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  • 24年2月号 さぴあ仕事カタログ「第68回 スポーツのトレーナー」

さぴあ仕事カタログ

「スポーツのトレーナー」 ってどんな仕事をするんですか?

◎回答者
FC町田ゼルビア アカデミー
フィジカルコーチ
久保 篤史さん

 前のページでは、さまざまな種類のトレーナーの役割や、なる方法などについて紹介しました。ここでは、身体能力の向上を図るトレーナーに焦点を当て、Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)のFC町田ゼルビアで育成チームのフィジカルコーチを務める久保篤史さんに登場していただきます。仕事の内容やめざしたきっかけなどをお聞きしました。

選手の運動能力の向上を狙った
トレーニングを考え、指導する

 FC町田ゼルビアは、Jリーグに加盟しているサッカークラブ。2023年にJ2で優勝したので、2024年はJ1に昇格することが決まっています。その「アカデミー」に所属する育成チームは、年齢別に「ユース(高校生)」「ジュニアユース(中学生)」「ジュニア(小学4~6年生)」の3チームがあります。各チームの選手たちの身体能力の向上を狙ったトレーニングのプログラムを作成し、指導するのが久保さんの仕事です。フィジカルコーチとほかのトレーナーなどとの役割の大まかなすみ分けについて、久保さんは次のように説明してくれました。

 「選手の通常のパフォーマンスを100とすると、それを強化して101以上にするのがフィジカルコーチの役割です。一方、けがをした選手のリハビリを行って日常生活ができるようにする、つまりマイナスからゼロに戻すのがメディカルトレーナー。ゼロから100まで持っていき、競技に復帰できるようにするのがアスレティックトレーナーの役割です」

 久保さんが作成するプログラムでは、筋力を高めるトレーニング、素早く小回りの利く動きができるようにするトレーニング、瞬発力のある動きができるようにするトレーニング、そして持久力を高めるトレーニングを1週間のなかでバランスよく配置し、幅広い運動能力が鍛えられるようにしているとのこと。スポーツによって求められる動きは異なるため、サッカー特有の知識も必要ですが、「専門性にとらわれすぎると、アスリートとして必要な運動能力を伸ばすことにつながりません。アスリートとして強くなるには、ある程度はどのスポーツでも同じようなトレーニングが必要です」と説明します。

ウエートトレーニングでは、選手のフォームを見て、どこを意識したらいいかを指導。選手によって重さを変えるので、気づいたことはメモをとり、次はどの重量にするかなどを考えます さっぴー

選手の動きにトレーニングの効果が
見えたときがいちばんうれしい

 昼過ぎにFC町田ゼルビアの事務所へ行き、午後4時ごろから夜8時30分過ぎまでグラウンドで選手たちを指導するのが久保さんの典型的な一日です。曜日によって、ユース、ジュニアユース、ジュニアのうち2~3チームのトレーニングを行います。また、久保さんは、スポーツジムで筋力トレーニングなどを行う人に指導するパーソナルトレーナーの仕事もしているので、午前中はそちらで勤務することが多いそうです。

 フィジカルコーチとして心がけているのは、「根拠を持ってトレーニングのプログラムを処方することです」と久保さん。「なぜこのトレーニングをするのか、選手たちにすべてを説明するわけではありませんが、尋ねられたらすぐに答えられるように準備はしています。また、やるべきことは伝えますが、選手には自分から求める姿勢が必要なので、指示を与え過ぎないようにしています。接し方としては、基本的にはあまり親しげになり過ぎないようにと考えています。ただし、相手の性格や年齢に合わせて少し変えることもあります」と話します。

 トレーニングは積み重ねが大事なので、すぐに効果が出るわけではありませんが、選手の動きや年2回の体力測定で効果が見えたときにはやりがいを感じるそうです。

中に水が入ったボール状の器具を使ったトレーニング。これを振ることにより、体が不安定な動きの連続に耐えられるようになります
ポールを回りながら速く走れるように鍛えるトレーニング ジュニアチームの指導。ミニハードルを用いたトレーニングで、走るフォームを改善します

Jリーグのクラブで仕事をするため
大学院で専門性を高める

 小学4年生から高校生まで、学校のクラブ活動や地域のクラブチームでサッカーをしていたという久保さん。高校の部活では月に1回、トレーニング担当のコーチの指導を受ける機会があり、それがトレーナーの仕事に興味を持つきっかけになりました。そこで、情報を集めるためにサッカーの専門誌を読み、前ページで紹介した広瀬統一先生の連載記事を見つけたのです。こうした経緯で、久保さんは、広瀬先生が教えている早稲田大学スポーツ科学部のトレーナーコースに進学することを決めました。

 トレーナーコースでは、解剖学や運動生理学、トレーニング科学といった科目を幅広く学び、身につけた知識を基にテーピングやリハビリなどを実践する実習も行います。久保さんは早稲田大学のサッカー部に所属し、学生トレーナーとしても活動しました。

 大学卒業後は、Jリーグのクラブのフィジカルコーチをめざしていたため、大学院に進学しました。「Jリーグのクラブに所属している人たちの経歴を見たら、ほとんどが大学院を出ていました。また、クラブではフィジカルコーチなどを公募しているわけではないので、修士課程の2年間で仕事につながるパイプを作りながらチャンスを待とうと考え、Jリーグの指導者ライセンスの講習会にも、手伝いをする補助学生として参加させてもらいました」

 こうして大学院を修了した久保さんは、まずアビスパ福岡アカデミーのフィジカルコーチとなり、ジェフユナイテッド市原・千葉アカデミーを経て現在に至ります。小学生の皆さんには、「スポーツの現場で働くには、第一に健康で精神的にも強いことが求められます。将来、スポーツにかかわる仕事がしたい小学生の皆さんは、よく食べ、よく寝て、自分がしているスポーツを精いっぱいがんばってください」と、アドバイスを送ってくれました。

「第68回 スポーツのトレーナー」:
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