さぴあインタビュー/全国版
「普く通ずる学び」を軸に
努力を重ねる日々が
未来に羽ばたく力を育む
慶應義塾普通部 部長 森上 和哲 先生
「自分もがんばろう」と奮い立つ
100年続く「労作展」の意味
サピックス
教育情報センター本部長
広野 雅明
髙宮 普通部最大の行事といえば9月の労作展です。コロナ禍でもさまざまに工夫しながら、何とか開催されていましたね。
森上 労作展は100年近い歴史を持つ、普通部教育の神髄ともいえるものです。「1回でも途切れたらおしまいだ」と、わたしたちは思っています。先ほども言いましたが、先輩や同級生の作品を見て「すごい」「自分も来年がんばろう」と思うことが大事なのです。学校は人が集まって、人が人にあこがれる場です。それが作品においてできるのが労作展です。「たとえ無観客でも、何が何でも続けよう」という前部長の固い決意もあって、中断することなく開催しています。
広野 労作展は、どのくらいの期間で準備し、どのようなものを展示するのですか。
森上 まず教科を決めて、そのなかでテーマを考えていきます。1年生は初めてなので、5月ごろに先輩に作品を見せてもらいながら、テーマの決め方や制作の進め方について話してもらいます。それでも「ちょっと失敗しちゃったな」という結果に終わる人も多くいます。終了後に教科の教員が一人ひとりにアドバイスをしますから、来年も同じ教科をやろうと思ったら、そのアドバイスに従って、翌年に向けて1年計画で取り組みます。たとえば、慶應義塾の旧校舎の模型を作った生徒がいたのですが、彼はそもそも建物のプラモデルなんて作ったことがなかったので、その習作に取り組むところから始めていました。その後に当時の図面を起こして、実際に作っていきました。1945年5月の空襲で燃えてしまった昔の普通部の校舎も作りました。そうやって一度設定したテーマに沿って3年間取り組む生徒もいます。
もちろん、いろいろな考え方があります。労作展よりラグビーなど運動部の活動をがんばりたいという生徒のなかには、何か楽に作れる物を短時間で仕上げて出す者もいます。それでもいいのです。労作展だけが普通部ではありません。本校にはいろいろな生徒がいて、それぞれのチャンネルで活躍できる環境があります。がんばっている生徒には、わたしたちは援助を惜しみません。以前、特殊な道具を使ってダイヤモンドを作って労作展に出展した生徒がいました。大学できちんと鑑定もしてもらいました。その生徒は夏休み中も毎日学校に来て実験をするなど、試行錯誤を重ね、教員もずっと付き添っていました。求めてくれば教員は応じますし、求めていない生徒に押し付けることはしません。労作展に限らず、ほかの取り組みでもそうだと思います。
広野 進学校だと大学受験があって、どうしても学力という「ものさし」が先に立ってしまいがちです。それがない分、多くの選択肢があって、それぞれの居場所があるということですね。
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