フランスの修道会を源流に
賢明な女性を育てる伝統を受け継ぐ
神田 初めに、学園の沿革についてご紹介いただきたいと思います。
萱場 雙葉学園は、17世紀にフランスのニコラ・バレ神父が創設した修道会をルーツとしています。ニコラ・バレ神父はフランス北部のアミアンで教育を受けた後、ミニム会という修道会に入りました。より貧しく、より謙遜して生きることを重んじる修道生活のなかで、貧しい人々や社会的に弱い立場の人々と深くかかわりながら歩みました。当時のヨーロッパでは女性が教育を受ける機会は極めて限られており、貧しい家庭の女性や子どもたちは読み書きを学ぶことすらできませんでした。ニコラ・バレ神父はその状況に心を痛め、志を同じくする若い女性たちと共に、子どもたちに聖書の教えを伝えたり、読み書きなどの基礎教育を行ったりする活動を始めました。
聖書には、神は一人ひとりの人間をかけがえのない存在として愛していること、そのことを示すためにイエス・キリストをこの世に遣わされたことが記されています。どのような状況にあっても、神は人を見捨てない。その愛を伝えながら、恵まれない子どもたちに教育の機会を届けようとしたことが、雙葉学園の教育の原点です。こうした活動から「幼きイエス会」が誕生し、その精神は世界各地へと広がっていきました。そして1872(明治5)年、メール・セン・マチルドをはじめとする5人のシスターが来日。最初に、外国人居留地のある横浜に着き、布教とともに孤児の養育、教育活動を行い、1875年に築地明石町に女子のための語学校を開設しました。これが雙葉学園の前身です。
シスターたちが大切にした教育の柱は三つあります。一つ目は、神に愛されている人間という存在の尊さに気づき、その喜びを分かち合うこと。二つ目は、神が遣わしたイエス・キリストについて深く学び、その生き方にならって生きようとすること。そして三つ目は、自分たちだけが特別な存在なのではなく、地域社会の一員として人々と共に生きていくことです。一般的な学校教育で語られる理念とは少し異なるかもしれませんが、わたしたちもこのことを子どもたちに伝える教育を行っています。
その後、1909年にメール・セン・マチルドの思いを受け継ぎ、メール・セン・テレーズが雙葉高等女学校を開校して初代校長に就任しました。翌年には現在の四谷の地に校舎が建設されました。残念ながら、その校舎は1945(昭和20)年3月の東京大空襲によって焼失しましたが、多くの関係者の支えによって再建され、現在へと受け継がれています。メール・セン・テレーズは雙葉の教育についてこう言っています。「わたしたちは布教のために日本に来たのではありません。地味で上品な日本女性を育てるために来たのです」と。「地味で上品」とは「おとなしい」という意味ではありません。人間の尊厳を大切にしながら、社会の人々と共に未来を築いていく女性を育てたいという願いが込められています。本校はミッションスクールとして知られていますが、宣教を目的とした学校ではありません。創立以来、一人ひとりを大切にしながら、賢明に生き、社会に貢献する女性を育てる教育を続けています。
神田 わたしも、マザー・マチルドの生涯を描いた『ひとつぶの麦のように』や『雙葉の母高嶺信子』を拝読しました。高嶺先生は雙葉初の日本人校長として知られていますが、歴代の先生方が創立者の理念を大切に受け継いでこられたことが伝わってきました。また、メール・セン・テレーズは生徒たちに「幸せですか」と問い掛け続けたそうですね。そのことばには、「困難な状況にあっても希望を失わず、前向きに生きてほしい」という願いが込められていたと感じました。創立者たちの精神が今も先生方によって受け継がれているのですね。
「何のために学ぶのか」を問い続ける
みずからの使命と向き合う教育
神田 雙葉学園の校訓は「徳においては純真に義務においては堅実に」です。先生が理事長としてごあいさつされた文章のなかに、「学園で学び生活する者に、自分はここにおいて何を大切なものとして選び、どのように行動するか。これを熟慮し、識別し、選択させるものになっていることだと思う」とありました。とても印象的な校訓ですね。
