受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/全国版

挑戦する心を駆り立てる
多彩な教育プログラムを通して
みずから道を開く力を養う

市川中学校・高等学校 校長 及川 秀二 先生

積極的に海外に挑戦する風土
現地での体験から進路が明確に

及川 米吉先生はイートン校ともう一つ、インドの学校からも刺激を受けました。詩人のタゴールが設立した学校で、パブリックスクールとは正反対の、屋根もない、黒板が一つあるだけの緑陰学校です。でも、その木の下に座って学んでいる子どもたちがとても輝いていて、そのことが心に残ったようです。

先生写真
校長 及川 秀二 先生

神田 現在、インド工科大学デリー校が世界的にも高い評価を受けていますが、貧しい村出身の学生もいて、彼らの多くは「大学を卒業したら村に戻って次の世代を教えたい」と考えるようです。彼らが村に戻ると、子どもたちは目をきらきらさせて、「自分もあの人みたいになりたい」という思いで一生懸命に勉強するそうですね。

及川 本校は国際交流にも力を入れています。学校としてもさまざまな研修制度を設けていますが、それとは別に生徒たちが自分でどんどん海外に出ています。たとえば、文部科学省が官民合同で行う留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」では、これまでに30名以上が代表に選ばれて世界各地に行っています。それぞれテーマを持って留学するわけですが、いちばん多いのはボランティアのために行く生徒です。

 今年3月も高3の女子生徒が、フィリピンのストリートチルドレンを支援するボランティアに行きました。その生徒は、神田先生と同じことを言っていました。現地では、国の援助を受けて上級学校で学んだ人たちが、地元に帰ってきて、小さい子どもたちを教えていたそうです。その生徒のテーマは「貧しい子どもたちに笑顔を届ける」というものでしたが、行ってみたら「みんな笑っていた」と。「でも、あの子たちは自分の世界の中で満足してにこにこしているだけ。もっと違う世界を見せてあげたい」と言っていました。その生徒は医師を志望していますが、将来は海外協力隊や国境なき医師団のような形で「海外に行くことを決めた」と言っていました。

キャプションあり
上/図書館の蔵書数は約12万冊。「市川学園100冊の本」「市川アカデメイア」「土曜講座」のコーナーも設置されています
下/マルチメディアスペースには24台のパソコンがあり、調べ学習やレポート作成に利用しています

神田 人の心に寄り添う医師になれるでしょうね。人の痛みがわかるような人間に育てるには、大学生になってからでは遅すぎます。中学生・高校生の時期に実体験を積むことは、とても大切だと思います。

及川 本校は毎年「トビタテ!留学JAPAN」で7~8名ほどは海外に行かせていただいています。今年は東京大学に推薦入試で2人が合格しましたが、そのうちの1人はフィジーにボランティアに行った生徒です。「トビタテ!留学JAPAN」の代表に選ばれるにはエントリーシートが重要で、教員がそれを3か月ほどかけて指導します。最初は「なんとなく医者に」という気持ちだった生徒が、何度もエントリーシートを書き直すうちに、自分の方向性が見えてきます。そうなってから海外に行くと違います。昨年も海外に行った生徒が何人か国公立大学の医学部に合格しています。

 医師になって貧しい人たちを救いたいという生徒がいる一方、創薬で多くの人の命を救いたいという生徒もいます。先日、「トビタテ!留学JAPAN」の1期生で大阪大学に進学した卒業生が、大手医薬品メーカーに就職が決まってあいさつにきました。その卒業生は、「薬を開発して世界中の恵まれない地域の人たちを救うという夢に、一歩近づくことができました」と言っていました。わたしたち教員は進路の相談に乗るぐらいなのですが、彼らは実際にやり遂げる。そこがすごいと思います。

神田 学園の建学の精神の一つに「よく見れば精神」があります。これは松尾芭蕉の「よく見れば なづな花咲く 垣根かな」という句によるもので、目立たない花にも独自無双の美しさがあるように、教師が生徒一人ひとりをよく見て可能性を引き出すことを大切にする、ということですよね。そうした理念が、現実に子どもたちの夢を実現させていく方向に導いていることを感じます。

22年7月 さぴあインタビュー/全国版:
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