受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

教育ライターが「中学受験」について語る

将来の選択肢を広げるために
今こそ育みたい「学びを楽しむ力」

佐藤 智さんSato Tomo

(さとう とも)教育ライター。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。出版社勤務を経て、大手教育関連企業にて教育情報誌の編集に携わる。その後、独立して、ライティングや編集業務を行う株式会社レゾンクリエイトを設立し、執行役員に就任。現在、教育現場の多様な情報をわかりやすく伝える教育ライターとして活動中。著書に『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著/翔泳社)など。

 将来の予測が立てにくくなった今、これからの時代を生きる子どもたちには、どのような力が求められているのでしょうか。今回は、今年2月に『10万人以上を指導した中学受験塾 SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)を上梓された、教育ライターの佐藤智さんにインタビュー。学び続けることの大切さや、保護者の子どもとの関わり方などについてお聞きしました。

受験テクニックではなく
学びの本質を取り上げる

広野 佐藤さんはこのたび、サピックスに関連した書籍を上梓されました。どのような思いを込めた本なのでしょうか。

佐藤 本のタイトルから、「中学受験の攻略法が書かれているのでは」と思われるかもしれませんが、今回はその手前の部分である学びの本質や家庭での取り組みについて取り上げました。たとえば、子どもが勉強を好きになるにはどんな働きかけがいいのか、学び続けていく力をつけるにはどうしたらいいのかといった点について、具体的な方法論に落とし込んでお伝えしています。

広野 この本を書こうと思ったきっかけは何ですか。

佐藤 サピックスは難関中高への合格実績に定評があり、「どんな指導をしているのだろう」と、教育ライターとして興味を持っていました。そうしたなか、出版社の編集者から「うちの子はなかなか勉強に集中できない。それが苦しい」という話がありました。ほかの保護者の皆さんも、同様の悩みに苦しんでいるのではないでしょうか。そこで、多くの子どもたちに日々向き合い、実績を出しているサピックスの先生方にアドバイスを頂き、それを保護者の方々に伝えてはどうかと考えたのです。取材にあたっては、広野先生をはじめ、4教科の先生方に全面的に協力していただきました。

広野 4教科の責任者に長い時間をかけて取材をし、それをすてきなことばでまとめていただき、ありがとうございました。この本には、心に残るメッセージがたくさん散りばめられていますね。

佐藤 取材をしていて印象的だったのは、サピックスの先生方がそれぞれ個性的だったことです。ご自身が好きなことや授業の仕方・教え方の工夫、子ども一人ひとりの個性に合わせた対応などについて、とても楽しそうに話していらっしゃいました。わたし自身、中学受験への偏見はないつもりでしたが、どこかに「塾は機械的に教え込むところ」というイメージがあったのか、先生方がご自身の個性を発揮しながら、そして子どもたちの個性も大事にしながら教えていらっしゃることが意外であり、印象的でした。

 保護者にとってはマニュアルがあったほうが安心かもしれませんが、わたしは先生が自分の采配で教えられる環境が必要だと考えています。目の前の子どもたちは毎年変わりますし、教室によっても雰囲気がまったく違います。「この子にはもう少し詳しく」「この学年にはこれが必要」と、対応を変えていくことが重要ですから。

広野 サピックスでは、数字だけで講師を評価していません。ですから、講師は子ども自身やご家族の希望をかなえることを考えて授業に専心すればよく、それが創意工夫につながっているのでしょう。

自身に合った選択ができるように
学校教育に関する情報を提供


サピックス小学部
教育情報センター 本部長
広野 雅明

広野 佐藤さんは教育分野を専門に、ライターとして活躍していらっしゃいます。これまで、どのようなキャリアを歩んでこられたのですか。

佐藤 大学と大学院では教育を専門に研究し、教員免許も取得しました。修士論文のテーマは、「学校とNPOの協働」です。学校の先生が教育の核になるという部分は守りつつも、外部の人たちがどう子どもたちの学びを支えていくべきかに興味がありました。たとえば、総合的な探究の時間、総合的な学習の時間をどう実践するか。学校の先生だけで充実した取り組みを行うのは大変ですから、保護者や地域の方々などが学習環境を整えたり、学びをサポートしたりすることが必要になるわけです。そうした研究を経て、わたし自身も、学校に教員として入るのではなく、外から教育を支えたいと考えるようになりました。

 卒業後は出版社に勤務した後、大手の教育関連企業に転職し、学校の先生向けの情報誌の編集を担当していました。全国の学校に取材に行って、その学校がどういう取り組みをしているのかということをインタビューして、学校の先生方に情報をお届けする仕事です。

 取材内容は、「有名大学に何人合格したが、どのようなカリキュラムを実施しているのか」とか、「今まで遅刻者が100名以上もいたのに、わずか数名に減った。どんな取り組みを実践しているのか」などと多岐にわたっていて、とてもおもしろかったですね。

広野 わたしもさまざまな学校の先生方とお話しする機会がありますが、学校にはそれぞれ異なる価値観や個性があります。いろいろな学校の多様な取り組みを、たくさんの現場を見てきた第三者の視点から多くの人に伝えることは、たいへん意義のある活動だと思います。

佐藤 ありがとうございます。ところが、そうした仕事を担当した後、社内異動でマネジメント的な業務につくことになったのです。それがどうしても自分の肌には合わなくて、考えた末に、教育ライターとして独立することにしました。

広野 会社を辞めてまで、教育関係の仕事に携わろうとされたのはなぜですか。

佐藤 ひと口に学校教育といっても、公立の小・中・高校、私立の中高一貫校、公立の中高一貫校、通信制の学校、海外のボーディングスクールなど、その内容はさまざまで、選択肢は実にたくさんあります。そのなかから、子どもたちが個性に合った道を選択して、より自分らしい将来を実現できるように、執筆活動を通してサポートしていきたいと考えたからです。

23年5月号 子育てインタビュー:
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