受験ライフをサポートする進学情報誌 さぴあ

さぴあインタビュー

2026年10月号から転載

青山学院中等部

心揺さぶる学びの体験が
人を大切にする心を育み
社会貢献の道へとつなぐ

青山学院中等部 渡辺 健 先生

部長 渡辺 健 先生

明治時代初期に創設されたプロテスタントの学校を源流とする青山学院は、キリスト教の教えに基づく教育を通して、「地の塩、世の光」として社会に貢献する人間の育成をめざしてきました。その理念を受け継ぐ青山学院中等部では、探究する姿勢を重んじる選択授業、平和の大切さを心に刻む校外学習、生き方を考えるきっかけとなる国際教育など、多彩な取り組みを行っています。今年4月に中等部部長に就任した渡辺健先生に、同校の教育理念と教育内容について伺いました。

聞き手

サピックス 総合教育研究所 顧問 神田 正樹

サピックス
総合教育研究所 顧問
神田 正樹

サピックス渋谷校 校舎責任者 佐脇 洋一郎

サピックス渋谷校
校舎責任者
佐脇 洋一郎

「普遍的な真理とは何だろう」
アメリカで抱いた疑問が転機に

神田最初に、青山学院の沿革についてお話しいただきたいと思います。

渡辺青山学院中等部は、1947(昭和22)年に男女共学の中学校として開設されました。学院の歴史はさらに古く、その源流はアメリカのメソジスト監督教会から派遣された女性宣教師が1874(明治7)年に創設した学校にさかのぼります。そこから数えると、今年で創立152年ということになります。

神田1874年というと、日本ではまだキリスト教に対する風当たりが厳しかった時代でした。そのなかで女子小学校が設立され、その後、男子の耕教学舎、神学教育を担う美會神学校などとつながりながら、学院の基盤が築かれていったのですね。

佐脇渡辺先生は青山学院高等部から青山学院大学に進み、卒業後は一般企業に勤めてアメリカに駐在されたそうですね。そこでキリスト教に関心を持つようになったのでしょうか。

渡辺アメリカで現地の人と仕事をしていたとき、日本人との考え方の違いを強く感じました。たとえば日本なら、自分が間違っていたら謝るのが当たり前ですが、アメリカでは「自分は間違っていない」と主張することもあります。それを不思議に思うのは日本人の感覚だと言われました。そこから、「本当は何が正しいのか」「大事なことは何なのか」「普遍的な真理とは何か」ということを考えるようになりました。

そんなころ、たまたま日本人の牧師の方と知り合い、教会に行き始めました。実は、わたしは高等部から7年間、青山学院で学びましたが、キリスト教には関心がなかったのです。でも、牧師さんと話すうちに、気づかされることがたくさんありました。また、祈りが聞き届けられたと感じるような経験が何度もあり、神の存在を意識するようになりました。神様のことを人に伝えていきたいと思うようになり、会社を辞めてノースイースタンイリノイ大学で英語教授学の修士号を取得しました。さらに2年間、トリニティ神学校でキリスト教教育学を学んで帰国しました。教員免許を取得した後、青山学院高等部で非常勤講師として働き始めました。ほどなく専任教員となり、2017年から2026年3月まで高等部部長を務め、この春に中等部部長になりました。

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勉強も行事や部活動も
「喜び」を持てばその経験が力に

神田青山学院のモットーは「地の塩、世の光」です。『マタイによる福音書』のなかのことばですが、これについて生徒たちにはどのように説明されていますか。

渡辺今朝の礼拝ではこう話しました。「青山学院は今回、院長も理事長も替わって新しい体制になりますが、『地の塩、世の光』というモットーは変わりません。塩は味付けや食品の保存に使われ、わたしたちの生活にはなくてはならないものです。光は暗闇を照らし、ろうそくもみずから燃えることで周囲を明るくします。光にも塩にも、周囲を引き立てる役割があるのです。そういう存在を学校はめざしています」と。それが、青山学院がめざす「サーバント・リーダー」につながる道です。自分の使命を見いだして人と社会に仕え、その生き方によって周囲を導く人です。

わたしは「自分にしてもらいたいと思うことは何でも、あなた方も人にしなさい」ということばが好きです。『マタイによる福音書』にあることばで、これを意識していれば間違いないと思っています。この教えが「人を大切にする心」を語ってくれています。

神田「人を大切にする心」は、貴校が育みたい三つの姿勢のうちの一つですね。あとの二つは「真摯に学びに向き合う姿勢」と「勇気を持って踏み出すチャレンジ精神」です。先生は「いつも喜んでいなさい、絶えず祈りなさい、どんなことにも感謝しなさい」という聖書のことばを大切に歩んでいきたいと、あいさつ文に書かれています。

