息子が選んだ「ヤギのいる学校」
大学と隣接した校内には木々が茂り、ゆったりとした空気に包まれている。校内にはヤギがいて、小川が流れる。初めて武蔵を訪れたとき、息子の目が輝きました。
三年生の冬に中学受験を決め、いくつもの学校の文化祭をまわるところから始めました。息子はきまって縁日のコーナーを楽しみにしました。今思えば彼なりのベンチマークだったのかもしれません。武蔵の縁日がもっとも楽しかったそうで、大人の目から見ても、生徒さんたちのホスピタリティが抜群でした。そこでお土産にもらったシュルシュルのびるペーパーヨーヨーは思い出の宝物となりました。
「羊になるなヤギになれ」―自ら調べ、自ら考える校風を象徴する言葉がヤギ小屋に書かれていました。お兄さんたちにもどこか芯のある雰囲気があり、「答えを教えない」といわれる教育を身にまとっているようでした。自分で考え、試すことが好きな息子にとって、それは憧れとなって、武蔵を目指す強いモチベーションになりました。
とはいえ、三年間を全力で走り続けるのは、そう簡単なことではなく、高い目標に対し、息子の成績は乱高下しました。組分けテストの成績が落ちると、それに合わせるように、受験への気持ちも沈みました。もう勉強なんてやるもんか!と叫んで家を飛び出したこともありました。
受験の意味を見失いかけたある日、日曜日の学校へ足を運び、校内に入れてもらいました。校内をゆっくり歩くだけで、気持ちを立て直すことができました。
六年生の秋には、自信と成績のよりどころだった算数の偏差値が20近く下がり、もはやここまでかと、夫婦で天をあおいだこともありました。それでも、SSで向き合ってきた問題の積み重ねが、偏差値とは別のところで彼を支えてくれました。
そして迎えた、二月一日の朝。まだ暗い窓の外を見ながら息子がぽつりと言いました。 「今、全国の何万という受験生がみんな起きて、やるぞって思ってるのかな。みんな受かるといいのにな」
その言葉を聞きながら、まだ暗い空を見つめました。
合否発表前夜、手応えを感じられずにいた息子は、
「ヤギが、遠のいていく…」
と言いながら眠っていきました。
翌朝、その思い描いていた場所に再び手が届いたときの驚きと安堵は、言葉では言い尽くせません。振り返ってみると、「結構できた!」と嬉しそうに出てきた学校は落ちていて、「難しかった。やっちゃったかも…」とつぶやいた学校から合格をいただきました。そんなものかもしれません。
子どもたちが学びに向き合えるよう支えてくださった先生方、職員の皆さま、教材や模試、採点を通じて支えてくださった多くの方々に、心より感謝いたします。そして、どんなときも息子に寄り添ってくれた妻にも、あらためてありがとうを伝えたいと思います。