受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

子どもの力を本当に伸ばす英語教育とは?

語彙を増やそうと焦るよりも
英語を楽しめる環境づくりが大切

 2020年4月から、小学校の3・4年生では「外国語活動」が、5・6年生では教科としての「外国語」がスタートするなど、英語教育の早期化が進んでいます。小学生のうちに育てたい「英語力」とはどのようなものでしょうか。また、それを養うためには何がポイントになるのでしょうか。今回は、小・中・高等学校における英語教育の研究に長年取り組まれてきた小泉仁先生にインタビュー。小学校における英語教育の現状や課題、家庭で留意すべき点などについてお話しいただきました。

一人ひとりの個性を見極め
楽しんで学べるように対応を

広野 かつて、香港で開催された少年数学大会に子どもたちを引率して行ったことがあるのですが、その際、韓国や台湾などの小学生が流ちょうに英語を操っていて非常に驚きました。そうした国々の英語教育と日本の英語教育とでは、何が違うのでしょうか。

小泉 韓国では2001年から初・中等学校の教育課程を大きく変え、小・中・高1の一貫したカリキュラムにしました。そして、それに沿って、小学校の先生方を徹底的に指導しました。すべての小学校教員に年間120時間の研修を受けさせたのです。

 学ぶ時間にも違いがあります。韓国の小学校では英語を3・4年生で週2コマずつ、5・6年生で週3コマずつ勉強しています。ただし、詰め込んでいるわけではありません。中学進学までに学ぶ語彙数は、今の日本の小学生が学ぶ数と同じくらいです。韓国では、ほぼ同数の語彙で作られた教材にたっぷり時間をかけているわけです。

 一方、日本では3・4年生の間は「外国語活動」といって、週1時間、英語に親しめばよいという方針です。そして5・6年生になって、韓国と同じぐらいの語彙数をぎゅっと入れます。さらに中学では、学ぶべき語彙数が増え、2700という大きな数になります。小学校時代の助走が短く、中学でたくさんの語彙を詰め込むわけです。これが子どもたちにとって負担になっているのかもしれません。

 韓国の小学校で日本と同じくらいの語彙を長い時間かけて身につけるのは、限られた語彙を徹底的に使いこなす練習をしていることを意味します。先生の英語、外国人の英語、CDの英語、ビデオの英語、そういうものを浴びるように聞きながら、それに反応し表現する力を着実に身につけていくのです。こうした「英語を使う」授業が日本の子どもたちにはもっと必要です。

広野 日本人が英語を話せないのは、ネイティブの先生が少ないからだという意見もありますが、根本的な原因はそこではないのですね。

小泉 日常生活のなかで英語を使う機会が少ない点は、韓国も日本も同じです。そうだとすれば、教室のなかでの取り組みの内容が違うということです。多くの語彙をマスターさせようとすると、「読む」量が増え、さらに内容が難しくなります。そうすると和訳しないと理解できなくなり、結果的に座学が増えて、ますます「使う」練習が足りなくなると思います。

広野 日本の小学校で英語を学ぶにあたっては、どのようなことに気をつけたらいいのでしょうか。

小泉 低学年については、体系的な文法にとらわれず、「こうした場面では、こんなことが言いたいから、この表現を使ってみましょう」という授業の進め方がかなり浸透しつつあります。難しいのは、5・6年生のころですね。この時期は、表現の習得などを体感的に行うほうがうまくいく子、理屈で整理して文字で見せたほうがうまくいく子など、個人差が大きい。ですから、一つの学び方を強制するのではなく、一人ひとりの個性を見極めながら、楽しんで学べるように対応していく必要があります。

ことばは実体験を通して定着
日々の生活や遊びをしっかりと

広野 時間をかけて楽しくやれば、子どもたちはしっかりと理解して、英語が好きになるというわけですね。そのために、各家庭で気をつけたいことはありますか。


SAPIX English 代々木教室にて
〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-30-6
URL:www.sapientica.com/sapix-english/ 別ウィンドウが開きます。

小泉 英語の学び以前に、まずは日々の生活や遊びなどを通じて、いろいろな体験をしっかりと積んでおくことです。なぜなら、第一言語にせよ、英語などの第二言語にせよ、ことばは実体験と結びつくことで、きちんと定着していくものだからです。

広野 就学前に各家庭でできることはありますか。

小泉 絵本の読み聞かせが効果的です。たとえば、同じ内容の絵本を、英語版と日本語版の両方を用意して、どちらも読み聞かせてあげるといったことを試してみてはいかがでしょうか。読み聞かせは大人と子どもとの間に相互作用が生まれますから、英語を楽しむきっかけとして適しています。テレビやスマートフォンの動画については、2〜3歳くらいまではことばの仕組みや文脈を十分に理解できていませんから、その時期の言語の習得に適しているとはいえません。言語は本来、目の前の人の表情やしぐさといった非言語のやりとりと一緒に身につけていくものであるということを忘れないでください。

広野 読み聞かせをしたいと思っても、自分の発音に自信がないという保護者の方もいらっしゃるかと思います。どうしたらいいのでしょうか。

小泉 上手に発音しようと気負う必要はありません。動画サイトなどでネイティブの人の読み聞かせの様子を見て、英語のリズムなどを学ぶといいでしょう。発音の正確性を追求するよりも、とにかく保護者と子どもが一緒に、英語を「楽しい」と思うことが大事です。

広野 子どもが興味を示しても大人は気持ちをはやらせず、種まきだけして様子を見守るということですね。サピックスでも、子どもたちが楽しく英語を学べるようにとの思いから、SAPIX Englishという英語塾を開設しています。ぜひ、楽しみながら英語を学び、「時代を生き抜く力」を身につけてほしいですね。本日は有意義なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

23年11月号 子育てインタビュー:
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