重要性や、大人が子どもたちに学ぶことの大切さなどについて伺いました。

「家族」「命の大切さ」をテーマに
ドキュメンタリー映画を制作

髙宮 『こどもかいぎ』以外の作品についてもお聞かせください。これまで何をテーマに、どのような作品を撮ってこられたのですか。

豪田 最初の長編ドキュメンタリー映画『うまれる』は、「人はどう生まれるのか」をテーマに、ある妊娠中の若いカップルが、どういう期待と葛藤を抱いて子どもを産み、親になっていくのかということをメインに追い掛けました。赤ちゃんが生まれるかたちはさまざまです。そこで、出産予定日にお腹のなかで赤ちゃんが亡くなってしまったご夫婦、生まれた赤ちゃんに障害があり、1歳まで生きる確率が10%と宣告されたご夫婦、10年近く不妊治療を受けたものの、結局、子宝に恵まれなかったご夫婦なども取り上げ、映画を構成していきました。

 2作目の『ずっと、いっしょ。』は、生まれた後、人はどうやって亡くなっていくのか、家族がどうつくられていくのかをテーマにした作品です。実際に家族を亡くした方のその後の様子、そして、子連れ再婚のご夫婦がまた新しい生命を生み出していく過程などを取り上げ、「家族のつながり」の大切さを訴えました。

 3作目の『ママをやめてもいいですか!?』は子育てがテーマです。子育て中の母親を取り巻く環境を描きつつ、そのなかで悩む母親が再び新たな命を育んでいく姿を追いました。これら3作はどれも出産シーンがあって、わたしは出産を軸に作品を組み立てていく手法をとっていました。そして、いろいろな状況、たとえば、「子育てがつらい」などといったことがあったとしても、「やはり命ってすばらしい、大切にしたい」ということを伝えようとしたのです。

 ただ、今回の『こどもかいぎ』は、出産シーンがありません。今まで軸としてきた出産という要素がなくなってしまったので、「映画をどう形づくっていけばいいのだろうか」と悩みました。撮影時はまだテーマが明確ではなかったこともあって、編集に2年もかかりました。行ったり来たりして編集をしながら、そのなかで「そうか、子どもたちの対話そのものがテーマなのだ」とあらためて気づき、ようやく作品を完成させることができたのです。

子どもたちを見習って
大人もきちんと対話してほしい

髙宮 豪田さんは「こどもかいぎ」を世に広めていく活動にも携わっていらっしゃいます。その試みの一つである「小学生版こどもかいぎ」というイベントに、わたしもファシリテーターとして協力させていただきました。小学生が対話する様子を撮影されていて、どのようにお感じになりましたか。

豪田 小学生になると、やはり未就学児よりも思考が深くなり、話す内容も幅広くなりますね。習い事をはじめ、ロシア・ウクライナ問題などについてもしっかりと話し合えて、可能性の広がりを感じました。

髙宮 わたしは、子どもたちの対話能力の高さに驚く一方で、課題も感じました。それは、子どもたちの間での同調圧力の強さです。なるべくみんなと同じことを言って、無難にまとめようとする雰囲気を感じました。回を重ねていけば、「自分はこう思う」「いや、それは違う」と活発に発言できるようになるのかもしれませんが、自分というものをあまり強く主張しない傾向が見受けられました。もう一つは、大人であるわたし自身が、ファシリテーターとして「ゴールがほしい」と思ってしまったことです。「こどもかいぎ」では、ゴールを設定してもよいのでしょうか。

豪田 わたしたちが提唱している「こどもかいぎ」では、ゴールや正解はなくても「良し」としています。なぜかというと、人生において答えが明確でないことは多いからです。また、中途半端で話し合いを終えても、後でじっくり考える機会があるからです。結論が出なかった問いを「おみやげ」として持ち帰ってもらうわけですね。

髙宮 豪田さんがお撮りになった映画『こどもかいぎ』には、見ている大人がはっとするような場面がいくつも出てくると思います。そうしたなかから、どのようなことを見習ってほしいとお考えですか。

豪田 まずは、大人もきちんと対話しようということです。大人同士の問題の多くは、対話ができていないことに起因しています。現在、紛争を起こしている国の責任者にも、ぜひ、この映画を見てほしいと思います。

 次に強調したいのは、対話力は訓練によって伸びるということです。フィンランドは対話社会といわれていますが、その国民性は日本人に似て、とてもシャイです。しかし、そのシャイな人たちがここ20〜30年の間に、教育によって「対話上手」に変わりました。日本人が対話やプレゼンテーションが苦手だというのは、国民性のせいではなく、単に訓練や場数が足りないだけの話です。

 ですから、子どもだけでなく、大人もすぐに対話のトレーニングを始めるべきです。今から始めれば、20年後、30年後には日本人も対話上手になって、世界の争い事を調停したり、いろいろな国・地域の人々と協力して、経済や学術分野などを牽引できたりするのではないかと思います。 

髙宮 サピックスでは、生徒の発言を促す対話式の授業を導入しています。子どもたちには対話を通して、学力はもちろん、考える力や多様性への理解力・対応力などを磨き、世界で活躍してほしいと願っています。本日は、ありがとうございました。


公式サイトwww.umareru.jp/kodomokaigi/ 別ウィンドウが開きます。

映画『こどもかいぎ』
 ある保育園で、新たな取り組みとしてスタートした「こどもかいぎ」を1年間にわたって撮影したドキュメンタリー映画。「どうして生まれてきたんだろう?」「ケンカしないようにするには、どうしたらいい?」…。子どもたちの「かいぎ」には、明確な答えも結論もありませんが、全力で話し合い、遊び、泣き、笑い、成長する姿があります。企画・監督・撮影は豪田トモさん、ナレーションは糸井重里さん。
【首都圏での上映館と公開日】
シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋、
イオンシネマむさし村山、
イオンシネマ日の出、イオンシネマ座間
7月22日(金)
イオンシネマ川口7月29日(金)
横浜シネマ・ジャック&ベティ7月30日(土)
イオンシネマ多摩センター、
イオンシネマ港北ニュータウン
8月05日(金)

『オネエ産婦人科』
豪田トモ 著
サンマーク出版 刊
1,650円(税込)

 小説家としても活躍する豪田さんの作品。主人公の橘継生は、担当患者が“産後うつ"で亡くなったことを機に、地方の小さなクリニックでやり直すことに。そこは、「オネエ」の助産師やゲイの院長など、強烈な個性を持つ人たちが働く場所でした。橘は、みずからの偏見に向き合いながらも、トラウマを乗り越え、医師として、人として成長していきます…。

22年8月号 子育てインタビュー:
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