受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあ仕事カタログ

「全国通訳案内士」 ってどんな 仕事をするんですか?

◎回答者
全国通訳案内士
西馬 とも代さん

 前のページでは全国通訳案内士の仕事や、なる方法などについて紹介しました。ここでは、英語の全国通訳案内士として働いている西馬とも代さんに登場していただきましょう。全国通訳案内士をめざした理由や資格試験の勉強方法、仕事の魅力などについてお聞きしました。

“日本人代表”という気持ちで接し、
相手が喜ぶことを常に考える

「お客さまを観光にご案内する日の朝は、回るスポットをイラストで示した地図をお見せします」と話す西馬さん。目で見てわかりやすい説明を心がけています

 西馬とも代さんが主に案内しているのは、カップルや夫婦、家族連れで関東近郊を観光する外国人。仕事の依頼は、西馬さんが登録している旅行会社から来るそうです。「日帰りから4〜5日までの日程で、東京都内や日光、箱根などをご案内することが多いですね。少人数ですから、電車やハイヤーで巡ります。お客さまは7〜8割がアメリカとイギリスからの方ですが、英語を話すドイツ人やブラジル人を案内するときもあります」

 この仕事をするうえで大切にしているのはどんなことなのでしょうか。

 「それは、自分が“日本人代表”という気持ちで、お客さまの思い出に残る観光案内をすること。また、困っていることはないかなど、心配りを最大限にすることです。ほとんどのお客さまが人生で初めてかつ最後の訪日という可能性が高いと思います。日本に滞在中、最も長い時間を共にするのは、ガイドであるわたしです。そんなわたしの印象が悪いと、日本人や日本のことを嫌いになってしまうかもしれませんよね」

 初めて訪問した国で、どのようにされたらうれしいか。それを、お客さまの様子を見ながら常に想像して、接するようにしているのです。たとえば、せっかくのツアー中に大雨が降ってしまった場合、正解は一つではありません。「激しい雨の中での屋外観光は後悔されるかもしれないので、美術館などの代案をご提示します。しかし、お客さまによっては『どうしても雷門に行きたい』と言うこともありますから、押しつけは禁物。お客さまの希望を常に伺いながら決めるようにしています。このような場合に備えて、代案の引き出しは、たくさん持っていることが大切です」

数ある観光スポットの説明を自分で考え、英語で書きためたノート。それを覚え、何度も何度も声に出して練習します。小さいほうの紙は持ち歩き用。西馬さんの場合、パソコンなどを使って印刷したものよりも、手書きのものを使ったほうが覚えやすいと言います。「このノートは精神安定剤の役割も果たしてくれます。これを見ると、“これだけやったのだから大丈夫”と思えるので」

 また、ツアー中は「靴のかかとが取れたから買いたい」というような要望が出ることも。そんなときに効率良く安全に行動できるように、どこにどんなお店があるか、仕事以外の日も、常にリサーチや下見を欠かしません。「お客さまとお別れするときに『ありがとう。楽しかったよ』と言われると、本当にうれしくなってしまって、こちらが感謝したい気持ちになるんです」

 帰国後に、「すばらしいガイドだった。ありがとう」というお礼のメールが旅行会社に来ることもあるそう。そんなふうに、お客さまの反応を直接知ることができるところも、この仕事の大きな魅力の一つです。

大学時代は英語会話部で活動
海外の通訳ガイドにあこがれを抱く

 子どものころから明るく活発で、人とかかわるのが大好きだった西馬さん。英語は中高生時代を通じて得意でしたが、当時はまだ小学校から英語を学ぶ時代ではなかったため、外国人と接する機会も大学生になるまでありませんでした。そんな西馬さんは、進学した大学ではESS(英語会話部)に入部。交換留学生と交流したり、海外留学をしたことのある先輩の話を聞いたりする機会もあって、海外に興味を持つようになりました。そこで、大学生のうちに広い世界を見てみたいと思い、夏休みと春休みには国際協力を行うNGO(非政府組織)が募集する海外ボランティア活動に参加し、ドイツとインドネシアに約2週間ずつ滞在しました。

 就職活動では旅行業界をめざしましたが、その希望は残念ながらかなわず、就職した銀行ではシステム設計を担当するシステムエンジニアとして働きました。しかし、海外に関係のある人と接する仕事への思いは募る一方でした。

 そこで西馬さんは、国内外のツアーで日本人観光客を案内するツアーコンダクターに転職しました。「その仕事では、海外現地の旅行先で活動している通訳ガイドとの出会いがたくさんありました。みんな優秀で親切で、すてきな方たちばかり。わたしも、日本でそのような仕事に就きたいという思いを強く持ち始めたのです」。これが全国通訳案内士をめざしたきっかけでした。

 西馬さんのように、30歳台でめざし始める人も多いそうです。しかし、その試験は合格するのが9人に1人という難関です。「早ければ勉強を始めて1年足らずで合格することもあるそうですが、わたしは4年ほどかかりました」

さっぴー

ちょっとした時間にお客さまを楽しませるために、折り紙を折るという西馬さん。子どもには怪獣やさまざまな動物を、大人にはきれいな千代紙で折った折り鶴などをプレゼントします。日本人なら誰もが知っている折り鶴も、外国人にとっては珍しく、目の前でぱぱっと折ると、「まるで魔法みたい!」と驚かれるそうです

ボランティアを経験して
英語が話せるすばらしさを実感

 合格するまでの間、西馬さんは勉強のために通訳ガイドのボランティアを経験し、アメリカ、オーストラリア、イタリアなど、さまざまな国のお客さまを案内しました。「そのとき思ったのは、英語が話せると、こんなにいろいろな国の人をお迎えして役に立てるんだということ。“なんてすてきな仕事なのだろう!”と感動しました」

 面接試験に臨む際は、自分の言いたいことを紙に書き、それを話す練習を繰り返したそうです。「書いたことを覚え、お風呂でもトイレの中でも、ひたすらぶつぶつしゃべっていましたね」と、西馬さんは振り返ります。

 今後もこの仕事を末永く続けていきたいという西馬さん。全国通訳案内士はフリーランス(個人事業主)として仕事ができるため、定年退職もなく、ずっと続けられるという点も魅力です。コロナ禍の今は訪日観光客も少ないですが、前半のページで紹介したように、日本は外国人が海外旅行で行きたい国の第1位です。コロナ禍が収まれば外国人観光客が増え、全国通訳案内士が活躍できる機会も間違いなく増えるのではないでしょうか。

「第64回 全国通訳案内士」:
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