受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2024年3月のBooks

 日本人は昔から山や川、道具や小さな虫など、あらゆるものに魂が宿ると考えていました。そんな考えから生まれたのが妖怪です。今月紹介する『ぼくの町の妖怪』は、主人公が町に伝わる妖怪を調査していくお話です。橋の上、坂の途中、昼と夜の間など、妖怪はそれぞれ決まった場所、決まった時間に姿を現します。そうでなくてはいけない事情があるのです。ちょっと怖くてちょっと笑える妖怪の世界、のぞいてみませんか。

『アナタノキモチ』

  • 安田夏菜=作

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,760円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

こんな家は嫌だ こんな自分じゃ駄目だ でもどうしたらいい?

注目の一冊

 それは、ひよりが風邪で保育園を休んだ日のことでした。おばあちゃんが、ひよりと同じくらいの年の男の子を連れて帰ってきました。男の子の名前はハルくん。ママの妹の子ども、つまりひよりのいとこです。ハルくんのママがどこかに行ってしまったので、ハルくんはひよりたちと一緒に暮らすことになりました。でもハルくんは何もしゃべりません。食べるのは白いご飯と卵焼きだけ。同じ時間に起きて同じ時間に顔を洗い、同じ時間にトイレに行きます。少しでも時間がずれると泣き叫んでパニックになります。おばあちゃんはハルくんに付きっ切りで世話をするようになりました。
 ある日突然、家族の一員になった自閉スペクトラム症のハルくんとの生活を、小学生・中学生になったひよりの視点と、同居するおじいちゃんの視点から描きます。ハルくんは人と上手におしゃべりすることができず、人の気持ちを考えることもできません。人の気持ちがわからないなんて悲しい。おばあちゃんもママも弟もみんな、ハルくんに優しくしてあげているのに。わたしだって人に優しくできる人になりたい。そう思うひよりですが、事はそう単純ではありませんでした。
 当たり前に過ぎていた家族の日常が、ハルくんとの同居をきっかけにぎくしゃくし、それぞれの本音がぶつかり合います。「こんな家は嫌だ。でもどうしたらいいの」。思いがけない方法で救ってくれたのは、いつもマイペースなハルくんでした。人の気持ちがわかるとはどういうことでしょう。作者の思いは、最後にハルくん自身が語る「エピローグ」で教えてくれます。

『なぞなぞどろんのもり』

  • 織田りねん=文

  • ちえちひろ=絵

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

「くるま」の真ん中が抜けたら、なあに? 古くて新しいなぞなぞ絵本

 今朝はとびきり早起きをしたひかる。窓の向こうを見ると「あれっ、いつものお庭じゃない!」。そう、そこには見たことがない森が広がり、見たことがない変な生き物がいました。「鈴」のようなものに「目」がついたその生き物は言いました。「おいらは化けているのさ。おいらの正体、あてられっか?」。ひかるはすぐにわかりました。さて、この生き物は何でしょう?
 江戸時代に流行した、絵を読み解くなぞなぞ「判じ絵」を現代版にしたなぞなぞ絵本です。ひらがなと絵をヒントに、何を表しているかを当てます。ひらがなを覚え始めの子どもから楽しめ、解けたうれしさが、ひらがなを覚える楽しさにつながります。

『ふでばこのくにの冒険ぼうけん ぼくをりもどすために

  • 村上しいこ=作

  • 岡本順=絵

  • 童心社=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け

運命は変えられる だからぼくは ぼくを取り戻す!

 ある朝、目が覚めると、修人は体が小さくなっていました。鉛筆ぐらいの大きさです。「夢なのかな?」「ここはどこ?」。するとふでばこから鉛筆が飛び出て「ここはおれたちのボス、修人の部屋だ。きみはボスに似てるけどボスのフィギュアなの?」と言いました。確かに頭をさわると、キーホルダーのような鎖があります。そして部屋のベッドには修人本人が寝ていました。
 あることをきっかけに、意地悪な性格になってしまった修人。修人から抜け出た優しさが、フィギュアの修人となって活躍します。元の修人に戻すため、ふでばこの国の仲間たちと共に立ち上がるフィギュアの修人。さて修人は優しさを取り戻せるのでしょうか。

『ぼくの町の妖怪』

  • 野泉マヤ=作

  • TAKA=絵

  • 国土社=刊

  • 定価=1,210円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け

川のこちら側と向こう側 坂の上と坂の下、 その境界に妖怪は現れる!?

