都立受検という選択とその副産物
「全力で弁当作りを避けたね」
昨年中受を終えた職場の先輩に、我が子の結果を報告したときに言われた衝撃の一言だ。思い返せば、SAPIXを選んだ時点で(弁当は6年生の後半だけか…)と、ほんのりほくそえまなかったかと言われれば、答えはNoとは言い切れない。そして、私立では珍しいランチボックス制の学校と、給食無償化の恩恵にあずかれる都立校の両方からご縁をいただき、第一志望だった都立へ進学が決まった。昼食準備という観点で、(しめしめ…)と一度も思わなかったと言えば、さすがに嘘になる。
そもそも入室当初は、私立に進むものだと思っていた。だが、『さぴあ』の記事やSAPIX主催学校説明会を通じて、親子ともに桜修館に惹かれ、5年生で第一志望に設定した。とはいえ、適性検査特化塾への転塾は考えなかった。双方向型のSAPIXの授業を子どもが心底楽しんでいたこと。そして、都立の受検形態―高倍率・思考型・当日の問題との相性次第―を考えれば、ご縁をいただけない可能性も十分あると見ていたこと。私立対策を残しておく方が、戦略として合理的だと判断した。適性検査型と私立4科の併願は負荷が高い。だが、適性Ⅱ(算理社の複合)は、実は私立の問題と親和性が高い。記述力を底上げすれば対応可能と見た。
一方で、作文は別軸だと割り切り、銀本やSAPIXで販売している教材『スフィンクス』で補強した。よく「SAPIXについていける子なら都立は特別な対策なしでも受かる」と言われる。だがそれは、要領の良いお子さんか、第一志望が私立でワンチャン枠として受けるケース、あるいは小石川のように適性Ⅲ(理数特化)がある学校の話ではないかと思う。
桜修館には適性Ⅲがない。ゆえに点差がつきにくい。しかも我が家は第一志望。ならば確率は1%でも上げたい。そう考えて、過去問+αの戦略をとった。もちろん、その時間は私立対策の時間を削ることになる。だから、私立が第一志望のご家庭にはおすすめしない。戦略は、志望の優先順位とセットで考えるべきだ。
受験(というよりSAPIX生活)を通して子どもが得たものは、基礎学力や進路の選択肢だけではなかった。むしろ大きかったのは、グリット(やり抜く力)、知的好奇心、そして学習習慣だ。4年生の頃は「高校までの切符を手に入れるイベント」くらいに思っていたが、どうやらそれだけではなかったらしい。どんな環境に置かれても、この3年間で培った力を武器に、我が子はきっとやっていけるだろう。
そんな多くのものを身につけた我が子とは対照的に、結局、SAPIX生活を通して私の弁当作りの技術は一ミリも向上しなかった。3年後、高校課程ではさすがに給食はない。そろそろ本気で腕を磨かねば―。そう思いながら今日も冷凍食品コーナーを眺めている。