広大かつ自然が豊かな吉祥寺のキャンパスで、小学生から大学院生までが学ぶ成蹊学園。その中高6年間の大きな魅力は、多様な個性を尊重し合う校風のもと、リベラルアーツを重視した幅広い学びと「本物に触れる」体験ができることです。校長に就任されて3年目を迎えた仙田直人先生は、そんな同校の卒業生でもあります。この2年間、仙田先生が特に注力して取り組んでこられた探究学習と国際理解教育を中心にお話をお聞きしました。
幅広い教養を身につける
リベラルアーツ教育を重視
校長
仙田 直人先生
成蹊中学・高等学校のルーツは、1912年に創立された成蹊実務学校にあります。その創立者である中村春二は「知育偏重ではなく、人格、学問、心身にバランスの取れた人間教育の実践」をめざし、「個性の尊重」「品性の陶冶(とうや)」「勤労の実践」を建学の精神として掲げました。これを脈々と受け継ぐ同校では、幅広い教養を身につけるべくリベラルアーツ教育を重視しています。
「そうした教育を通じて本物に多く接し、心の琴線に触れる機会が多いのが本校の魅力です」と、仙田直人先生は力を込めます。たとえば、家庭科の調理実習では、構内で収穫したタケノコを使い、たけのこご飯を作り、生物では直送されたブタの内臓の解剖を行っています。
このほか、サステナブルなプロジェクトにも取り組んでおり、2021年度に結成された中学生の特別研究グループ「ユネスコ・スクール」は、SDGs文化祭に参加したほか、「けやき循環プロジェクト」の一環として、落ち葉拾いと焼き芋づくりも実施しました。
「なぜ」から始まる探究学習
起業家精神を育てる研修も
校長に就任して以来、仙田先生が最も力を入れてきたのが「探究学習」をさらに充実させることです。就任1年目には、中3の「桃李(とうり)の時間(道徳の時間)」と高2の家庭科の時間を活用して、社会問題などに取り組む、学年で統一した探究学習を体系化。2年目には、対象を中1と高1にも広げ、探究学習の多様化を図りました。さらに、希望者向けのPBL(Project Based Learning)型の課題解決型学習は、「企業との連携」「スタートアップ」「SDGs」の3本柱で行っています。
「ユネスコ・スクール」の活動の一つ、落ち葉拾いは大学生との協働で行いました
では、ここで同校の探究活動の一例を紹介しておきましょう。中1は昨年度、「セカイをChange!」を学年テーマに活動しました。「セカイ」は「世界」ではなく、身の回りの社会や地域、人間関係など、生徒たちがかかわるすべてのコミュニティーのことです。生徒たちはチームで解決できることを話し合い、1人が1台ずつICT端末を使ってパワーポイントを作成し、チームごとに発表しました。
「中学生はどんな方法で探究すればよいのか、まだわかっていません。そこで、わたしは『なぜそうなるのかを考えなさい』と、生徒たちによく言います。課題は『なぜ』から始め、自ら調べ、現地でインタビューすることで見つかるのです。次に、課題解決に向けて自分で仮説を考え、みんなでブレーンストーミングをし、解決策のプロトタイプを作って実証実験する。そして、失敗を繰り返しながら、最後にできたものをプレゼンテーションする。探究学習ではそうしたプロセスが大事です。AIに課題を一つ与えれば、100でも1000でも答えを出すでしょう。しかし、みずから課題を見つけ、正解のない社会で新たなものを創造する、つまり0を1にする『0 to 1(ゼロトゥワン)』は人間にしかできません。その力を養うのが本校の探究活動の目的です」
長崎県・五島列島で行われたStartup CAMPで、自然を生かした製塩を手がける「さとうのしお」の皆さんと
前述したPBLの例としては、中3〜高2の計12名が昨年8月29日からの5日間、長崎県の五島列島で行ったStartup CAMPがあります。まずは人口減少や高齢化といった、事前に自分たちで調べてきた地域の課題について、地元の関係者からヒアリングして検証。そのうえで医療・教育などをテーマに、解決へのアイデアを考え、地元の人たちの前でプレゼンをしました。このStartup CAMPは、社会課題に対応する発想力や起業家精神を育てることを目標としています。
滞在中の2日目までは島の名所を観光し、3日目からはそれをもとに、地元の人々と会ってヒアリングを行い、自分たちがどこで調査するかを決め、アポイントも自分たちで取って活動しました。高校生チームは現地の高校生と面談し、自習室など勉強できる場所がないという課題を見つけ、コミュニティーの場として空き家を利用するという解決策を提案。一方、中学生チームは離島の医療問題を考え、ドローンで薬を配送する企業との連携をプレゼンしました。生徒たちからは3日目以降のプログラムが特に楽しかったとの感想が寄せられました。
国内プログラムから留学制度まで
多彩かつ充実した国際理解教育
グローバル・スタディーズ・プログラムでの1コマ。外国人ファシリテーターのもとで、英語でディスカッションなどを行います
国際理解教育に力を入れている同校では、常時さまざまな国から留学生を受け入れています。さらに、2日間にわたって英語漬けの生活を体験するイングリッシュ・シャワーや、外国人ファシリテーターのもとでグループに分かれてみずからの夢について英語で発表するグローバル・スタディーズ・プログラムなど、国内で行う希望者向けの研修の機会も豊富です。
また、アメリカの名門のセントポールズ校などとの交換留学制度をはじめ、長期・短期の留学プログラムも充実。ケンブリッジ大学やカリフォルニア大学デービス校(UCD)など海外大学での短期研修もあります。
そして、今年1月からは高1・2生を対象に、カナダへのターム留学も始めました。その狙いについて、仙田先生は次のように説明します。
「交換留学に参加するのは、一般的に英語にかなり力を入れている生徒が多いです。しかし、そこまでのレベルではない生徒も留学経験で伸びるのではないか。その仮説に基づき、この試みを始めました」
ターム留学中は参加した22名全員がホストファミリーの家でホームステイを体験しました。語学学校で3週間学習した後、7校の現地校に分散して6週間通いました。成蹊生は1校あたり3名程度のうえ、現地校のあるアボッツフォードはバンクーバーの郊外にあるため、ほかの日本人留学生に会うことはほとんどありません。
「異文化体験をしたことが大きな経験になった生徒、一歩踏み出す勇気が大切だと身に染みた生徒に加え、リスニング力が向上し、TOEFL®のスコアが中3の時に55だったのが、高2で参加した後に83になっていた生徒など、どの生徒からも成長した様子が見られました」
仙田先生は最後に、受験生に次のメッセージを送ってくれました。「小学生のうちは、将来自分のやりたいことがまだ見つかっていない人がほとんどでしょう。成蹊は、本物に触れる学びのなかで、それが見つかる機会が本当に多い学校です。中高6年間で、皆さんが『これだ』と思う瞬間に立ち会うことができると確信しています」