自主独立の気概と科学的精神の下、
「考えることを徹底して求める」
神田 初めに、貴校の沿革についてご紹介いただきたいと思います。
滝口 本校は1957(昭和32)年、東邦大学の理事長であった額田豊博士と、東京都立日比谷高等学校の校長を務めた菊地龍道先生によって設立されました。それ以来、「頭脳の資源化」という理念の下、人類の福祉に資する人材の育成をめざしてきました。菊地先生が掲げた「自主独立の気概と科学的精神を養う」という教育理念は現在も変わらず、本校の教育の柱となっています。ここでいう「科学的精神」とは、文系・理系の枠を超えて、物事を客観的・合理的にとらえ、みずからの頭で考える姿勢を指します。本校をひと言で表すなら、「自分の頭で考えることを徹底して求める学校」です。知識の量だけではなく、考える過程そのものを大切にしています。情報があふれる現代社会では、何を信じ、どのように判断するかが常に問われています。その意味でも、本校の教育理念は今日的な意義を一層強めていると感じています。
神田 額田豊先生は明治時代に3年間のドイツ留学を経験し、理数教育を充実させた学校をつくりたいという考えから、1952年に千葉県習志野市に東邦大学付属東邦高等学校を設立(1961年に中学校を併設)され、その後、東京都世田谷区にも一貫校をということで、1957年に駒場東邦中学校・高等学校を設立されました。その際に迎えられた菊地先生は、全国屈指の名門校、都立日比谷高校で校長を務められた方です。お二人が、新しい時代に向けた新しい中等教育の学校を創設されたのですね。
滝口 はい。その過程で精神的な支えとして受け継がれていったのが、「駒東の3F精神」です。3Fとは「フレンドシップ」「フェアプレー」「ファイティング・スピリット」を意味します。この3Fは、自主独立の気概を大切にする本校の生徒が、みずから考え、みずから行動するうえでの規範となっています。
教員が答えを示すのではなく
生徒同士が対話する時間を大切に
神田 滝口先生は数学科の教員として、長く教育現場で指導されてきたと伺っています。
滝口 非常勤講師の時代も含めると、今年で30年になります。長く数学を教えてきて生徒たちに伝えたいと思っているのは、数学は単に解法や答えを求める教科ではなく、そこに至る思考のプロセスにこそ価値がある、ということです。中等教育では、「論理」が形式的に扱われがちな面もありますが、わたしはその基礎となる論理的思考力の育成に力を注いできました。筋道を立てて考える力こそが、数学理解の根幹を成すものだからです。公式についても、単に使えるだけではなく、その成り立ちを理解し、みずから再現できるようにすることを重視しています。なぜその公式が成り立つのかを理解する過程にこそ、数学の本質があると考えているからです。
神田 貴校の中学入試の問題からも、考える過程を大切にされていることが伝わってきます。数学を通して長く生徒たちの学ぶ姿勢をご覧になってきて、どのような印象をお持ちですか。
滝口 本校には、単に答えを出すことに満足するのではなく、答えに至る過程や、調べたり、まとめたり、発表したりといった一連の学びそのものを楽しんでいる生徒が多いように思います。
神田 学びは楽しまないと続きませんね。
滝口 一つの問題にも多様なアプローチがあります。解にたどり着くまでに、どの方法を選んだのか、どこで迷ったのかといった思考の軌跡を大切にすることが、力の伸びにつながります。わたし自身、若いころには、チョーク1本で授業に臨んでいた時期がありました。完成されたものを示すのではなく、その場で考えながら板書を進めるためです。途中で誤りがあった場合に、どのように修正していくのか、その過程そのものを生徒に示したいという思いがありました。わたしの教育観の根底にあるのは、「みずから筋道を立てて考え、それを他者に伝える力を育てる」ことです。そのため、教員が一方的に答えを示すのではなく、生徒同士が考えを出し合い、対話する時間を大切にしています。
加藤 そうした姿勢は、小学生にとっても大切ですね。
