受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

映画館でとびっきりの鑑賞体験を

専門家の共同作業で生み出される
子どもの心に届くアニメの世界

谷上 香子さんTanigami Kyoko

(たにがみ きょうこ)金融機関にて法人営業、アナリストとして勤務した後、東京芸術大学大学院映像研究科映画専攻プロデュース領域に入学。同学卒業後、アニメ業界に入り、『アップルシード アルファ』アシスタントプロデューサーやアニメ作品の国内外ライセンス業務を経験する。2017年、東映アニメーション入社。『ゲゲゲの鬼太郎』『爆釣バーハンター』プロデューサー補を経て、2019年より『おしりたんてい』プロデューサーを務める。

 NHK Eテレで放映され、子どもたちに人気の児童向けアニメ番組『おしりたんてい』。その長編映画版の第2弾が2024年の3月に公開されます。そこで今回は、同映画のプロデューサーである谷上香子さんにインタビュー。作品の見どころをお聞きするとともに、1本のアニメ映画が出来上がるまでのプロセスやプロデューサーの役割、さらには親子でアニメを楽しむ方法などについて、お話を伺いました。

子どもに人気の『おしりたんてい』
大人も楽しめる劇場版を公開

広野 『おしりたんてい』シリーズは、原作であるポプラ社の児童書も、2018年からNHKのEテレで放映が始まったアニメ版も、サピックスの幼児クラスや低学年クラスの子どもたちに大人気です。顔の形がおしりであるという主人公の姿はとてもインパクトがありますね。

谷上 主人公のおしりたんていの見た目だけで、「下品なのかな」という印象を持たれる方も少なからずいらっしゃいます(笑)。実は、おしりたんていはすごく紳士的な性格で、頭脳明晰、いつも冷静沈着です。事件の依頼を受けたら、真摯に立ち向かいます。ただし、最後に繰り出す必殺技はおしりならではのインパクトがあり、そのギャップが子どもたちにうけているようで、わたしたちも毎回がんばって製作しています。

広野 この春に公開される『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒よ』は、どのような作品ですか。

谷上 テレビ版の主な視聴者層は、4歳から小学校低学年ぐらいまでです。一方、今回上映される劇場版は、それらの視聴者に加えて小学校中・高学年の子どもたちや、その保護者の方々、さらには『おしりたんてい』を知らない大人まで、幅広い年齢層の方々が楽しめる内容となっています。映画版はテレビ版1話分よりも長時間ですから、ストーリーを展開するのにも余裕があります。じっくりとアニメの世界に入り、気持ちを高めてもらうために、いつもよりも難解な事件や人間ドラマをたっぷりと盛り込みました。

 特に謎解きはミステリー要素を強めにして、視聴者参加型を意識して構成しました。自分もおしりたんていと一緒に事件を解決していく気分になれます。もともと、『おしりたんてい』のファンには、頭を使う難しい問題に取り組むのが好きな子どもや保護者の方が多いようです。謎解きイベントを開催すると、難問に取り組むのをすごく喜んでくださいます。家族で「これはどうしたらいいんだろう」と話し合い、何日もかけて考えてようやく答えが出た、などという経験を大切にしてくださっている親子が多いですね。

広野 子どもたちは謎解きが大好きですよね。サピックスでも、いきなり正解や解き方を教えるのではなく、考える時間を楽しんでもらうことを重視しています。

多くの人々がかかわる映画製作
プロデューサーの役割とは


サピックス教育事業本部
本部長
広野 雅明

広野 谷上さんは、プロデューサーとして『おしりたんてい』の製作に携わっていらっしゃいます。プロデューサーは、どのように映画作りにかかわるのでしょうか。

谷上 映画作りの初めに、プロデューサーは、「こういう話の映画を作りたい」「テレビの視聴者よりも上の年齢層の方々に見てほしい」などといった内容の企画書を作り、それを実現するために、映画製作にかかわるいろいろな人に説明していきます。その内容が認められてゴーサインが出たら、脚本家や監督、原作の作家などと一緒にストーリーを膨らませていきます。脚本が決まったら、今度は映像を制作し、声や音楽を作り込んでいきます。

 アニメーションのほとんどは、分業で作られています。絵については、キャラクターの線を描く人、絵を動かすための動画を1枚1枚描く人、背景を描く人、色を塗る人など、さまざまな人が担当します。音についても、声優をはじめ、作曲家や音響技術者など、多くの専門家がそれぞれのスキルを活かして個別に作業します。

 プロデューサーは、シナリオを書いたり絵を描いたりはしないのですが、こうした人々の全体的なやり取りをサポートしていきます。また、作品を仕上げただけでは誰も見てくれませんから、その宣伝や劇場公開、海外展開などの流れもまとめていきます。キャラクターグッズやDVD、書籍といった関連商品の制作にもそれぞれ担当者がいて、彼らとも連携を取りながら、『おしりたんてい』の全体像を把握し、その完成を後押しするのがプロデューサーの役目です。言い換えれば、メールや電話で連絡を重ね、ひたすら打ち合わせを行い、時には平謝りする、という仕事ですね(笑)。

広野 たくさんの専門家と話し合いながら、1本の映画を作っていくのは大変ですが、その分、やりがいも大きいのではないでしょうか。

谷上 自分の思いを込めた1枚の企画書から始まりますが、そこに多くのプロフェッショナルが参加してくれると、自分の想像を上回るアイデアや表現がどんどん出てきます。「これをやりたい」と思っていたことに、「自分も加わりたい」と賛同してくれる人がいて、仲間が次々に増えていき、自分の想像を超えて作品が広がり、形になっていくところが、この仕事の醍醐味です。

24年4月号 子育てインタビュー:
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