受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあ職場見聞録

食品会社で働くって、どんなこと?

株式会社ヤクルト本社
開発研究部 商品研究一課
指導研究員 三井田 聡司さん

 乳酸菌の基礎研究や、それを商品に応用するための研究、商品開発などを行っているのが、ヤクルト中央研究所(東京都国立市)です。ここでは研究職や商品開発職など、約300人の所員が働いています。そのなかで今回は、商品の研究開発を担当している三井田聡司さんに仕事の内容や、やりがいについてお聞きしました。

株式会社ヤクルト本社
開発研究部 商品研究一課
指導研究員
三井田 聡司さん

Qどんな仕事をしているの?

三井田 開発研究部は商品の味など中身の設計を行う部署です。わたしが所属している商品研究一課は、「乳酸菌 シロタ株」を使った「ヤクルト」ブランドの商品を担当しています。わたしは入社して14年目になりますが、これまでで最も深くかかわった商品は、2019年に発売された「ヤクルトファイブ」です。同じ課のメンバーと共に、どんな材料をどのように配合するかを決定し、お客さまにおいしく飲んでいただくための味を決める「風味検討」を行いました。

 商品開発のポイントは栄養成分を決めることです。販売対象として想定したお客さまが、どんな栄養成分を摂取したいと考えているかなどを調べる「市場調査」を経て、その配合を決めます。栄養成分のなかには、入れると風味が悪くなるものもあれば、ビタミン類のように保存中に減少してしまうものもあるので、その調整がとても難しいのです。そうした問題を解消して商品にするのが、わたしたちの仕事。たとえば、カルシウムは少し苦みがあるのですが、それを配合しても商品の味を落とさず、飲みやすくするために、苦みや雑味を感じさせないマスキング技術(※)をいろいろと試します。こうした試作検討は3~4人のチームで行い、試作品ができたら、工場で無事に製造できるか、製造した製品の風味に問題はないかなどを確認してから発売となります。ことばにすると簡単ですが、風味検討が始まってから発売するまでに多くの時間を掛けています。

※マスキング技術:味や香りなどを工夫し、苦味や雑味を感じにくくして商品を飲みやすくする技術

三井田さんの仕事道具

よく使う仕事道具は、試験管、シャーレ、ビーカー、マイクロピペットです。そのほか、試験管内の溶液を細かな振動で均一化するための「ボルテックス」という振動機や、ビーカーの中の流動体をマグネットが回転する力でかき混ぜる「スターラー」という装置なども使います。大学や食品会社ではおなじみの実験道具です

Q仕事で心がけていることは?

三井田 小さいお子さんからお年寄りまでが飲む商品の研究開発ですから、「安全・安心」を最も大切にしています。また、乳酸菌は生きているので、時間の経過に応じて酸味も増していきます。そのため、賞味期限までおいしく飲んでいただける商品になっているかについては、十分に確認します。チームで行う仕事も多いので、日ごろから周りの人々とコミュニケーションを取ることも大切です。

 さらに、商品の風味検討をより正確に行うため、ふだんから自分の舌で微妙な味の違いを感じ取れるかどうかを意識しています。会社では、定期的に甘味、酸味などの元になる物質の濃度の差を舌で確認する「官能訓練」を実施しています。特に気をつけているのは、商品の味づくりをする日の朝食に、刺激物を食べないようにすること。また、他の生きた菌が含まれる納豆などの発酵食品も食べないようにしています。特に納豆菌は生命力が強いので、食べた後もしばらくは口の中に残っています。それが飛び出して培養中の乳酸菌と一緒になると、実験をやり直さなければならなくなることもあるからです。

Q仕事のやりがいは?

三井田 自分が開発に携わった商品が発売されて店頭に並び、それをお客さまが手に取っている場面を見たときは、とてもうれしい気持ちになります。また、乳酸菌の培養は難しくて、何が起きるか予想がつかずに、なかなか良い結果が出ないものなのですが、あきらめずに別の方法を試してやっと成功したときは、達成感でいっぱいになります。

sappy

❶❷ヤクルト中央研究所の実験室が三井田さんの仕事場です。ミルクが入っている試験管にマイクロピペットで「乳酸菌 シロタ株」を入れ、それを振動機に載せて中の菌を均一化したり、溶液の酸性・アルカリ性の程度を表すpH(ピーエイチ)を測ったりします。 手に持っている三角フラスコに入っているのは、試作品。原料の使用割合を変えた試作品を何種類か作ったら、チームミーティングを開いて試飲し、意見を出し合って風味を評価します

sappy

Qなぜ食品会社の研究開発職になる道を選んだの?

三井田 子どものころから食べることが好きで、小学校でも給食は必ずおかわりをしていました。また、食品のパッケージに書いてある原材料名にも興味を持ち、よく見ていたのを覚えています。そんなわたしは、食品科学が学びたくて香川大学の農学部に進学しました。なぜ香川大学かというと、そこでは自然界にわずかしかない「希少糖」を研究していたからです。大学3年生の後期からこの希少糖の研究室に入り、微生物の酵素を使って希少糖を大量生産する技術について研究しました。土や水辺に存在する微生物をひたすら探して実験するのですが、求める力を持った微生物をついに見つけて、論文を書くことができました。

 こうして、大学時代に微生物のおもしろさを知ったので、就職先は食品会社に絞り、なかでも発酵食品に関係する会社を当たりました。ヤクルト本社に入社したのは、人々の健康を意識した仕事ができることに魅力を感じたからです。

Q食品会社の研究開発職に向いている人とは?

三井田さんが商品開発に大きく携わった「ヤクルトファイブ」

ヤクルトファイブ画像 1本(80mL)の中に、300億個の「乳酸菌 シロタ株」を含んだ乳製品乳酸菌飲料です。
 さらに、5種の栄養成分(カルシウム、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、食物繊維)が含まれています。

三井田 やはり、食べることに興味がある人だと思います。それに加えて、ヤクルトのような会社では、人の健康の手助けをしたいという思いがあることも大切です。学校の勉強は、将来、何に役立つのかわからないものも多いと思いますが、いざ働いてみると、学校で学んだことが役立つ場面は多いので、小学生の皆さんはがんばって学んでください。わたしの仕事では、分数やパーセントで表された割合をよく扱いますが、他人にいろいろなことを説明するには、論理的に話さなければなりません。理系でも、意外と国語の能力が必要なのだと会社に入ってから気づきました。

 研究開発の仕事では、期待した結果がすぐには得られないことがよくあります。研究開発の仕事をしたい人は、スポーツや習い事など、何かにチャレンジして壁を乗り越え、達成感を得る体験をして、チャレンジ精神を身につけておくとよいでしょう。

三井田さんが商品開発に大きく携わった「ヤクルトファイブ」

ヤクルトファイブ画像 1本(80mL)の中に、300億個の「乳酸菌 シロタ株」を含んだ乳製品乳酸菌飲料です。
 さらに、5種の栄養成分(カルシウム、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、食物繊維)が含まれています。

第34回/食品会社:
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