受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

最新中学入試情報

2025年度中学受験  サピックス小学部第36期生/親子で歩んだ 受験の軌跡

進学校 栄光学園中学校

汚れた手

A.Oさん お子さんの名前 Kさん

 2月2日雨。観音様に見守られながら坂を上る。一言声をかけたかったが、息子は不機嫌に私の手を払って試験会場に入っていく。試験中スマホでアニメを見るが、映像が頭に入らない。かわりに別の映像が流れ始める。
 ……2022年3月サピ入室。自宅から最も近い塾。近所の中高一貫校の受検を見据えて、勉強が得意な生徒達に紛れ、真ん中ぐらいに食らいつければと淡い希望を持っていた。成績は低空飛行、遊び疲れた息子はテスト中に眠ることも。サピから、漢字ぐらい勉強させてください、と怒られた。
 2023年新春、最初で最後の表彰状を貰う。算盤の後サピに行く曜日があり、度々遅刻していたら、サピからもう二度と遅刻させないでください、と怒られた。
 2024年夏、これまでのSOで、毎回Aタイプが残念な成績だったので、息子と一緒に志望校を決めた。
 秋。土特は熱烈校、SSは熱烈校の役に立つかとBタイプの学校を選択、退路を断ってBでダッシュし続ける。
 冬。年末に体調を崩し、正月特訓と冬期講習を棒に振る。入試2週間前、3年間探し続けた息子の隠れスイッチがついに出現、自分で走り出す。取り憑かれたように栄光の過去問に取り組む。1月28日最後の授業、10年以上前の国語の過去問を4年分サピに提出して、先生は呆気に取られる。
 2月1日。麻布試験後「算数あんまできなかった」という息子と一緒に麻布十番駅へ駆け出す。まだ走れる元気がある、いざ鎌倉。
 鎌学から出てくると、「ソコソコ出来た」という息子の表情は、麻布直後より柔らかい。北鎌倉駅へ歩いていると、後ろから電車がやってきた。「走れば間に合う!」と息子は300メートルくらい暗闇の中、駅に向かってダッシュした。息子の背中を追いかけながら、私は、この元気があれば明日は絶対大丈夫、と自分に言い聞かせた…。
 雨は上がった。空を見上げつつ、試験会場から出てくる息子を抱きしめる。その瞬間すぐに息子は私の手を払った。「算数できなかった」とぽつりと言うと、大丈夫、みんなできていないから、と息子を励ますが、内心は平均点10点、10点でと祈っていた。
 2月3日曇り。第二志望の鶴見の学校へ。栄光対策がきっと役に立つはず。川崎大師で平均点10点と祈願。受検後大船へ。坂を上る人影はまばらで、昨日の行列が幻のようだ。合格発表の掲示板へ誘導されると、階段の途中で息子の足が止まった。スイッチが切れた。あるよ、あるよ、と私が息子の肩をゆすっても、反応はなかった。
 夜、明日も受けるの?と息子に聞くと、ウケル~、と返事。アロハシャツ着て南極の海でペンギンと水泳対決するような試練だ。
 深夜。お父さん、と息子の呼ぶ声が。どうした?と聞くと、ゲボしちゃった、と。息子は免疫のスイッチまで切ってしまったらしい。山手のペンギン討伐は友達に任せよう。風呂場でシーツやパジャマを洗い流す、吐瀉物まみれの汚れた手。まだ思い出にしたくない夜。

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