渡辺説明会でも、聖書にある「Rejoice Always(いつも喜びなさい)」ということばについてよく話しています。勉強でも行事や部活動でも、さまざまな場面で喜びなさいと。人と分かち合う喜び、人とつながる喜び、人に貢献できた喜び。そういう質の高い喜びによって、わたしたちの体は生き生きと動きます。「やった!」「よかったね」といった喜びの経験が、将来の力になるのです。そこに「祈り」と「感謝」が加わることで、神様が喜ばれる。それは「あなたが祝福のうちに生きられることなのですよ」と、毎日の生活のなかでも示したいと思っています。たとえば昼休みは、部長室に生徒たちが自由に入れるようにして、何に喜びを感じているのかを聞いたり、喜びを分かち合ったりしています。

中等部のメディアセンター(図書室)の蔵書数は約3万1000冊。2階にはICT教室やミーティングルームがあります

中等部のメディアセンター(図書室)の蔵書数は約3万1000冊。2階にはICT教室やミーティングルームがあります

パイプオルガンが設置された礼拝堂。約850席あり、中等部の全生徒が一堂に会することができます

パイプオルガンが設置された礼拝堂。約850席あり、中等部の全生徒が一堂に会することができます

教科の枠を超えた「選択授業」
調べ問い続ける探究学習を重視

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「やった!」「よかったね」といった
喜びの経験が、将来の力になるのです。

神田特色ある教育の一つとして「選択授業」があります。3年次に週2時間履修するもので、25講座ほどあるなかから二つ選べるのですね。ソーシャルイノベーション入門、暗号、名画の模写などユニークなものも多いですが、中等部らしさが特に表れている講座があればご紹介いただけますか。

渡辺国語科と社会科の教員がチームティーチングで教える「地域デザイン探究」という講座があります。社会をより良くするという視点から、フィールドワークなどを通して社会課題を探究します。ある日の授業では、謎解きをしながら渋谷の街を歩き、コミュニティーデザインについて考えました。

探究はどの教科でも重視しています。知識を学ぶだけではなく、学んだ知識を基に「なぜそうなるのか」「自分はどう考えるのか」と問い続けるのです。わたしは高校時代に世界史が得意でしたが、神学校で旧約聖書を学んだとき、高校で学んだ知識がほとんど残っていないことに気づきました。記憶に頼る学習では、良い成績は取れても後に何も残りません。テストで満点を取る技術ではなく、「なぜそうなのか」と考えることが大事です。経験を通して自分なりの考えを構築し、知識を豊かなものにしていく。そのプロセスが中等教育では大切であり、「地域デザイン探究」のような学びをほかの授業にも生かしたいと思っています。

佐脇先生のご専門である英語では、特に「話す」機会を多くして、コミュニケーションを図ることを重視されていますね。

渡辺非常に効果があると思って続けているのが、マンツーマンの英会話の課題です。3年生が自宅で1回25分間、オンラインで海外在住の講師と会話するもので、これを年間30回行います。テーマに沿って会話をして、実践的にスピーキング力をつけていきます。英語が得意ではない生徒も、回数を重ねるうちに、会話ができるようになります。

佐脇5月には各学年で校外学習があり、2・3年生は宿泊行事となっています。2年生は裏磐梯キャンプで、これは30年以上も続いている大きな行事だそうですね。3年生は3泊4日の沖縄旅行があります。沖縄戦の史実と軍事基地をめぐる現実から、戦争についての認識を深め、平和について考えることが大きな目的ですね。

神田行き先の一つにある糸数壕(アブチラガマ)は、沖縄戦当時、住民の避難壕や陸軍病院として使用された自然洞窟です。「ひめゆりの塔」の前で献花をしている生徒たちの写真を拝見しましたが、とても真剣な表情をしていました。

渡辺あの場所に立てば、誰でもそうなると思います。行く前には沖縄戦に関する映画や映像を見るなど、事前学習もしっかり行います。今年は対馬丸記念館にも行き、普天間飛行場と嘉手納飛行場も見てきて、より密度の濃い平和学習ができました。生徒たちも深い思いを持って帰ってきたと思います。

「本当の幸せ」について考える
フィリピン訪問プログラム

佐脇国際交流も盛んです。現在はオーストラリア、フィリピン、韓国、中国の学校との交流プログラムがあり、東京韓国学校との交流会なども行っていますね。

渡辺K-POPの影響もあって、韓国語の授業を履修する生徒が多く、韓国文化への関心は高いですね。韓国訪問では、ホームビジットなどを経験するなかで、文化的な親近感も感じながら、リラックスした交流ができています。3月の「フィリピン訪問プログラム」では、学院全体で支援している「チャイルド・ファンド・ジャパン」の子どもたちと交流します。貧困の現実を知ると同時に、子どもたちのすばらしい笑顔に触れ、フィリピンという国と、そこに暮らす人々について理解できるプログラムになっています。高等部でもフィリピン訪問があり、それが人生を変えるほどの経験になって、「フィリピンのために生きる」と決めた生徒もいるほどです。

