「ありえない」を超えて
人間としての幅を広げる
中3学年主任
探究チームリーダー
光村剛先生
チェンマイツアーがスタートしたのは、2015年夏のことです。当時の大妻中野高校は、スーパーグローバルハイスクール(SGH)のアソシエイト校に認定されたばかりで、すでに語学系の海外研修はたくさん行っていましたが、学びの幅を広げるため、新たにフィールドワーク型のチェンマイツアーを導入しました。
「今夏は4年ぶり6回目の実施でしたが、ツアーのテーマ『“ありえない”を減らそう』は変わっていません」と光村先生は話します。
グローバル化が進む現代社会では、異質なものを受け入れる力が強く求められています。極東の先進国・日本で生まれ育った生徒たちにとって、チェンマイの日常は異質そのもの。たとえばシャワーの水は弱くて茶色いし、バスは時刻表どおりにはまず来ません。食事もやたらと辛くて甘く、まさに「ありえない!」と叫ぶようなことばかりが起こります。
カルチャーショックの度合いは、ある意味、欧米諸国で感じるものより上かもしれませんが、それがチェンマイの当たり前。このツアーでは「トライ&エラー」「アクティブ&ポジティブ」「自分のことは自分で」の三つをモットーに、「みずからの常識の幅を広げ、受容力を高めること」を最大の目標としています。
見るもの聞くもの、すべてが珍しいチェンマイですが、特に「エレファント・プープーペーパー・パーク」はユニークです。こちらは紙すきに挑戦できるテーマパークで、紙の原料は何とゾウの糞! 大型草食動物であるゾウの糞は、臭いもなく繊維だらけで、実は紙の原料にぴったりなのです。
「最初は引き気味の生徒もいますが、糞を消毒して染色し、紙にする工程を追ううちに、糞の有用性を理解していきます」と光村先生。さらに一日の振り返りミーティングでは、このパークの意義をあらためて考察します。「無用のものに新たな価値を創造している」ことを出発点に、ソーシャルデザインやビジネスチャンス、エコロジーなどにも話を広げ、クロスオーバーな学びを実現しています。
また、地元の高校生とのフィールドワークも、チェンマイツアーの重要なポイントです。参加者は彼らと共に市街をめぐり、伝統的な染物や織物、音楽や舞踊などにチャレンジします。加えて、たとえばタイなら麻薬、日本ならいじめといった両国の社会問題にも目を向け、自分たちなりの解決策を論じ合うのです。
当然、会話には英語を使いますが、お互いに母語ではないため、流暢というわけにはいきません。それでも「片言英語」が逆にプラスに働き、「生徒も英語のネイティブスピーカーに対するような劣等感を抱くことはなく、伸び伸びと会話を楽しんでいます」と先生は笑います。
しかも、タイの人々はとにかく親切。ツアーは地元の高校とYMCAの協力を得て実施していますが、どこへ行っても大歓迎してくれます。参加者は、「もし彼らが日本に来てくれたら、どうやってもてなせばいい?」「琴に触ってもらうとか?」などと真剣に討論するなど、このツアーは自国の文化や立ち位置の確認にも役立っています。
「エレファント・プープーペーパー・パーク」ではゾウとも間近で触れ合えます
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紙すきに挑戦。紙の原料に適したゾウの糞の有用性を理解していきます
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小さな梨のような龍眼(ロンガン)は、日本ではまず見ない果物。ライチのような味わいです
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大妻中野OGと現地校OGも登場
世界とのつながりが増える旅
ちなみに、今回はうれしいサプライズがありました。在学中に2度ツアーに参加した同校OGと、4年前にホスト役を務めてくれた現地校のOGの2人が光村先生のSNSでツアー復活を知り、一行を訪ねてくれたのです。
大妻中野のOGは現在、国際系の学部に籍を置く大学生です。ツアーをきっかけに独学でタイ語を学び、今夏からバンコク留学を始めました。
「もともとチェンマイツアーはリピートが可能で、中2から高2までが参加します。部活の合宿のような楽しい旅なので、時折、OGが顔を出してくれるんです。もちろん、生徒は大喜びで、進路相談などもしているようです」と先生は目を細めます。
一方の現地校のOGは、看護師として活躍中です。実は彼女は高校時代に、大妻中野が学内で開催したシンポジウムにゲスト参加してくれたことがありました。つまり、大妻中野との縁は深かったのですが、「わざわざ仕事帰りに駆けつけてくれる心遣いがうれしかった」と先生も大感激です。
「同僚教員の受け売りなのですが、わたしは『グローバル化とは気にかけ合う仲間が世界に広がること』だと思っています。たとえばタイでクーデターがあったら、『ツアーで会ったあの子は大丈夫かな』などと気遣って、SNSをチェックしたりするでしょう。現地校OGの来訪は、その具現化のようでうれしかったですね」と先生は言います。
こうしたつながりは、学校の財産にもなっていきます。現地校やYMCAとのパイプも太くなる一方で、来年以降はツアー内容のさらなる充実を図るとのこと。その進化が今から楽しみです。