萱場 雙葉の校訓はもともとフランス語で書かれています。フランス語では「わたしの」ということばが添えられています。「わたしの徳」「わたしの義務」というように表現されるのです。義務だから行う、誰かに言われたから行うということではありません。「あなたにとってそれはどういう意味を持つのか」を常に問い続けます。みんながやっているから自分もやる、ということではなく、「わたしにとって徳とは何か」「わたしにとって義務とは何か」を考えることが大切なのです。学ぶことも同じです。自分のためだけではなく、人々と共に生きていくために、自分にはどのような役割があるのか。そのために何を身につけるべきなのか。そうした使命感を持って学ぶことが大切だと考えています。
ステンドグラスが美しく、木のぬくもりが感じられる聖堂。宗教の時間のお祈りなどで利用されます
校舎の最上階にある図書室は自習スペースも充実。眺望がすばらしく、生徒にとって快適な学習の場となっています
歌の響きを通して心が伝わる
芸術教育を大切にする伝統
一人ひとりの尊厳を大切にしながら、
社会に貢献する女性を育てる教育を続けています。
谷口 同じ理念で教育を行う学園の姉妹校は国内に5校ありますね。
萱場 はい。最初に設立されたのは横浜雙葉です。同時にサンモール・インターナショナルスクールも横浜に開校しました。その後、田園調布雙葉、静岡雙葉、福岡雙葉が設立されました。
谷口 年間行事のなかには姉妹校と合同で行うものもありますね。たとえば、聖歌隊姉妹校合同発表会があります。
萱場 これは本校と横浜雙葉、田園調布雙葉、静岡雙葉の4校で行っています。会場は首都圏の3校が持ち回りで担当しています。音楽は世界共通のことばだと思います。楽器がなくても、人は声を合わせて歌うことができます。「心を込めて歌いたい」「神様に思いを届けたい」という気持ちが聖歌を生み出します。美術も同じです。絵筆を持って一緒に何かを描けば、それだけで心が通い合うことがあります。本校では主要教科を大切にするのはもちろんですが、芸術を理解し、その価値を感じ取る心、人を愛し思いを伝える心を育むという意味で、芸術教科も重視しています。
神田 難しい教えがわからなくても、歌の響きを通して伝わるものがありますね。
萱場 わたしは以前、市民合唱団に所属していました。あるとき、歌いながら鳥肌が立つような経験をしたことがあります。まだ司祭になる前、フォーレの『レクイエム』を歌ったときでした。歌詞に込められた祈りを心から表現しようとすると、ことばで説明を受ける以上に、音楽そのものが人の心を深く動かすことを実感します。そのとき、歌には人の心をとらえる力があるのだと強く感じました。
谷口 聖歌隊は雙葉祭(文化祭)では歌わないのですか。
萱場 聖歌隊は奉仕活動という位置づけで、一般的なクラブ活動とは少し異なります。生徒たちはそれぞれ別のクラブにも所属しており、雙葉祭ではそちらの活動に参加します。ただし、小規模な発表会は行っています。
神田 聖歌隊の歌声を聞いた方は、きっと感動されるでしょうね。
萱場 聖堂で祈りの歌をお聞きになった方からは、「心が洗われるようでした」という感想をいただきます。歌には人の心を静かに動かす力があるのだと思います。
中学ではフランス語が必修
高校では進路別のクラス編成はしない
神田 創立時から語学教育を重視し、英語のほかフランス語の授業もあります。しかも、中学ではフランス語が必修ですね。選択科目としてフランス語を設ける学校は珍しくありませんが、必修としている学校は少ないと思います。
萱場 中3では全員がフランス語を学びます。この段階ではフランス語の音に親しみ、フランス文化に触れることを重視しています。本格的に学びたい生徒は、高校で第一外国語としてフランス語を選択することもできます。
神田 実用フランス語技能検定試験では、文部科学大臣賞の団体賞を受賞されたこともあるそうですね。履修している皆さんが非常に優秀な成績を収めていることがうかがえます。
谷口 カリキュラムを拝見すると、ネイティブ教員による少人数でのオールイングリッシュ授業もあるとのことです。この授業は習熟度別ですか。