神田以前、フィリピンに行ったとき、普通のご家庭を訪ねて驚きました。トイレは外にあり、シャワーもありませんでした。でも、ご夫婦ともとても親切で、泳いだ後のわたしたちが体を流せるよう、バケツで一生懸命に水を運んでくださいました。限られた環境でも、自分にできることで相手を助けたい。そんな気持ちが伝わってきました。中等部の生徒たちも、現地で同じような経験ができるのではないかと思います。

渡辺高等部にいたとき、引率したことがありますが、生徒たちは毎晩、振り返りをしながらいろいろと考えを巡らせていました。「厳しい環境にありながら、なぜあんなに笑顔でいられるのだろう。自分たちには、あんな笑顔はできない、なぜだろう」「富が問題なのではないか、豊かさが過剰であることが問題ではないか」などと、いろいろ考えるのです。最初は「自分たちが援助してあげる」という感覚で行く子も、現地の人たちから逆に励まされ、元気をもらって帰ってきます。

佐脇フィリピンでそうした経験をしてきた生徒が、日本に帰ってきて、その経験をほかの生徒に伝えていく。これも大きな教育効果があると思います。

渡辺高等部ではグローバルウィークという、礼拝や昼休み、放課後の企画などを通じて国内外のさまざまな問題に目を向けることを目的とした機会を設けています。そこでは、海外に行った生徒が、自身の経験をほかの生徒たちに還元する時間も設けています。たとえば、東ティモールに行ってきた生徒たちは、現地のコーヒー農家を支援するため、コーヒーを持ち帰って、ほかの生徒たちに飲んでもらっていました。飲んだ生徒が現地語で「おいしい」なんて言って喜んでいる様子をビデオに撮って、現地の人たちに送っていました。そういうことがあると、ほかの生徒たちにも「高校生でもここまでできるんだ」とわかります。同じような活動を中等部でも導入したいと考えています。9月には、海外プログラムに参加した生徒が感じたことを発表したり、イベントを開いたりする機会を設けたいと思っています。

充実した楽器・機材がそろった音楽室。防音のレッスン室も併設されています

充実した楽器・機材がそろった音楽室。防音のレッスン室も併設されています

校舎6階の理科フロアには複数の実験室があり、生き物や標本に触れられる展示スペースも

校舎6階の理科フロアには複数の実験室があり、生き物や標本に触れられる展示スペースも

人として頼りにされる経験を積み
喜ばれることが喜びになる人に

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神田中等部の卒業生は95%以上が青山学院高等部に進学しています。高等部においては、専攻分野の関係などから他大学を受験する生徒を除き、卒業生の約85%が青山学院大学に推薦で進学しています。その際は、高等部3年間の学業成績や、学力テストの結果などを総合的に判断して推薦が行われるということですね。

渡辺ですから、1年生のときから気を抜かず、きちんと学びなさいということです。

佐脇貴校をめざしてがんばっている受験生がたくさんいます。そんな小学生と、そして保護者の方に対して、メッセージをいただきたいと思います。

渡辺保護者の方にお伝えしたいのは、お子さんの家庭での環境や生活についてです。「勉強だけしていればいいのよ」ではなく、家の仕事をしっかりさせてほしいと思います。自分は勉強で点数を取ることが仕事だという環境ではなく、親子がお互いに家族の一員として貢献し、人として大事にされている、必要とされている、そういう環境をつくってください。それが家族の愛を感じ、自己肯定感を育むことにつながり、人としての力になっていくと思います。

最近は「受験のために家族でがんばる」のが中学受験のスタイルになっています。でも、その前に、まず人として大切にされ、頼りにされているという経験をさせてあげてほしいのです。「ありがとう。よくやってくれて助かるよ」と言われるような経験をしながら育ってほしいと思います。別の言い方をすれば、本校は、人に何かをして喜ぶことや、喜ばれることを喜びに感じられる子どもに育ってほしい、そうした人格教育を受けさせたいと考えるご家庭に向いている学校だと思います。

佐脇それがまさに「サーバント・リーダー」につながることですね。

神田先生のお話で、何より豊かな心を持つ人間を育てていきたい学校なのだとよくわかりました。本日はありがとうございました。

集合写真
共学校 私立 東京

青山学院中等部

〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25 東京メトロ銀座線ほか「表参道」駅より徒歩7分、JRほか「渋谷」駅より徒歩13分
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