ラグビー、サッカーなどの強豪校として知られる国学院大学久我山中学高等学校は、男女別学の中高一貫進学校です。そんな同校の理科教育では何事も実際に体験することを重視しています。この4月には、その一環として同校と南極の昭和基地とを衛星回線で結んで「南極教室」を開催しました。その模様をレポートするとともに、理科主任の近藤秀幸先生と理科教諭の佐藤大介先生に、同校の体験を重視する理科教育の狙いなどについて伺いました。
国立極地研究所の協力を得て実現
越冬隊員と生徒が交流する「南極教室」
一日の勤務時間について質問する生徒。「午前9時から午後5時までが通常の勤務時間です。わたしは毎日100個くらいの観測項目をチェックし、分析しています」と瓢子隊員
「聞こえまーす」という中3生の元気な声が、国学院大学久我山中学高等学校の第1体育館に響き渡りました。
ゴールデンウィーク直前のこの日、国立極地研究所の協力を得て、同校と南極の昭和基地とを衛星回線で結んで「南極教室」が開かれました。これは南極地域観測隊の越冬期間中に、ゆかりのある小中高校などの児童・生徒が越冬隊員とリアルタイムで交流するというもの。今回は第64次南極地域観測隊の瓢子俊太郎隊員が、同校理科教諭の佐藤大介先生と大学時代からの友人という縁によって実現しました。
生徒は事前に、理科の授業で南極地域観測隊の概要を学習するとともに、隊員への質問をまとめました。この日はまず小講堂で「日本南極観測50周年記念 ふしぎ大陸南極展2006」(国立科学博物館で開催)で流されていた動画を視聴。南極と南極観測についての基礎知識を再度確認しました。
動画は17年前の展覧会で使われたものですが、オーロラやペンギンなどについての解説がある一方で、南極のオゾンホールや気温上昇など地球の環境問題も取り上げられています。生徒はペンギンのかわいらしい動きに笑顔を見せるものの、温室効果ガスの増加の影響で南極の氷が何年も前から解けていたことを知ると、真剣な面持ちになりました。地球環境問題はますます深刻化していますが、南極はその影響が早くから表れていた地域であることがよく伝わってくる動画といえるでしょう。
昭和基地で仕事をする隊員が次々に登場
多様な質問に対する的を射た回答も
こうして事前学習を終えた生徒は第1体育館に移動。昭和基地との中継が間もなくつながり、「南極教室」が始まりました。瓢子隊員の第一声は「聞こえますか」というもので、それに応えたのが冒頭の「聞こえまーす」だったのです。
瓢子隊員はまず当日の昭和基地周辺の天気について、映像とともに「歩けないくらいの強風が吹いています」と紹介。それを聞いた生徒からはどよめきが上がりました。第64次隊が南極に到着するまでの様子を撮影した動画を流す間に、瓢子隊員は基地内に設けられたスタジオに移動し、そこで隊員らはどんな仕事をしているか、ご自身はどんな業務を担当しているかなどを説明しました。続いて、気象観測隊員や医療隊員を呼んで、それぞれどんな仕事をしているか、解説してもらいました。
次は生徒が事前に提出した質問に答える時間です。瓢子隊員はその内容に応じて専門とする隊員を呼びました。「天気予報は1週間分出せますか」という質問に対しては、「可能ですが、観測点が少ないので、精度は日本ほど高くない」とのこと。二つ目の「オーロラはどうやって観測しているのですか」という質問については、3月に撮影したという映像を流しつつ、「カメラやレーダーを使って観測しています。昭和基地では晴れれば毎日観測できますよ」という答えが返ってきました。
そしてクライマックスはその場から直接、瓢子隊員に質問する時間です。男女とも2人ずつ立ち上がり、「南極で印象的なことは」「植物を育てることはできますか」「一日の勤務時間は」「ペンギンなどの生物について研究していますか」という質問を順に投げ掛けると、瓢子隊員は簡潔に回答。生徒は皆、笑顔になりました。
最後に、瓢子隊員は「皆さんはいずれ進路選択を迫られますが、ぜひ自分で決めましょう。誰かに決められると、うまくいかないことがあったときにその人のせいにしたくなるからです。自分で決めればやり遂げられるはずです」というご自身の体験から得たメッセージで結び、「南極教室」は無事に終了しました。
昭和基地の内部を案内する瓢子隊員。屋外に出るときに着用するのでしょうか、写真や動画でおなじみのオレンジ色の防寒服などがずらり
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「質問がある人」という呼び掛けに真っ先に手を挙げた生徒は、「南極で印象的なこと」について尋ねました。瓢子隊員は「オーロラと、南極大陸をヘリコプターから見たこと」と回答しました
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「南極教室」の終了時、互いに手を振って名残を惜しむ生徒と越冬隊の皆さん
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勉強にも部活にも行事にも全力で
「きちんと青春」をサポート
―今回、「南極教室」を開催することになったいきさつについて教えてください。
近藤 本校の理科で重視しているのは、実験やフィールドワークを通じて自分の目で見たり、手で触ったりして、実際に体験することです。その意味では、昭和基地で越冬中の隊員と交流できる「南極教室」は願ってもないチャンス。佐藤から話があった際には「ぜひやろう」と即決しました。
佐藤 わたしは瓢子隊員の南極地域観測隊にかける情熱をよく知っていたので、その点を理解してもらうことも含め、隊員の皆さんとの交流は生徒にとって非常に貴重な時間になると思いました。
―体験を重視するのはなぜですか。
近藤 生徒たちには自分で決めた目標に向かってがんばるという時期が必ず訪れます。そのとき、とても興味があるとか、しっかり勉強したいといった、エネルギーを注ぐに値する対象があれば、最後の最後で踏ん張りが利く。それは実際に体験することによって見つかったり、思いが強まったりするものです。わたしたちはそう考えるからこそ、体験を重視しているのです。先日も、茨城県つくば市にある宇宙航空研究開発機構(JAXA)と高エネルギー加速器研究機構を訪問しました。
―中学入試に挑む小学生にメッセージをお願いします。
近藤秀幸先生(左)、佐藤大介先生(右)
近藤 本校は「きちんと青春」をキャッチフレーズとする学校で、勉強にも部活にも行事にも全力を尽くすことができます。中高6年間という貴重な時間を使って、ぜひ一緒に青春を楽しみませんか。
佐藤 わたしたちは中高生の本分である勉強をサポートすることに集中しています。実験を重視するなど、特に授業には工夫を凝らしていると自負しています。わたしも生徒と共に成長していきたいと願っています。