 邦彦が住む森里町には、妖怪が出るとうわさされる場所がいくつもあります。お寺の西側にある小さな空き地もその一つ。そこにある灰色の大きな石から、夜中に泣き声が聞こえるというのです。人呼んで「夜泣き石」。邦彦は妖怪研究者の井上円先生と夜の調査に出かけますが…。
 妖怪好きでちょっと臆病な邦彦が、円先生と妖怪の現地調査に行く6篇のお話を収録しています。河童、天狗、ろくろ首をはじめ、かわいい妖怪、不気味な妖怪などたくさん登場します。妖怪はどんなところに現れるのでしょうか。なぜ現れるのでしょうか。その謎が解明されます。どのお話も授業の間の休み時間などにさらっと読めます。

『さんごいろの雲』

  • やえがしなおこ=作

  • 出口春菜=絵

  • 講談社=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

花の香り、鳥のさえずり 五感で楽しむ 不思議な童話の世界

 夕暮れの丘。旅のバイオリン弾きが、夕焼け空の美しさにひかれてバイオリンを奏でていると、空の雲が言いました。「いい曲ですね。弾いてくれたお礼にバイオリンに魔法をかけてあげましょう」。丘を下りて歩いていると、畑の一本道に貧しげな家がありました。ひと晩泊めてもらえることになったので、お礼にバイオリンを弾くと不思議なことが起こりました。
 バイオリンの調べ、花の香り、鳥の声、虹色の雲。五感にはたらきかける不思議な七つの物語を集めた童話集です。心温まるお話もちょっぴり怖いお話も、どこかで聞いたような、なつかしい気持ちになる瞬間があるのではないでしょうか。読み聞かせにもぴったりです。

鳥居とりいきみ子 家族とフィールドワークを進めた人類学者

  • 竹内紘子=著

  • くもん出版=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

子連れでモンゴル奥地へ 女性研究者の 波乱万丈の生涯

 明治から昭和時代にかけて活躍した人類学者、鳥居龍蔵。彼と出会ったことがきみ子の人生を大きく変えました。きみ子は当時、東京の音楽学校に通っていましたが、そのとき龍蔵が連れて行ってくれた遺跡見学会が、彼女に未知の学問への扉を開いたのです。
 人類学の発展に貢献した研究者、鳥居きみ子の生涯を紹介します。圧巻はモンゴルでの調査旅行。子連れでモンゴル奥地に入った際は苦労の連続でしたが、女性だからこそ集落で調査できたこともありました。女性に人生の選択肢が少なかった時代に、みずから道を切り拓いたきみ子。その波乱万丈の生涯を知るとともに、野外調査のわくわく感、探究のおもしろさも伝わります。

『頭のうちどころが悪かった熊の話』

  • 安東みきえ=作

  • 下和田サチヨ=絵

  • 理論社=刊

  • 定価=1,650円(税込)

どんな世界なんだろう 想像しながらじっくり 文章を味わってほしい


仙川校 校舎責任者

 クマ、トラ、ヘビ、カラスなど動物が主人公の短い寓話が7話収められています。寓話というのは、「イソップ物語」のように、人間の姿を動物にたとえて、教訓や風刺を織りこんだ物語のことです。わたしは寓話が好きです。読む人の年齢や置かれた状況などによって、一つの文章でもいろいろな解釈ができるからです。なかには子どもが抱く感想と、大人が抱く感想とではまったく違うものもあると思います。一度読んで、何年かたってからあらためて読んでみると、違うものが見えてくることもあります。
 一つひとつのお話は短く文章量は多くありません。お話によっては低学年の人でも読みやすいので、音読をしてみるのもいいでしょう。最近は、情報量は多いほうがいいと思われがちで、本も早くたくさん読むことが推奨される傾向があります。しかし、一つの作品をじっくりと味わうことも大切です。「これってどういう世界観なのかな」「このセリフにはどんな意味が込められているのだろう」。そんな幅広い読み方をできるのが読書の良いところです。この本に収められた寓話は、どれも想像と解釈の余地がたくさんある物語です。動物たちの様子や、やりとりの光景を想像し、そこからどのような「メッセージ」を読み取ることができるかを考えながら、ゆっくり時間をかけて、何度でも読んでみてください。その想像の一助となるイラストもすてきです。ぱらぱらめくって、気に入ったイラストがあったら、そのお話から読んでみてもいいと思います。
 国語の本質は、いろいろな世界観を味わって、それを自分にフィードバックしていくところにあります。「こういうお話でした」と、ただ情報を抜き出して味気なく終わってしまうのではなく、豊かな物語を味わいながら読書を楽しむ。そうした読書に楽しみと感動を見いだせたとき、その気持ちが「入り口」となって、国語力へとつながると思います。

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