滝口 中学受験を迎える小学生の皆さんにも、ぜひこの姿勢を大切にしてほしいと思います。算数では解法を覚えるのではなく、自分で考え、手を動かしながら試行錯誤することが大事です。その積み重ねが将来の大きな力につながります。数学を通して培われる論理的思考力や粘り強さは、どの分野に進むかにかかわらず、生涯にわたって支えとなる力になると思います。
調べ学習でも利用される図書室。蔵書数は約8万冊で、CDやDVDなどの視聴覚教材もそろっています
食堂は中学生も利用可能。日替わりメニューが充実しています
各教科でレポート作成を重視
中3では研究論文を作成
本校をひと言で表すなら、「自分の頭で
考えることを徹底して求める学校」です。
神田 貴校では、英語・数学・理科実験でクラスを分割した少人数授業を行っています。また、高校生になっても文系・理系に偏ることなく、各教科でバランスの取れた力を身につけることを大切にされています。
滝口 中1・2では英語と理科実験で分割授業を実施し、中2から高2までは数学でも分割授業を取り入れるなど、きめ細かい指導を行っています。高2までは文系・理系を分けず、全員が幅広く共通の内容を学びます。進路に応じた選択が本格化するのは高3からで、それまでは基礎・基本を重視しながら、思考力の土台を育てています。教科横断的な学びにも力を入れています。たとえば、中1の林間学校では、国語・理科・社会の学びを関連づけ、体験と結びつけながら理解を深めています。
加藤 林間学校も総合学習の機会になっているのですね。
滝口 林間学校は、2泊3日で長野県の霧ヶ峰高原に行きます。理科と社会を中心とした総合学習として、生物・地学・歴史・地理などの視点から、総合的なフィールドワークを行います。たとえば、本校作成の「観察手帳」を手に、車山や八島ヶ原湿原を歩きながら植物観察を行うなど、実体験を通して学びを深めています。
加藤 入学当初からレポート作成の課題も多いそうですね。
滝口 本校では創立以来、一貫して探究型学習を重視してきました。レポート作成や発表の機会を多く設け、生徒がみずから調べ、整理し、発信するプロセスを大切にしています。中3の研究旅行では、総合学習の一環として3泊4日で奈良・京都を訪れます。国語・社会の事前学習を踏まえたうえで、現地で世界文化遺産など本物に触れ、その価値や魅力を自分の目で確かめ、研究論文にまとめます。
神田 生徒は自分でテーマを設定し、文献調査や奈良・京都での現地調査を経て、1年近くかけて研究論文を作成するそうですね。その成果の表れだと思いますが、生徒たちは学術系コンクールでもさまざまな賞を受賞されています。昨年11月には「地歴甲子園」(全国高校生歴史フォーラム)に応募されたある生徒の研究レポートが優秀賞を受賞したそうですね。
滝口 奈良大学が主催する地歴甲子園は、高校生が歴史・地理研究の成果を発表する大会です。本校の生徒が2年連続で学長賞を受賞しましたが、これは最優秀賞に当たります。
神田 その研究レポート「八王子城における石垣構造とその背景―実測分析から見る北条氏の築城思想」を拝見しましたが、レベルの高さに驚きました。北条氏照が築城させた八王子城の石垣を、3Dスキャンなどの高度なデジタル技術を用いて分析し、複数の石工集団が築造にかかわった可能性や、当時の関東では例を見ない、権威を示す鏡石が用いられていたことを論証したのですね。大学の先生方からも高く評価されたと伺っています。
早い時期から交換留学を推進
SDGsの国際会議にも参加
神田 国際教育にも力を入れており、早い時期から海外の学校との交流を進めてこられました。1978年に米国カリフォルニア州の高校と交換留学を開始したのを皮切りに、西海岸屈指の名門ボーディングスクールであるスティーブンソン校、英国のイートン校などと交流を重ね、現在は台湾の台南第一高級中学との交換留学を継続して実施されていますね。
滝口 国際交流について、2024年度から従来の留学生委員会を見直し、校務分掌としての「国際交流係」を設置しました。学校全体の取り組みとして体系的に推進しています。具体的には、ターム留学、交換留学、英国・米国研修のほか、アジア太平洋地域研修やSDGsに関する国際会議への参加など、多様なプログラムを展開し、生徒が海外で学ぶ機会を広げようとしています。また、海外からの児童・生徒も積極的に受け入れ、日常の学校生活のなかで異文化に触れる機会を増やしています。こうした取り組みを通して、異なる価値観を持つ人々と協働し、変化の激しい社会でも自分を見失わない力を育んでいきたいと考えています。