萱場 本校では、基本的には習熟度別のクラス編成は行っていません。高2・3では、受験科目の違いによって授業を分けることはありますが、国立文系クラスや私立理系クラスといった固定的なクラス分けはしていません。時間割を組むのは大変ですが、一つのクラスのなかに医学部をめざす生徒もいれば、芸術学部を志望する生徒もいる。それはとてもよいことだと思っています。異なる進路をめざす仲間と共に学ぶことで、お互いの視野も広がりますから。
谷口 最近は特に理系志望者が増えていると伺いました。
萱場 本校では中学段階から理科実験を多く行っています。そのことも関係しているかもしれません。一般的には高校で扱う内容も含め、中学3年間で経験する実験・観察の種類は100を超えます。
神田 最近は女子校でも医学部志望者が増えていますが、貴校も医学部進学で高い実績を挙げていらっしゃいます。今春の医学部医学科への合格実績を拝見すると、合格者は合計67人で、うち現役が46人でした。現役合格率は首都圏の女子校では第4位のすばらしい実績です。文理別のクラス編成をせずに、これだけの結果を出されている点は印象的です。一人ひとりに寄り添う、きめ細かな教育の成果だと感じます。
校舎の各階に、自習や談笑に使えるラウンジを配置。廊下もゆとりを持った造りになっています
白いマリア像が安置された「ルルドの洞窟」。校庭の一角にあり、生徒がいつでもお祈りできます
生徒一人ひとりが主体的に活動
雙葉祭で感じる学校の活力
谷口 中学入試について伺います。2月1日は午前に筆記試験、午後に本人面接があります。面接ではどのようなことを聞かれるのでしょうか。
萱場 志望理由は聞きません。受験生全員に公平であることが大切ですので、その年ごとに共通の質問を決めています。また、面接で合否を判断することはありません。はきはきと答えられなくても、相手の顔を見て、自分のことばで話そうとしてくれれば十分です。ことばに詰まってしまった場合には、「では別の質問にしましょう」と声を掛けます。受験生が最後に嫌な思いをして帰ることのないよう心がけています。
谷口 それは受験生や保護者の方にとっても安心ですね。
神田 今年度は志願者数435名に対して受験者数406名と、非常に高い受験率でした。それだけ雙葉で学びたいと考えている受験生が多いということですね。
萱場 昨日も私学の合同相談会がありましたが、「雙葉に通うのを楽しみにしています」と声を掛けてくださる方がたくさんいました。説明会では、わたしたちが何を大切にしている学校なのかを必ずお伝えするようにしています。ただ、教員の説明を聞くだけでなく、雙葉祭などで実際に生徒の姿を見ていただくのがいちばんだと思います。雙葉祭ではさまざまなクラブや団体が活動していますが、中学生も高校生も本当に一生懸命です。自分たちの活動に誇りを持ち、熱意を持って取り組んでいる様子が伝わってきます。本校はミッション系の落ち着いた女子校というイメージがあるかもしれませんが、みんなが自分の意見を持ち、とても活発に活動しています。ぜひその姿を見ていただきたいですね。
神田 最後に、これから雙葉をめざす受験生と保護者の方にメッセージをお願いします。
萱場 あなたたちは、ただの「いいところのお嬢さま」ではありません。もちろん恵まれた環境にいることは事実かもしれませんが、仲間と共に学び、何かを成し遂げたいという思いを持って雙葉を選んでくれた、そんな人たちです。神様もまた、皆さんを仲間としてこの学校に招いてくださったのだと思います。その与えられた恵みを大切にしてください。雙葉に入学してくる生徒たちは、けっして受け身ではありません。「先生、こうしてみようよ」と、自分たちから積極的に提案してくれます。授業でも学校生活でも、生徒たちが自分の思いや希望を伝えながら、一緒に学校をつくっていくのです。わたしたち教員も、皆さんと共に学び、共に成長しながら歩んでいきたいと思っています。ですから最後にお伝えしたいのは、「どうぞよろしくね」ということですね。
神田 雙葉の温かな教育と生徒一人ひとりを大切にする校風をあらためて感じることができました。本日はありがとうございました。