我が家の救世主…?
5年生の夏期講習。急に過密になったスケジュールについていけなくなり、家庭学習もこなせなくなった娘は怖いのか嫌なのか、SAPIXへ行く時間になると「あたま痛い…」「おなか痛い…」と言い出すことが増え、遅刻や欠席を繰り返す状態になっていました。ある日の晩、そんな娘を見るに見かねた妻が「もうやめようか?」と聞くと、消え入りそうな声で「がんばりたい…」という返事。このやり取りのあった翌日、心配した妻が塾まで送っていくことになっていました。
家を出る20分前に妻からのLINE。「気持ち悪い、て言い出した…」。
その10分後「うどん2口だけ食べて、なんとか家出た!」。さらにその30分後「塾の前まで来たけど走って逃げた! 追いかけるから、塾に電話しといて!」
SAPIXに電話で事情を伝えた後、落ち着かない気持ちで仕事をしていると、携帯の画面に「SAPIX」の文字。「まだ来られていませんが、大丈夫ですか?」と言われ、慌てて妻に電話すると、電話の向こうからまったく予想外の明るい声が聞こえてきました。
「ちょっと聞いてよー、俳句のおっちゃんがおってん!」
「は???」
「ちゃうねん! 百貨店の1階で捕まえてんけど、一向に足が動かへんから途方に暮れててんけどさ、なんか聞いたことある声するなーて思ったら、目の前におってん!」
どうやら、娘がテレビで見ていた俳句が得意な芸能人が舞台公演の合間に散歩で通りかかったようだ。
「2人で、俳句のおっちゃんや! テレビと同じ声や! 思ったよりちっちゃいな!って大盛り上がりしてもたわ!」
「なんじゃそりゃ…」
ひとしきり盛り上がった後、テンションが上がり切った娘は「行ってくる!」と言って、一人でSAPIXに向かったらしい。
この日からすっかり調子を取り戻した娘は休むこともなく合格まで一直線…などということはなく、受験終了までの間に大小さまざまな事件が当然のように起こりました。それでも、娘の受験生活の中で一番のピンチは、「5年生の夏にSAPIXに行けなくなった事件」だということは間違いありません。
無事志望校の合格を勝ち取り、先生方に報告にうかがった際に「杉山さんは、正直通い続けられるのかどうかと思った時もあったけど、最後までよくがんばった! 成長したね!」という言葉を掛けられて、誇らしげな顔をする娘。その横で苦笑する私と妻の脳裏には、俳句のおっちゃんの笑顔が思い浮かんでいたのでした。