加藤 昨年、台湾で開催されたSDGsに関する国際会議には、貴校の生徒も参加したそうですね。
滝口 提携校である台南第一高級中学で開催された、SDGsの探究と実践に関する国際会議に、2年連続で参加しています。この会議には台湾各地からだけでなく、アジア各国からもたくさんの学校が参加しています。各校が研究テーマを設定し、その調査内容や考察を発表し合い、専門家から講評をいただきます。本校のチームは、廃棄物由来のバイオマスをテーマに研究発表を行いました。会議後には、台南第一高級中学の生徒や各国の参加者とも交流しましたが、非常に貴重な経験になったと思います。
神田 オーストラリアやニュージーランドの名門校と交流するさまざまな制度もあるそうですね。
滝口 どのプログラムも応募者が多く、生徒たちの関心も高いと感じています。参加人数に限りがあるため、すべての希望に応えきれているわけではありませんが、今後は少しずつ拡大していきたいと考えています。現在、新たに進めているのが、米国と英国に隔年で生徒を派遣するプログラムです。来年度から本格的に実施したいと思っています。
広々とした全面人工芝のグラウンド。体育祭もここで行われます
校舎の中心に位置するプラザ。生徒たちの交流や文化祭、講演会などでも利用される多目的スペースです
好調な大学合格実績は
主体的な学びと選択の結果
加藤 進路指導はどのような方針で進めていますか。
滝口 本校では相対的な順位ではなく、生徒一人ひとりの成長を重視する絶対評価を基本としています。生徒は他者との比較ではなく、みずからの課題と向き合いながら学びを深めていきます。また、仲間同士で教え合う文化が根づいており、放課後の教室で自然発生的に学び合いが生まれることも少なくありません。こうした環境のなかで、みずから学び続ける力、いわば「自走する学習力」が育まれていきます。
進学指導においても、偏差値のみを基準とした進路選択は行いません。「何を学びたいか」「どこで学びたいか」を軸に、生徒自身の意思を尊重するのが基本です。進学実績は、生徒の主体的な学びと選択の積み重ねの結果として表れるものだと考えています。
神田 2026年の大学合格実績を見ると、国立大学の合格者数は129名で、東京大学は39名(うち現役27名)と全国でもトップクラスです。東北大学や東京科学大学なども前年より伸びており、私立大学でも特に理系分野の強さが際立っていますね。
滝口 生徒たちが本当にがんばってくれました。そのひと言に尽きます。
加藤 以前、保護者の方から「駒東は面倒見の良い学校ですか、それとも自主性を重んじる学校ですか」と聞かれた際、「どちらも正解です」とお答えしたことがあります。昔から、生徒に任せながらも、先輩が後輩のよき手本となり、先生方は一歩引いたところでしっかり見守ってくださっている、そんな学校だと感じています。先生方にとっては勇気の要ることではないでしょうか。
滝口 確かに、手を出し、口を出したほうが楽な面もあります。しかし、ぎりぎりまでは出さないようにしています。失敗も学びの一つだからです。教員が先回りすると、生徒にとって大切な学びの機会を奪いかねません。「失敗し過ぎない程度に失敗してもらう」、そんな距離感を大切にしています。
神田 では最後に、受験生と保護者の方にメッセージをお願いします。
滝口 受験生の皆さんには、「自分の頭で考えること」を大切にしてほしいと考えています。本校には、失敗も学びにとつなげていける環境がありますので、ぜひ自由に挑戦してほしいと思います。その経験こそが大きな成長につながります。保護者の皆さまには、お子さんの挑戦を温かく見守っていただきたいと思っています。
今はAIが発達し、すぐに答えが得られる時代です。だからこそ、すぐに答えを求めるのではなく、自分でしっかり考え、粘り強く取り組める生徒に来てほしいと思っています。根気強くがんばってください。
神田 やはり子どもたちには自分の力で成長してほしいという思いがあるのですね。本日はありがとうございました。